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29.御飯だって大変

 黒フードのせいでイライラもある程度吹っ飛んだらしく、その日の晩飯は普通に食堂で取ることができた。クリームシチューがあるということでそれを頼んだら、固めのパンと温野菜サラダがついてきたのでありがたくいただこう。


「ごめんね、ジョウさん。私、外出てて気が付かなくて」

「ラセンさんは仕事だったからしょうがないっしょ。幸いムラクモが来てくれましたし」


 夕食直前くらいになって帰ってきたラセンさんが、俺と同じメニューに手を付けながら謝ってくる。宿舎の魔術を一手に引き受けているのが彼女なので、黒フード侵入の話を聞いて青くなったとのことだった。いやまあ、さすがにあれは予想外だろう、普通。


「うんまあ、そうなんだけど……ムラクモ、相手が単体だと特定部位攻撃するから」

「あれ、いつもなんですか」

「効果があるのは確かなんだけどね。……きつくなかった?」


 そしてやはり、ムラクモは元からムラクモだったらしい。俺に声を潜めて尋ねてきたのは、俺が元は男だったと知っているラセンさんならでは、かな。


「見なかったことにしてます。想像出来るだけに」

「だよねえ」


 お互い、顔ひきつらせて笑うしかないのがな。まあ、あの黒フードにはほんと、ご愁傷様というしかない。お前は相手を間違えたんだ、うん。

 そこでその話題は終わらせて、とりあえず食事に集中。クリームシチューにはチーズが入ってるみたいで、冬ってこともあって温かくて美味い。肉も柔らかいし、野菜も案外食べやすいな、これ。


「……ん、シチューか。美味そうだな」

「若、夕食くらいはしっかり食ってくださいよ」

「シチューならするっと入りそうですしね。女将、3つ頼む」


 むぐむぐと食べているところへ、カイルさんが疲れた顔して入ってきた。白黒コンビも一緒に入ってきて、俺らの食ってるのを見て夕食のメニューを確定させた模様。てか、今まで仕事だったのか。ご苦労さん。

 で、白黒コンビは別の場所に2人並んで座った。カイルさんだけはこっちにやってきて、俺の向かいの空き席にとんと指を置く。


「ここ、いいか?」

「あら隊長、どうぞどうぞ。終わったんですの?」

「ああ、もう問題はない。……ジョウ、話は聞いた。大変だったな」

「あ、いえ」


 俺がどうこう言う前にラセンさんがOK出しちゃったので、カイルさんはそのままストンと腰を下ろした。俺やラセンさんと同じシチューセット。パンをシチューの中にぽいぽいとつけながら、俺に向き直った。


「黒フードの男たちは、元からの黒の信者だったようだ。今のところ、店で暴れた理由については口を閉ざしている。……ムラクモが楽しんでいるから、そのうち口を割ると思うが」

「楽しんでるんですか」

「忍びとしては良い腕をしてるんだが、あれと使い魔好きがどうもなあ……いや、任務の時にはそれなりにわきまえてくれてるんだが」


 カイルさん、苦労してそうだなあ。もう、半ば諦め顔だよこの人。

 まあ、ムラクモのあれに関しては事情聴取でありがたいんじゃないかな。俺、他人ごとだから言ってしまうけど。


「まあ、別方向から分かってきたんだがな。……ラセン」

「あら、いいんですの?」

「事実は共有しておいたほうがいい。……皆も聞いてくれ」

「分かりましたわ」


 あ、ラセンさんも知ってることあるんだ。……それでか、帰ってくるのが晩飯直前になったの。

 つか、カイルさんの一声でそれまでざわざわしてた食堂内がしん、となった。どうやらこの話、皆に聞いて欲しいみたいだな。


「黒の信者が暴れた店の品物を調べたところ、ある種の薬物が振りかけられていることが分かったんですの。もちろん私が薬効を無効化した上で洗浄してもらったので問題はありませんが、念のため品物を回収して別の市場から新しいものを仕入れて頂きました」

「薬物?」

「依存性のある麻薬、ですわね」


 ……うわ。

 八百屋と肉屋狙ったの、それか。要するに、こっそり薬漬けにしようとかそういう。脳筋トリオ、知ったら大変だなあ。いや、もしかして先に知ってるかも。

 それはともかく、だ。


「外には漏らすな。万が一漏洩した場合、太陽神の恵みが与えられることはないと思え。その代わりムラクモが喜ぶかもしれんが」

「……Mな人、いないですよね?」

「そんな人いたら、生命がいくらあっても足りませんよ?」


 カイルさん、脅し文句にムラクモ使うのってどうよ。まあ、それを言わなくても大丈夫みたいだけど。


「……許せん。俺の愛しい人参のグラッセに被害が出たらどうするんだ」

「鶏胸肉のナゲットがなくなったらどうしてくれる」

「あんたたち、遠慮せずしばき倒しておいで。食を汚すものは食に泣くんだよ、そんなことも分からないなんて全く、黒の信者は何を考えているんだい」


 傭兵の皆さんは、仕事を終えて帰ってきた時の食事が憩いのひとときなんだよな。だから、それを奪われそうになった皆の怒りは、大変に深い。

 とはいえ、おばちゃんまでお玉振り上げて応援しないで! 気持ちは分かるし、俺もうまい飯に被害が出たらいやだけど!

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