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2.傭兵部隊に紅三点

 そのうち、傭兵さんたちがカイルさんのところに集まってきた。眼帯してる黒髪のおっさんとか、そのおっさんとよく似た顔してるのに白い髪のおっさんとか、あと中にムラクモくらいというか中学生くらいの子とか。

 下は10代なかばから、上は……うーん、親父よりは上っぽいから40代くらいまでかな。そのくらいの男の人が、10人くらい。俺についてくれてるムラクモとラセンさん除いて皆男なのはまあ、戦闘集団だからだろうな。

 眼帯のおっさんが代表して、カイルさんに報告する。


「若、奥のガサ入れ終わりました。ここに連れて来られたの、そのお嬢ちゃんだけのようです。一応荷物は押収しましたんで、後で彼女に確認を」

「分かった。それと、隊長だって言ってるだろ? コクヨウ」

「はい、済みません隊長」


 カイルさんにたしなめられて、ちょっと困ったように頭をかく眼帯おっさんがコクヨウさん、らしい。黒髪だからコクヨウ……ってことは、よく似た白髪のおっさんはハクヨウとか言うんじゃねえだろうな、おい。


「ハクヨウ、逃げた連中はどうした?」

「自分とムラクモ、それにタクトで片付けました。ただ、数名逃げられたようで」

「そうか。周囲には注意を怠るな、相手は黒の信者だ」

「はっ」


 ……ほんとにハクヨウさんらしい。いいのか、その単純ネーミング。てか、そうすると双子か何かかね。顔が似てるってのも納得。

 んで、コクヨウさんの方、カイルさんのこと若って呼んでたよな。やっぱりあれか、金持ちのボンボンが道楽で……道楽で、はないかな。いや、何となくだけど。道楽でやってるなら、もっといい装備着けてそうだし。

 そんなこと考えてたら、ふわっと肩に何かかかった。あれ、と思って見てみると、ちょっと使い古した感じの毛布。あ、でもちゃんと洗ってあるな。


「外は寒いですよ。ありもので済みませんが」


 持ってきてくれたのは、さっきちらっと見た中学生くらいの子。とはいえ、これだけ近くで見たら結構しっかりした感じなのな。傭兵なんて仕事、やってるからだろうけどさ。


「ああ、ありがとう。暖かいよ」

「え、いえ!」

「タクト、どこから持ってきた?」

「あ、少し離れた部屋が宿舎みたいな感じになってたので、そこからです」


 ムラクモのセリフで、この子がタクトって名前だとわかる。やっぱり漢字で書けそうな名前だな。

 素直にお礼を言ったら顔真っ赤にしてたけど、女子に免疫ないわけじゃなさそうだしなあ。もしかして女になった俺、可愛いんだろうか。鏡があれば、後で見てみようかね。

 ……自分が可愛くてもものすごく複雑だけどな! 俺のガールフレンドっていうならともかく、俺自身だしな!


 なんてことをわちゃわちゃ考えてたら、不意にカイルさんと視線が合った。うわー何してるんだお前、って目だわ。参ったね。

 そんな俺に苦笑しつつカイルさんは、タクトに目を移した。


「で、タクト。彼女、ジョウというそうだが。どうだ?」

「荷物に変なのありました。確認してもらわないとアレなんですが、『異邦人』じゃないかと」

「やはりか」


 『異邦人』、か。よその世界から来た人間、って意味合いなのかね。いやまさか、と思ってラセンさんに聞いてみる。


「『異邦人』って何だ?」

「ここじゃない、遠い世界から来た人って意味。たまにだけど、前例あるから」

「はあ」


 遠い世界、って言ってるけどまあ、予想通りだった。前例あるってことは、他にも来た人がいるわけか。まさか男が女になって、なんて前例はないと思うけどさ。

 ……武田のやつ、一緒に来てたりするのかな。けど、さっきここに連れて来られたの俺だけ、って言ってなかったっけか。

 別のところに行ったのか、そもそもこっちには来てないのか。


「ジョウ」

「え、あ、何?」


 考えにふけりかけたところで、ムラクモに名前を呼ばれた。一瞬気が付かなかったけど、何だかちょっと張り詰めた感じの声。周り見てみると、カイルさんも他の人たちも腰の剣に手をかけてる。

 ……やばい状況、か。俺は、おとなしくしてた方がいいんだろうな。いや何もできないし、うん。

 と、俺のそばにいるラセンさんが小さく手を動かした。次の瞬間、自分の前に手のひらを突き出す。


「光の盾!」


 途端、彼女の手のひらを中心にした感じでぱあっと眩しい光が広がった。うわ、魔法か。

 で、そこにギンギン、と耳障りな音が数回響く。からんからんと石の床に転がったのは、短い矢だった。


「はあっ!」

「ぎゃあ!」


 ラセンさんが光った直後に、コクヨウさんとハクヨウさんが動いてた。扉の向こうから顔を覗かせてた誰かと、それからいつの間にか部屋に入り込んでたらしい黒服がざっくりと斬られて、倒れる。

 あ、かすかに足音聞こえたぞ?


「もうひとり!」

「ムラクモ!」


 ラセンさんの指摘と、カイルさんの呼ぶ声と、ムラクモが飛び出すのがほぼ同時。扉の向こうに消えて数秒後、ぎゃあというカエル潰したような悲鳴が聞こえてきた。あー、こりゃやられたな。

 ……って、俺意外と冷静だな。いや直前に血まみれとか見てるせいもあるかもしれないけどさ。


「仕留めた。多分、もういない」


 割とすぐに、ムラクモが戻ってくる。頬についてるの、返り血か。

 うん、やっぱり俺、冷静すぎるな。どっかまひしてんのかね。

 もっとも傭兵の皆はこういうのがいつもなんだろうな、当然のように死体片付けてる。持って帰るのかね……どうすんだろうな、ああいうの。

 で、確認が取れたところでカイルさんが、こっちを振り向いた。


「よし。では、後始末もあることだしジョウを先に宿舎に送ろう。ハクヨウ、コクヨウ、ラセン、頼めるか?」

「俺たちがですか?」

「若のご指示であれば、構いませんが」

「だから、ハクヨウも隊長と呼べよ……」


 呼び方まで一緒か。やっぱり双子だろ、この白黒コンビ。

 にしても、俺は置いといてもしょうがないってことか。ま、確かにな。


「宿舎に行くのは構わないけど、俺はどうなるのかな?」

「まあ、とりあえずうちに泊まってもらうことになるわね。詳しいお話聞きたいし、さっき眼帯のおじさんが言ってたけどもしかしたらあなたのじゃないか、って荷物もあるみたいだしね」

「デスヨネー……って、俺の荷物なのかな?」


 ラセンさんに聞くのは、話がしやすいからだぞ。念のため。

 とはいえ、俺の荷物、か。そういえば、変なのって言ってたけどもしかして、俺のコートとかジーパンとかか? ……俺、あのカッコのままでこっち来て服脱がされて着替えさせられて以下略、ってことかよ。

 はっはっは、こういろいろと助けに来てもらってよかった、うん。階段から落っこちて気がついたら開通済み、とか洒落にならねえよ。


「ともかく、今夜はゆっくり休むといいよ。話は明日にでも聞くから」

「あー、はい。それは助かります」


 カイルさんの笑顔に、ちょっとだけほっとした。何か、普通に寝られそうだなあ。

 ……話、か。そうなると、俺もともと男でしたーってのも言わなくちゃいけないのかね。責任者くらいには、伝えたほうがいいんだろうか。責任者って、この場合はカイルさんなんだろうけど。

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