292.ともに戦う者たち
一応俺やカイルさん、使い魔たちも黒除けのお守りを着ける。いや、アキラさんが「国王夫妻用にぱわーあっぷじゃ」つーて新しいのを持ってきてくれてさ。めっちゃ軽いし、着けてる感ねえから結構楽だ。
『これだけかるいと、いくさのときもらくですね』
『ほんとだねー』
『タケダくんもソーダくんも、落とさないようにだけは気をつけるんじゃぞ?』
『はーい』
『しょうちしております』
大変ほのぼのしている使い魔たちを眺めて一安心。アキラさんもうんうん、と嬉しそうに眺めていたんだけど、ふとこっち見た。なおカイルさんと俺はペアの首飾り風。いざというときの重ねづけ用に、眼鏡タイプのものも用意してくれてる。……俺は眼鏡属性ねえんだけど、まあいいか。
「わしが聞いてもええもんかと思うたが……別働隊は、どちらさんが頭取っておるのかの?」
「ああ、店主殿なら構わんでしょう」
頭ってああ、要するに隊長さんか。そういえば、はっきり説明されてなかったんだっけ。俺とか姉上なんかは、一応聞いてたんだけどさ。
「イコン国境には、大公殿が部隊を率いて待機しておられます。すーちゃんやビシャモンはじめ、使い魔たちもやる気らしいようで」
「おや。ヒョウちゃん自らお出ましかや」
うん、さすがにアキラさんも驚くよね。俺もびっくりしたし。でもまあ、すーちゃんがいるんだから出てこないわけには行かないとか何とかだそうで、それもまあ分かる。
『すーちゃんもやる気じゃし、ワシも頑張らんといかんのう』
『ぼくもがんばるー!』
『むろん、わたしもがんばります!』
「……せーちゃんもやる気だからな。俺も頑張らないと」
「あの、そもそも王が頑張らなくてどうするんですか……」
ええい、変なところで天然ボケが残ってやがるなこのイケメン国王。俺がツッコミ入れたらはっとして、「そ、そうだな」なんてあたふたしやがってまったくもう。つか、こいつには色んな意味で俺がついてないと駄目なんじゃないだろうか。なあ。
ま、そこら辺はともかくとして、だ。はいカイルさん、続き続き。
「そ、そうだ。海岸側はスオウ殿の部隊ですね。グレンの腕の仇を数十倍、数百倍にして返したいようで」
「あー、お弟子さんですもんね」
「弟子の腕もいだ相手じゃしのう。しかし、腕だけ数百本も積まれても困るじゃろ……ひゃは、冗談じゃわいな」
俺の顔見てアキラさん、目を丸くして肩すくめて言葉付け足した。俺、どんな顔してたんだろな。てか、腕だけ数百本とか見たくもないよ。……総本山で、干からびた人たちの山積み見てるから、なあ。
腕、つーたらもがれた本人、どうしてるんだろ。カイルさん、知ってるかな。
「そういえばグレンさん、あれから会ってないんだけどどうなんですか」
「もともと体力はあるから、回復は早いよ。昨日会った時はもう、片手で剣振る練習始めてたし」
「ははは……」
早いな、おっさん。さすがに、これから全面戦争なんて状況で起きられる人に寝てろ、とは言えないしなあ。自分で自分の腕の仇、取りたそうな人だし。
着付けというか何というか済ませて、砦の出入り口へ歩いて行く。途中でアキラさんが、ふとこっちに話を振ってきた。
「そういえば、王妃様はここから何に乗っていくんじゃ? チョウシチロウやビシャモンクラスの伝書蛇はおらんし、馬には乗れたかや?」
「馬には乗れないんで、馬車なんですよ。ラセンさんのお弟子さんや姉上、イカヅチさんも一緒に乗ってくれるそうです」
実はそうなんだよねー。タケダくんかソーダくんがあれくらいまで大きくなってたら乗って行くか、ってところだったんだけど、そもそも乗馬も乗蛇もろくに練習とかできてないし。
でまあ、歩いて行くってのも王妃としては何だし、戦に向かうのにカイルさんと相乗りもないだろってことで馬車、になったわけだ。姉上やイカヅチさんは俺の護衛というか……俺が餌になって出てくる敵をぶった斬りたいらしいです、はい。
「ふむ、護衛も一緒なれば心強いわなあ。カサイのお弟子がいるのであれば、魔術による奇襲も安心じゃろ」
「はい」
その辺も考えて、ラセンさんがお弟子さんを1人付けてくれることになってる。女性なので姉弟子……というか、元は先代のお弟子さんだったとのこと。まあ、会ってみてからいろいろ考えてもいいか。何をだ。
「本当なら、国王陛下共々ラモットの城にでも放り込んでおくべきなんじゃがねえ。白の魔女ともなれば、そうもいかんわな」
「俺は今すぐにでも後送したいんですが」
「んなことして、万が一またカイルさんたちがシオンに引っかかったらどうすんですか。俺、面倒見切れませんよ」
まあ、アキラさんやカイルさんの気持ちもありがたいし、分かるんだけどさ。
でも、俺にしかできないことがあるんだから、ちゃんと行ってやらないとな。そのための、王妃様なんだから。




