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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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289.魔術師たち

カサイ・ラセン視点です。

 深夜。ユウゼの街は、シロガネ国の一部となっても相変わらず夜を知らない街だが、時刻としては深夜ということになる。

 その時刻、私は密かに小さな家を訪れた。ユウゼでは領主殿、今や国王となったカイル様、他ほんの数名しかこの家の意味を知らない。

 扉を開き、きしむ廊下を通り過ぎる時に僅かに違和感を覚える。通り抜ける人物の確認をする、カサイの先祖が作り上げた結界の一種だ。

 結界を過ぎ、廊下の突き当たりにある何の変哲もない扉を開く。そこには既に、私を待ち受けている者たちが揃っていた。

 小さなテーブルの周りに腰を下ろしているのは15名。その全てがかつての、そして今のカサイ当主の弟子として修行を重ねた、魔術師たちだ。


「長の命に応じ、我ら馳せ参じました」


 私の入室に呼応して、その全員が立ち上がり深く頭を垂れた。私は満足気に頷いてみせて、それから室内をぐるりと見渡す。


「お座りなさい。いい集まり方だと思うわ」

「はい、お褒めに預かり光栄ですじゃ」


 代表して、祖父に魔術を学んだというシュウジ翁がゆったりと答えてくれる。

 頭頂部にない分側頭や後頭部の灰色の髪を長く伸ばし、口と顎の髭も同じように伸ばした見るからに魔術師の老爺、といった出で立ち。これでも、シノーヨの大公殿下よりはずっと年下なのだけれど。


「他は、自分の場所を守っているのでしょう?」

「はい。シノーヨにマソホ、シュラン、ベニバナ、マンジュシャゲの4名が待機、イコンとの国境エリアを守っております。また、ユウゼ北の砦にコウランとバラの2名が軍付き魔術師として配備されております」

「ふむ。黒も砦を避けてくるわけね、あの2人はお父様の弟子の中でもトップクラスだもの」


 シュウジ爺の孫娘であり、父と私が魔術を教えたレイミが書類を見ながら報告をくれた。

 シノーヨとイコンの国境にいる4名は祖父の弟子であり、彼らならばまあ心配はないだろう。砦にいる2人は今言った通り父の弟子で、私がカサイの娘としての素質を少しでも受け継ぎ損ねていたらどちらかが私の婿になり、カサイの名を継いでいたはずだ。

 その彼らが現在、シロガネと黒帝国の境を守っている。魔術的防御をもう少し固めなくてはならないだろうが、それはこの後で考えればいい。

 今は、情報を手に入れなくては。


「総本山の方はどう?」

「は。こちらの弟子を2人ほど、信者に化けさせて潜入させたんですが……」


 父から私が受け継いだ弟子の1人で、珍しくイコン系の人間であるマユズミが、これまた珍しく報告の途中で口を閉じた。彼女自身はイコン系だが、弟子はコーリマやシノーヨの者で占められていたはず。


「続けなさい」

「……はい……ほどなく、黒の汚染を受けた伝書蛇だけが戻ってまいりました。それの言うことには、島に降り立った時は平気だったようですが神殿に入った途端、神官や信者たちと共にはしたない行為に耽り始めたと」

「ふん、神殿ですか。太陽神様の総本山ともあろうに、情けない」


 強力な結界で外界からの侵略を防いでいたはずの、太陽神教総本山。その結界が逆に仇となり、現在は黒の神に魔力を捧げるための浅ましい場所と成り果てている。そうなる前に、カイル様やジョウさんが一度訪問されたことがあるけれど……その時に知り合った神官たちも、とうに理性のない獣となってしまっているのだろう。


「蛇は」

「報告のあと、力尽きました。現在は隔離しておりますが、いかがいたしましょう」

「そうね……白の魔女様に祓ってもらえれば、それが一番ね。後で依頼してみましょう」


 人間よりも、ちゃんと情報を持って帰ってきてくれた伝書蛇の方がよほど利口だ。その努力に報いるためにも、せめてその身体から黒の気を祓っていただこう。

 そして、報いるために私は、今目の前にいる者たちに命令を下さなければならない。


「あなた方は、これよりシロガネ国の軍付き魔術師として働いてもらいます。期限は、コーリマ・イコン黒帝国の滅亡まで。具体的には、黒の魔女シオンの死を以って期限とします」

「はっ」


 カサイ当主たる私の命に、この場にいる者で歯向かうものはいない。だから、本当はあまり使いたくなかったのだけれど、今はそう言っている場合ではない。


「黒の気を避ける守りは、全員複数所持のこと。向こうも存在は知っていますから、破壊を狙ってくる可能性は高いですからね」


 この場に来てくれた15人の、カサイの弟子たち。私は彼らに、カサイの当主として命令を下す。


「最大の任務は、シロガネ国王タチバナ・スメラギ・カイル、及び王妃スメラギ・ジョウを黒の手より守り通すこと。これには、2人の使い魔も含まれます」


 シロガネの、太陽神様の、そして世界の守り手となるだろう、彼ら2人。それを守るために、私は命令を下す。


「カサイの名において、シロガネの王と王妃を守りなさい。我々の生命は、これよりそのためにこそ捨てられるものとする」

『カサイの名において、その命令を承りました』


 カイル様とジョウさんを守るために、私と弟子たちの生命を尽くすという命令を。

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