287.他にもお見舞い
『それじゃむらくもおねーちゃん、おやすみなさーい』
『むらくもさま、またまいりますね』
「またなー……」
伝書蛇分を充電したせいか、しばらくしてムラクモはゆっくりと休むことになった。そういや、あんまり長い時間はダメって言われてたもんな。
で、挨拶して部屋を辞した後、ラセンさんがこっち見た。何、その裏のありそうな笑顔。
「ジョウさん。せっかくですから、他の兵士たちの様子も見て行きません?」
「他のって……あー、男の人たち」
「ええ」
大怪我した『女の子』はムラクモだけ。つまり、大怪我した男はどっさりいるわけだ。ま、そりゃそうだな。シノーヨのおかん部隊みたいな、女性メインの部隊って意外とないもんだし。
でも、治療の邪魔とかならないかね。ラセンさんが見ていかないか、って言った以上大丈夫なんだろうけど。
「でも、大丈夫なんですか?」
「大丈夫なところを選んで、行っていただきたいんです。酷い方には、国王陛下が昨日行っておられるので」
「カイルさんが?」
ありゃ。そっか、カイルさん色々忙しいっぽかったけど、ちゃんとそういうお見舞いも行ってるんだ。
それなら、俺が行かない理由はないよな。
「……分かりました。行きます」
『ほかにもおみまい?』
『さきのいくさで、けがをされたかたはたくさんおられますからね』
肩の上で会話する2匹を連れて、俺はラセンさんの案内で宿舎の中を進んでいった。
男性用の階に入ると、大きい部屋があった。普段は集会とか、こっそりギャンブルとかに使ってるみたい。……金に困って変なことしない限りは、まあ良いか。
その部屋を臨時の医務室みたいに使ってるらしく、扉を開けるとぷん、と血と薬の匂いがした。あ、さすがに俺の知ってるような薬じゃなくて漢方みたいな煎じ薬とか、そんな方な。
「ジョウさんっ?」
んで、その中……ベッドが足りなくて床に布敷いたりしてあちこちに転がってる怪我人の中でまず俺に気がついたのが、タクトだった。あんまり怪我してなかったはずだよな、と思ってみたら、包帯とか薬とか抱えてる。
ああ、お手伝いしてたんだ偉いなあ、と思いながらあたふたやってくるタクトを、何かぼんやり見てた。
「どどどどうしたんですか、ここ男のフロアですよ!」
「ん、いや、お見舞い。お邪魔だった?」
「いえいえそんなことないです! みんなー、王妃様がお見舞いに来てくれたぞー!」
いや、そんな大声張り上げて言うことか? そう思ったんだけどさ、タクトの声が響いた途端怪我人の皆、床からベッドからガバッと立ち上がるんだもんな。大丈夫か、おい。
「姫様!」
「王妃様!」
「来てくださった! これで俺、また戦える!」
いやいやいやいや。それでいいのかあんたら、と慌ててラセンさんの方に目を向けたら、にっこり笑ってさあどうぞと言わんばかりに手を差し伸べてくる。だー、もう知らねえぞ、ちくしょう。
「皆、大丈夫、ですか?」
「ははは、王妃様の可愛らしいお顔を拝めたんで元気百倍でさあ!」
一応、気遣うように言葉をかけてみた。そしたら、ベッドから起き上がれない1人がそれでも元気そうにそんな答えを返してくる。腕に巻かれた包帯に、血がにじんでるよ。
んで、そいつの肩を隣のベッドから、腕吊ったもう1人がニヤニヤしながら空いてる手でポンポン叩いた。
「あー。てめえ、そんな台詞吐いたの陛下にバレてみろ、重傷者の仲間入りだぜ?」
「うげ。マジか?」
「あーもー、そういうことはしないように、俺からカイルさんに言っておきますから」
「その代わり、もし手を出したりしたら陛下に申し立てておきますからね?」
ちょっとラセンさん、せっかく俺が落ち着かせようとしてるところに油なみなみと注ぐの、やめてください。いや、というかカイルさん、マジでそんな話聞いたら相手重傷者どころじゃなくなる気がするんだけど。
『みんな、おけがだいじょうぶなの? いたくないの?』
『いたいとおもいますが、いまなおしてるさいちゅうですからきっと、だいじょうぶですよ』
「ああ、お使い様も一緒にいらしてる。よし、俺治った!」
「おっさん、あんたはは肉くっつくのに、あと5日はかかるって言われたろ!」
また別の人がタケダくんとソーダくん見てガッツポーズ取ったのに、タクトがついツッコミを入れる。ああそうか、この人たちにとっても伝書蛇は、太陽神さんのお使いなんだよな。
そういう、彼らにとって心の支えになるようなのを見せてやる。それも、王妃というか白の魔女というか、ともかく俺の役割なわけか。




