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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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284.内緒のお茶会

 しばらくして、イカヅチさんがほんとにお茶とお茶菓子を持ってきてくれた。ちゃんとティーポットあるし、伝書蛇の分ももちろん。さすがだな、と変なところで感心する。ってか、お茶会というかそこら辺の準備まで済ませてくれちゃったよ。イカヅチさん、あんた忍びじゃなくて執事じゃねえか?


『わーい、おかしもあるー』

『ありがとうございます、せーじゅさま、いかづちさま』

「よかったな。ゆっくり食べろよ?」

『はーい』

『はい』


 伝書蛇たちは、全身でわーい嬉しいなーくねくねぱたぱたとやらかしていたので、さすがにこれはえーと姉上、やイカヅチさんにも分かったようだ。一瞬だけくすっと笑って、それからすぐに顔をきりりと引き戻す。すごいな忍び。


「では、自分は外で控えておりますので、何かご用がございましたらお声がけを」

「うむ。警備を頼むぞ」


 準備を終えたところでイカヅチさんは頭を下げて、さっさと部屋を出て行った。うー、お茶いい香りするなー。もう、すっかり慣れちまった。

 気分を落ち着ける効果があるらしいそのお茶と、それから甘さ控えめさっぱりクッキーをいただく。あ、美味え。ぽりぽりぽり、と立て続けに3つほど食っちまった。腹減ってんな、やっぱり。

 でもまあ、このタイミングで姉上、と交わす会話といえば今日の戦いつーかアレ、になるわけで。


「しかし、女をそういう意味で使うとはな。黒帝国、どれだけ堕落したものか」


 ぼりぼり、と少々行儀の悪い食べ方をしつつ姉上が呆れたように毒を吐く。ま、そこは俺も同意見だが。


「さすがに皆、油断したみたいです。というか、あっちの司令官も知らなかったみたいで巻き添え食ってましたし」

「黒の司令官は自業自得だ。生きていただけマシだろう……後は知らんが」


 そこも同じ意見。最大の問題は、爆発した女の子たちは自分たちのこと分かってたのかってとこだけど、もう確認しようがないもんなあ。知ってても知らなくても、アレは酷いもん。

 クッキー1個食い終わってお茶を飲んだ後、姉上は俺のことをじっと見てきた。思わず、姿勢をちゃんと正す。


「死んだのは、ランドだけではない。それは、分かっているな」

「……はい」


 そんなの、分かってる。ランドさんだけじゃなく、やっぱり人はたくさん死んだ。敵も、味方も。

 ただ、俺の目の届くところで、俺が名前を知ってる人が死んだのが、きっとショックだったんだと思う。


「だが、その生命のおかげでユウゼの街は守られた。奴らに負けていたら、被害は恐ろしいほどになっていただろうな」


 返事ひとつしかできてない俺に、姉上はそう言葉を続けた。ん、と不思議そうな顔をしたタケダくんの、小さな頭をなでてやりながら。


「そなたも私も、黒の神に魔力を捧げるために弄ばれていたかもしれない。傭兵……いや、シロガネの軍の男どもにのしかかられて、な」


 淡々と紡がれた言葉に、ぞくりとした。確かに、そうか。

 つか姉上も、黒の気吹き込まれたイカヅチさんに襲われかけたことあるのに、そういうこと言えるなんて。というか、何だかんだで未だに側に置いてるもんなあ。

 それは、俺も大概なんだけど。カイルさんの隣にいたいなんて、よく言えたよなとか思う。


「これからも、人は死ぬ。戦である以上、それは当然のことだ」


 姉上の言葉は、まだ続く。タケダくんもソーダくんも、いつの間にかその言葉をじっと聞いている。


「その責任を全て背負え……とまでは言わんが、そなたとカイルはそのことを受け入れねばならぬ。シロガネという国の長である以上、な」

「………………はい」


 だ、なあ。

 国の王様と王妃様、ということは、このシロガネ国を背負って立つってことだ。責任全部なんてのはさすがに無理というか、配下が勝手にやったとかそういう話とかもあるけれど、でもな。うん。

 で、そこまで言ったところで、急に姉上の表情がほにゃんと崩れた。えー、ぶっちゃけて言うと、シスコンなお姉さんの顔?


「だが、それは民の前でのことだ。こうやって姉とふたりきりの時は、そんなことは考えずとも良い」


 にこにこ笑いながら、俺の手をきゅっと握ってくる。あー、やっぱ戦やってるからかまめできてる、固い手だ。

 ……コーリマ背負ってきた、手なんだ。これ。


「怖ければ怖いと言って構わぬ。私は姉だし、イカヅチは私付きの忍びだ。タケダくんもソーダくんも、こんな時の話を他の者にするでないぞ?」

『ないしょ? はーい、わかったあ』

『むろんです、せーじゅさま』


 タケダくんとソーダくんが、それぞれの翼をばさっと広げて意思表示をする。まあ、大きく頷いたし通じたよなあ……なんて思った途端、何というか視界がぐにゃりと歪んだ。


「ほら、怖かったのだろう? 構わん構わん、姉が内緒にしておく故泣け」

「ふえ?」


 テーブル越しに、ぎゅっと抱きしめられた。あれ、もしかして俺は、泣いてるわけかこれ。いや、姉上服装ラフだから胸当たりますけど、いや生見てるけど。

 ああでも、あったかくていいや。このまましばらく、あまえさせてもらう。ありがと、姉上。

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