278.まずは偵察
街の北側、前にコーリマの軍隊がぞろっと並んでたよりもだいぶ向こうに、その時とよく似た格好の軍隊が並んでいる。
俺たちはまあ、例によって門の上からそれを確認していた。白黒コンビにグレンさん、タクトやムラクモが一緒に来てくれている。アオイさんとノゾムくんは、ちょい離れたほうで指揮をとっていた。ラセンさんは念のため、別の門をチェックに行っている。前にもいたもんな、別働隊。
「シノーヨを攻めた部隊と違って、出自を隠す気はなさそうだな」
「さすがに、あの量の傭兵かき集めたなんて冗談でも通じやしませんよ。若」
半ば呆れ顔のカイルさんに、全力で呆れてるコクヨウさんが返す。まあなー、上から見りゃ分かるがあんだけ整然と並んでる軍隊が傭兵の寄せ集め、だっつって誰が信用するよ。ガッツリ訓練済みじゃねえか、あいつら。
「北の砦、破られたか?」
「いや、それにしては連中の装備が汚れていない気がする。それと、さほど疲れていないようだが」
ハクヨウさんが首をひねって呟いた言葉に、目の上に手をかざして敵軍をガン見してたムラクモが否定の答えを出してきた。つか、見えるんだあの距離で。すごいな忍び。
「そうなると……シノーヨ領に来た連中と同じく、イコン側から回ってきたってことか」
「ピンポイントでユウゼ狙いに来たってわけだな」
黒と白が、同じ顔付き合わせて頷き合う。そっか、イコンの方からぐるっと回ってきたら砦の連中とは戦わなくて済むか。こっちの警備の隙間を、縫ってきたんだろう。こっちだって、国境全部に柵作ったり鉄条網張ったりしてるわけじゃねえし。
と、カイルさんの肩の上でみょんと首を伸ばしていたせーちゃんが『ふむ』と息を吐いた。
『あの部隊、後ろ半数ほどが魔術師じゃな。不意打ちの全力魔術で壁を破り、そこから歩兵をなだれ込ませる作戦じゃったんじゃろ』
「うわあ……」
さっき、せーちゃんが魔術で受け止めてくれたの、それかー。つか、奇襲も奇襲、せーちゃんよく気づいたな……と感心してると、コクヨウさんに肩をつつかれた。
「すまん。俺らには使い魔の言葉は分からんのだが、何か言ってたのか?」
「あ、すいません。えーと」
そうだったそうだった、ムラクモみたいに何となく把握してしまう奴とかいるから忘れてた。大急ぎで、ざっと説明する。それに対して、白黒の答えは一言だった。
「荒いなー」
ですよねー。
んで、その横でなるほどと頷いてたグレンさんが、カイルさんに目を向けた。
「つか、それって魔術師使い捨てに近くないですか? 王妃殿下やラセンクラスのトンデモ魔術師がいるならともかく、もともと張ってある結界の上から魔術で壁ぶち破るなんて、マジで一発勝負ですよね」
「そうだな。だから見てみろ、その一発勝負に破れたから慌てて態勢を立て直している」
「……」
あ、マジだ。後ろ半分をその場に置き去りにして、前の方……歩兵や騎兵の部隊がのろのろと進み始めてる。ま、失敗しましたまた今度ー、なんて無理だろうしね。
なんてこと考えてたら、カイルさんに呼ばれた。
「ジョウ、あの動き止められるか?」
「できますよ。やっちゃっていいですか?」
「頼む」
動き止めるというか、遅くするなら余裕である。何しろ俺には、タケダくんとソーダくんがいるからな。だから、両肩に乗った伝書蛇たちに、指示を出す。
「タケダくん、ソーダくん。全体に闇の雨」
『はーい!』
『しょうちしました!』
そして、俺も同じように闇の雨を、敵軍の上にどばっと降らせた。ぱっと見あれだ、ゲリラ豪雨。ちょっと降らせすぎたかな、と思うけどまあ、動きが遅くなるだけで死にはしないし。多分。
『ままー』
「どした?」
タケダくんが、声を上げた。ぱたぱた翼を羽ばたかせながら、俺に報告をしてくれる。
『あのね、みんなあんまりくろくない。いちばんうしろにいるひとだけ、まっくろ』
「一番後ろ? ムラクモ、部隊の一番後ろって見えるか?」
俺の視力じゃ確認は無理なので、がっつり見えるのが分かってるムラクモに頼んでみる。しばらくそっちをガン見してから、彼女は「ああ」とそっちを指差した。
「両脇に女侍らせてる薄汚い親父がいるが、あれか?」
『それー』
『あれじゃな。初っ端にでかいのぶっ放してきた中心人物は』
「魔術師かー。ムラクモ、そいつが頭っぽい」
タケダくんと、それからせーちゃんの補足で理解。そうか、そいつが頭で、自分を中心に使い捨ての魔術師たくさん束ねて撃ってきた、わけか。
「ふむ。あの空気の読めない、デブ親父を殺ればいいのだな?」
あ、ムラクモがすっげえやる気になってる。字が違う気がするけど、気にするな。




