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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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277.黒帝国、動く

 それから4日ほど経った頃、シノーヨの大公さんから急ぎの手紙が届いた。何でも、黒帝国の部隊と思われる怪しい傭兵部隊が、ミイワを強襲したって内容らしい。


「ミイワは無事だったんですか?」

「ええ。カヅキのご夫妻とその部下のシノーヨ領北方軍、彼らが叩き潰したそうよ」

「そっか。良かった……」


 ラセンさんからの報告を受けて、ほっとした。にしても、何で目の前にあるユウゼじゃなくて、その南のミイワだったんだろ。シオンのことだから、どうせまた面倒なことでも考えてるんだろうな。


「しゃあ」

「ああ、はいはい。ええと、兵の中にイコンの魔術師がいたそうですわ。というか、襲撃してきた兵士の4分の1が彼らだったとか」


 カンダくんが便箋の1カ所をつんつんと示したところを、ラセンさんが読む。……って、イコンの魔術師、か。

 そりゃまあ、あっちは『コーリマ・イコン黒帝国』なんだし、イコンの人が軍にいてもおかしくはないんだけどな。


「ふむ。取り調べは行われているのかな」

「兵士の半数は北方軍の攻撃で死亡。残り半数のうち十数名ほど、カヅキの副隊長に襲いかかって隊長に叩きのめされたそうですわね」

「……えーと。それ、つまり発情してたってことですか」

「そうね。案外、街を落とせたら女を好きにしていいとか、そういう命令が出ていたんじゃないかしら。詳しい尋問はこれからだそうですが、あまり聞き出せると思わないでほしい、と」


 あー、そらスオウさん叩き潰すよなあ。いや、ムラクモみたいに去勢とかそっちかどうかは知らないけどさ。

 つか、確かに頭の中沸騰してるような連中に攻撃させればこう、後々捕まった時とかに情報漏れる可能性って高くないよなあ。どうせ、女にのしかかることしか考えなくなってんだろうから。

 にしても、だ。


「ユウゼ避けてシノーヨに行ったんですか、黒」

「そうらしい。ラセン、相手の考えは分かるか」

「恐らくですが、ユウゼをシロガネの領土から分断する気でしょうね」


 俺の疑問を、カイルさんはラセンさんに振った。まあ、実際カイルさんも分かってるんだろうけどさ。この人、ちゃんと頭はいいんだから。


「この街は流通が主産業ですから、その流通を切られると物資の補給がおぼつかなくなりますからね。そもそも食料自体、外からの輸入が大半ですし」

「それに、もともとユウゼはシノーヨとは少し離れているからな。ユウゼの北に砦はできたが、南側の街道沿いを攻められると厳しい」

「そっか。なるほど、分かりました」


 あれか、兵糧攻めとか何とか言う奴か。確かに飯食えなくなったら厳しいよなあ、うん。


『ワシはさほど飯なぞ必要ないが、人間は食わんと生きていけんからのう。面倒じゃがまあ、これも世の常じゃ』

『せーちゃん、ごはんたべないの?』

『必要はないが、美味いものは食べたいのう』

『では、おひるはいっしょにいただきませんか?』


 ……とりあえず、飯がなきゃこの使い魔たちのほのぼの会話も聞けないわけだしな。

 ってか、せーちゃん基本的に飯要らないのか。だから、『龍の卵』の中でもずーっと生きてたんだ。まあ、今の中身に関してはな、あれ自業自得だしな、考えないことにするぞ。今どうなってるかなんて、確認しようがねえし。


「まあ、シノーヨ側としても最前線であるユウゼを、黒に渡すわけにはいきませんからね。北方軍を、全体的に北側に持ってきてくれるようです」

「それが一番だな。恐らくスオウ殿が来てくださるだろうから、守りを固めることから考えないと」

「つっても、いずれは攻めこまないといけませんよね。ミラノ殿下とシオン、多分コーリマの王都でしょうし」

「ああ。その辺りも、考えてはいるよ」


 スオウさんたちが来てくれるならユウゼも、その北にある砦のみんなも力強いと思う。何しろ、目の前はもう黒帝国なんだもんよ。

 で、いつかはあの国境を超えて、黒帝国を叩き潰さないといけない。シオンとも、決着つけないと、な。




 不意に、せーちゃんが声を上げた。


『ちょっと揺れるぞ』

「え?」

「へっ」


 返事するより先に、ずんと何かが何かに当たるような音がした。小刻みにものが揺れるのが分かったけど、でも、何だ今のは。


「せーちゃん?」

「カンダくん」

「しゃああ!」

『外から撃ってきよったわ。あいにく、ワシの魔術で弾ける程度じゃったがの』

『まま、おそとにくろいのがいるー!』

「くろいの? 外って、どこの外?」

『まちのそとです! げんざいゆうぜぜんたいに、せいりゅうさまがまもりのけっかいをはってくださっています!』

「しゃ、しゃしゃしゃあ!」


 それぞれの使い魔が、それぞれの主に情報を伝える。あー、要するに今ユウゼの外に推定黒の部隊が攻めに来てるわけね。で、せーちゃんが魔術ぶっこいて守ってくれたと。

 そのせーちゃんは、しゅるりと空に浮かびながらカイルさんに、指示を出した。主と使い魔逆だけど、まあ緊急事態だし。


『何、しばらくワシの結界で時間を稼げる。今のうちに部隊を出せ、主』

「分かった。ラセン、せーちゃんがしばらく守ってくれている間に、うちの部隊を出すぞ」

「はい!」


 ラセンさんはカイルさんに頷いた後、素早く部屋を飛び出した。それからこっち向いたカイルさんが何か言う前に、俺が先にセリフを吐く。


「カイルさん、俺も行きます」

「……離れるなよ」

「はい!」


 ったりめーだろ。カイルさんが自分で出るの分かってんだから、1人で後ろでおとなしくしてられるか。

 俺は、あんたの隣にいるんだから。

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