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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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274.龍の双牙

 何とかかんとか、年は越せた。こっちに来て、2度めの新年ってことになる。

 結局のところ、太陽神教の総本山は何の連絡もなかった。念のため確認に送った人も、帰ってきていない。

 恐らくあの島は、完全にシオンのおもちゃになってるんだろう。あそこの神官さんって、結構外のこと知らない純粋培養多かったからなあ。……イコンにお友だちがいたあの神官さん、どうしてるんだろう。

 ちなみに、街にはもうちょっとだけ黒に汚染されてた人がいた。ので、頑張ってぺちぺち叩いた後養生してもらってる。あの女の子たちも、ユウゼ領主さんのつてでシノーヨに近いとこにある集落に養生しに行ったそうだけど、立ち直れたかなあ。


 ……さて。俺は本日、久しぶりに『マヒト工房』に来てる。この独特の匂いは相変わらずで、何というかほっとした。

 もちろん、1人じゃないというか超弩級心配性の国王陛下と、あとグレンさんとタクトが護衛としてついてきてる。いや、カイルさんがもともと用事があるからなんで、俺がくっついてきてるってのが正しいんだけどな。


「よもや、国王陛下と王妃殿下の武器を鍛えることになろうとは思いませなんだ。長生きはするもんですなあ」


 これまた相変わらずのマヒトさんは、言葉遣いが変わっていた。……ああうん、まあ国王夫妻だもんな、俺ら。

 そうして、彼が恭しくカイルさんに差し出して来たのは、いつも使ってたものよりちょっと長めで、重そうな感じの剣だった。柄も鞘も金銀、それから宝石で飾られているんだけど、意外に実用的で使いやすそうだ。

 この剣は、せーちゃんの抜けた牙をカイルさんがマヒトさんとこに預けて、鍛えてもらったものだ。……牙って、鍛えて剣になるのかね、と思ったんだけどさ。


「ふむ、重さも長さも問題ないな。どれ」

「うわ。普通に剣だ」

「ほう、こりゃなかなか……」

「しっかりとしてますけど、何というか吸い込まれそうですね。この刃」


 すら、とカイルさんが鞘から抜いた剣見て、変なこと抜かしてしまいましたごめんなさい。いや、だってマジで普通に金属の剣なんだもん。竜の牙だからほら、象牙とかそんな感じなのかなって思ったからさ。グレンさんもタクトも、感心して見てるし。

 何度か軽く素振りしてるの見ると、確かに問題なさそう……というか、かなり扱いやすそうだと思う。そうして腰に構えた鞘に収まった剣は、まるで最初からそこにあったみたいでさ。

 で、俺の抜けた台詞には、マヒトさんが答えてくれた。


「神の使い魔殿の牙は、どうやらわしらが何とか扱えるレベルの金属でできていましてな。おかげで苦心はしましたが、良いものが出来上がりましたぞ」

「そうなんですか……」


 せーちゃんの歯、金属だったんかい。改めてカイルさんの肩で伸びてる龍に目をやるけど、平然と寝たふりをしていた。……ま、トンデモモンスターみたいなもんだし、そういうこともあるんだろうな。

 さて、マヒトさんはもう1つ、何か取り出してきた。今度は俺に、差し出してくる。


「王妃様には、是非こちらを」

「ありがとうございます。……杖、ですか」

「神の使い魔殿の牙から、原料を使わせていただきました。ですので、魔術を使う際にも馴染みがよろしいかと存じます」


 金属製の……今のせーちゃんとそんなに長さ違わないくらいだから、50センチくらいかな、の杖。木の枝みたいに軽くくねっていて、片方が太くなっててそこにいくつか宝石が埋まっている、ゲームで見そうなベタなアレだ。魔術を使う際に、ってことは魔術師用で、やっぱりゲームで以下略。

 で、グレンさんが楽しそうにこっちを覗き込んできた。タクトは相変わらず、カイルさんの剣をガン見してる。


「俺にはこの手のやつは分からねえんだが、持った感じはどうだ?」

「あ、結構馴染む感じです。表面の凹凸のおかげで握りやすい」

『せーちゃんのつえだねー』

『じょうさま、われわれとおなじようにまりょくをためておけるようですよ!』

「マジか。神の使い魔すごいな」


 タケダくんとソーダくんにそんなことを言われたので、2匹に魔力を移す要領でやってみる。おお、全体的にじんわりと馴染んだぞ。やべえ、こう言っちゃ何だがさすがせーちゃん、長いことバッテリーやってただけのことはある。


「……にしても。この宝石、高そうですよねえ」

「ははは、国王ご夫妻の武器だからなあ。そうそう安っぽいもんは使えるわけがなかろうが、坊主」

「それもそっか。隊長もジョウさんも、普段からあんまり飾り気ないんで」


 タクト、全力で本音ぶっちゃけてやがる。でもまあ、俺は『異邦人』でろくにバックもねえし、カイルさんだって言われるまで王子様だったなんて分かんないくらい質素な姿だったしなあ。いきなりこんな豪華な武器持ったら、そりゃ驚くだろうさ。


「確かに、高級な石のようだな。良いのか? マヒト殿」

「無論」


 カイルさんが改めて尋ねると、ノータイムでマヒトさんは頷いた。満足気にニヤリと笑って、言葉を続ける。


「陛下の剣もそうですが、飾りに使った宝石はシノーヨから取り寄せたものですじゃ。大変に良い物でしたので、是非ご夫妻にと思いましてな」

「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」

「いやいや。大切になど、とんでもない」


 俺は素直にお礼を言ったつもりだったんだけど、マヒトさんが首を横に振った。あれ、何かおかしかったかな。


「わしは国王陛下、そして王妃殿下の御身を守るための武器を作りましたんですじゃ。武器は使われて壊れて何ぼのもの、でございます」

「ま、そりゃそうだ。だから俺たちは、マヒト工房にしょっちゅう出入りしてるわけだしな」


 マヒトさんの言葉に、グレンさんが頷いて答えた。そっか、初めてここに来た時は確か、コクヨウさんの武器引き取りに来たんだったもんなあ。


「本来ならば、お二方の御身を守るものがそうそう壊れるような扱いを受けてはならぬこと。しかし、此度の敵は黒帝国を名乗る者どもであり、陛下も殿下もきゃつらと戦う先頭に立つ、と聞き及んでおります」

「無論だ。我が母国コーリマ、そして黒の穏健派が慎ましく暮らしていたイコンを侵略した輩共を倒すためには、俺が旗印となって戦わねばならん」

「なれば、その武器は大切に飾られるものではなく敵にかざされ、道を切り開くべく使われるものでございましょう」


 カイルさんがもう一度抜いた剣は、タクトがさっき言ったみたいにまるで吸い込まれるような感じだ。これは、せーちゃんがカイルさんと、それからもしかしたら俺のためにくれた牙から生み出されたもの。

 黒帝国と、それからシオンを倒すために生み出されたものだ、と何の根拠もなく俺は思った。だから、その片割れである杖が、俺の手の中にあるんだって。

 そして。


「何、刃こぼれしたり折れたりしたならば、わしらマヒト工房が総力を上げてお直しいたしますでな。存分にお振るいくださいませ」


 つまり、武器はどうにかするから遠慮なく戦ってこい、とそういう言葉を口にして、マヒトさんは深く頭を下げた。

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