271.ひとまず潰してその先は
半日ほどかけて、なんとかかんとか落ち着いた女の子たちをラセンさんに診てもらうことにする。はー、何かどっと疲れたよ。ただ、話聞いてただけなのにな。
「おねがいしますね、ラセンさん」
「ええ。大丈夫よ、皆」
「……はい……」
俺とラセンさんに、女の子たちは言葉少なに頭を下げてくれた。ふー、まあ一応一安心?
話をしてくれた子も、してくれなかった子も、何というか一様に落ち着いた感じだ。もっとも、頭の中まではどうか分かんないけど。でも、後はラセンさんにお任せするしかないよな、と思う。
そうして俺は、カイルさんとこに向かった。一応、ちゃんと報告しなきゃならないからな。ごまかしてもさ、結局は髭親父の話とかでバレるだろうし。
「……分かった。くれぐれも、その話は内密に頼むぞ」
「はい」
んでもって、隊長室で報告を聞いてくれたカイルさんはまず、そう言ってくれた。今この部屋にはカイルさんと俺、ムラクモと白黒コンビにアオイさんがいる。その全員に向けて、だ。
で、俺の報告が終わった後、ムラクモがムスッとした顔で口を開いた。……まあ、お前さんの相手、あのクソ髭親父だもんな。分かる、うん。
「例の髭親父だが、遠慮なく潰しておきました。むしり取ってはそうそう生きていられないだろうから、縛り上げてあります」
「……どこを、とは聞かないけどさ。それはそれで、あんまり保たない気がするぞ……」
「問題ない。話を聞き終わるまで、保てばいいからな」
しれっと、恐ろしいことをぶっちゃけるのは毎度のことだけど。そうか、潰されたのか。自業自得だ、あの野郎とは口には出さないけど、皆思ってることだと思う。
なので、全員表面上は顔色ほとんど変えないまま、ムラクモの報告をおとなしく聞くのであった。
「前回と今回確保された以外にも、汚染者が数名残っているようです。丁重にもてなしてリストを作っておきましたので、確保をお願いしたく」
「分かった。コクヨウ、ハクヨウ、頼むぞ」
「任しといてください、若」
「門番にも手配をしておかないとな。街を出て行かれたら、探るのが面倒だ」
コクヨウさんは簡単に頷いて、ハクヨウさんはそのちょっと先のことを考える。この2人、双子の兄弟ってこともあるけど結構いいコンビなのかもなあ。カイルさんとも、長い付き合いだしさ。
それにしても……ムラクモ、殺しちゃいないけどある意味半殺し、ってのはよくやるよな。そういうことばっかり、やってもらってていいのかな。
『お嬢ちゃん、どうしたえ?』
「へっ?」
唐突にせーちゃんに声をかけられて、慌ててそっち向く。カイルさんの肩ででろーんと伸びている小さな青い龍は、ほにゃんと口を歪めてみせた。笑ってんだよね、あれ。
「どうした? せーちゃん」
『主よ、嫁御の気持ちは常に気にかけておけ。恐らく、お仕事関係じゃろ?』
「仕事関係?」
えー、何で分かるのかな、せーちゃん。神の使い魔って、そんなことまで分かるんだろうか。カイルさんは、まるっきり理解できてないって顔してるけど。
で、使い魔が分かると何故か理解できてしまうのがムラクモ。これはもう、特殊能力の域超えてると思ってるんだけどなあ。
「ジョウ、私の任務はカイル様の影となりお守りすることだ。そのためなら、手を汚すことなど何でもない。……それを気にしてるんじゃないか?」
「……あ、うん……」
ほんと、何でバレるんだろうなあ。もしかして、顔に出てしまってるのかね。自分で自分の顔なんて、鏡でもなきゃ見れないし。
まあ、間違ってはいないので頷くと、途端にハクヨウさんとアオイさんが口を開いた。
「何、ジョウは気にかけることはない。そういう問題は、我々が引き受けるものだ」
「そうです、殿下。汚れた問題は、配下である我々が片付けることですから」
「そういうことさ。若やお前さんが手を汚すのは、大敵と対峙した時だけでいいんだよ」
そうしてコクヨウさんが、片方しかない目を細めてそんなふうに言った。それから、口の中でボソリと続ける。
「できれば、そういうでかい手柄もこっちがもらっちまいたいもんだが」
「……はい」
……甘いんじゃね、と思う。
カイルさんだって、敵斬り殺す事を躊躇してるわけじゃないんだからさ。俺だって……まあ、完全に慣れたとは言わないけど、敵が向かってくるならそれくらい、覚悟はできてる。
でも、そんなふうに気を使ってくれるのがすごくありがたくて、俺は頭を下げることしかできなかった。
あ、だけど。
多分だけど、シオンの奴は俺が相手しないとな、とは思った。あいつ、何てーか俺に逆恨みしてるっぽいし。




