269.お持ち帰り山積み
「あ、カイルさん」
「ジョウ、無事だったか?」
ぞろぞろと皆で宿舎まで帰ってくると、ちょうどカイルさんたちも戻ってきたところだった。……えーと、カイルさんが駆け寄ってくるのはまあ通常営業として。
その後ろの白黒コンビ、そのリヤカーに積み込まれた女の子の一群は何だ……と聞くまでもなさげだな。ムラクモがやったんじゃないから、普通に縛られてるし。
「はい、大丈夫です。カイルさん、あれ……」
「……まあ、見ての通りなんだが」
「俺の担当ですか」
「そのようだ」
『まま、くろくてくろいー』
『えーと……そうですねえ』
あ、やっぱり。黒の気吹き込まれた一同ってことだね、彼女たち。はいはい、ぺちぺちしましょう。しかし、数多いな。10人くらいいるんじゃね?
「陛下も、彼女たちもご無事でございましたか」
「ああ。さすがに数が多かったんだが、せーちゃんが頑張ってくれて」
『ワシだけじゃないぞえ。コクヨウもハクヨウも、しっかり力加減してやってくれよったわ』
「そりゃ、加減しなきゃヤバいでしょうが」
アオイさんの問いにカイルさんも、その肩の上からせーちゃんも言ってくるけど当たり前だろう。脳筋トリオほどじゃねえけどパワフル戦闘員だぞ、白黒コンビ。全力で女の子と戦ったら、あっちが無事じゃすまねえって。
「まあ、そうなんだが。それよりジョウ、君は」
「あ、そうそう。ムラクモの担いでるアレが、多分本命です」
「……そうか」
逆にカイルさんに尋ねられたので、素直にムラクモの方を示す。もちろん、肩に担がれてるアレな。
カイルさんの方も、アレとアオイさんが引き連れてとぼとぼ歩いてきた一行を見比べて、まあ納得したようだ。軽く顔をひきつらせながら、視線をさり気なくそらす。
「自業自得とはいえ、あまり考えたくない状況だな」
「なので見ないふりしてます、はい」
「……うわー」
「…………」
コクヨウさんが分かりやすく口の端をひくひくさせて、ハクヨウさんが眉間を揉んでいる。あーうん、あんたらも大体何が起きたかの推測とその時の痛覚やら何やら、想像つくもんなあ。
「マリカ、すまん。とりあえず彼女たちを落ち着かせて、それから話を聞いてやってくれ」
「あ、はい、分かりました。お預かりしますねえ……はいはい、中に入って」
そのムラクモは、宿舎から飛び出してきたマリカさんに女の子たちを引き渡す。そうして、こちらを振り向くと輝くような笑顔でぶっちゃけた。
「では、先に搬入しておきます!」
「連行じゃなくて搬入かよ!」
「何しろ、持って行くからな。お先に!」
髭親父担いだまんま、さっさと入って行っちゃったよ、ムラクモ。もしかしたら、そのまま地下でえらいことに突入するやもしれん。髭親父、マジで自業自得だけど哀れだなー。
「では、私はこやつらを尋問してまいります。何かありましたら、すぐにお伝えいたしますので」
「分かった。頼むぞ、アオイ」
「は。では、お先に失礼いたします。行くぞ、おとなしくしていればさっきのあいつのようにはならんからな」
「は、はいいいっ!」
アオイさん、ムラクモを脅しの材料に使うなよなあ。いやま、おっさんずがおとなしくしてくれてりゃいいだけの話なんだけどね。
ともかく、アオイさんとおっさんずも中に入っていって。後は俺とカイルさんと白黒コンビ、それとリヤカーの上の彼女たち、か。
「ジョウ、手伝ってくれ。君に正気に戻してもらわないと、さすがに運びこむのが大変だ」
「ですよねー。すぐやります」
やれやれ、と思いながら俺はぶんぶんと素振りしてみた。ま、10人ほどならすぐ終わるだろ。
その後で、話聞くのが大変そうだけどな。何しろ、黒の気を吹き込まれたってことはかなりの確率で……、だし。




