267.罠にかかった獲物は哀れ
分かりやすく、黒っぽい連中が俺たちを取り囲む。多分ムラクモはその囲みの外にいるだろうから、何かあったらすっ飛んできて以下省略、だろう。
で、背中合わせに態勢を構えた俺とアオイさんに対して、黒フードの1人が高い声で呼びかけてきた。ありゃ女か。
「ようこそ、白の魔女王妃殿下」
「くっつけて呼ぶなよ、くそ長えんだから」
いやマジで、くっつけるなよ。シオン周りってネーミングセンス、どっかに置いてきたのか?
それはともかくとして、探してるのは男だから彼女は違う。多分、目的の奴にたらし込まれて言いなりになってるだけだろう。俺のぺちぺち対象な。
あー、つーかほんと、マジ酷いネーミング。ぶっちゃけてしまえ。
「大体、コーリマ・イコン黒帝国なんつーてきとーにくっつけりゃいいだろって感じのネーミング、ダサいんだよなあ。シオンのやつも何考えてんだか」
「我らが黒の魔女様に、何を言うか!」
「そのような考えしかできないから、黒の魔女様は我らを送り込まれたのだ!」
「白の魔女よ、おとなしく黒の前に跪け!」
「いやいや、その前に楽しませてもらおうじゃないか?」
「なるほど、もうひとりの女もなかなか良さそうだしな」
お、フードじゃねえおっさんが反撃してきた。けど、おっさん5人が5人とも分かりやすい反論してきてるなあ。えーと……スキンヘッド、白髪、どう見ても脳筋なマッチョ、口ひげ、ひょろ長体型。
さて、どれが本命かね? 軽く首をひねってたら、空気を読みようがないタケダくんがずばりと答えを出してきた。
『まま。ひげのおじちゃん、いちばんまっくろ』
「おう、マジか」
『じょうさま。くろいふーどをかぶっているのは、ぜんいんじょせいです』
真っ先にエロ親父なこと抜かしてきた、アレがそうか。黒フードは……あー、他も全部ご賞味済みってやつね。うげー。
それなら、どこかにいるはずのムラクモにとりあえず伝えるかと思って、俺は口ひげの親父を指差した。ご丁寧に俺の真正面にいやがるしな、こいつ。
「本命、髭親父!」
「は、だからどうした」
「そうか、これが本命か」
顔をひきつらせた髭親父が開き直った次の瞬間、上からムラクモが降ってきた。お前どうやってついてきたんだ、というのはあっちに置いておこ。うん、それどころじゃねえし。
「おっと、そんなんで俺は殺れねえよ?」
つか、降ってくるついでに短剣振り下ろしてるしムラクモ。それを、どこから出したのか髭親父も短剣で受け止めやがってよ。ぎん、って耳障りな金属音に、俺は顔をしかめた。
今の音を合図にしたかのように、他のおっさんズと黒フードが一斉にこっちに飛びかかってきた。ムラクモは髭親父とタイマンに突入、アオイさんが鞘付きのままの剣構えながら駆け出し、俺は両肩の伝書蛇たちに声をかける。魔力は、出てくる時にやってきた。
「タケダくん、ソーダくん、頼むよ!」
『はーい、まま!』
『おまかせください、じょうさま!』
きしゃー、と大きく息を吐いて、2匹が翼を広げる。次の瞬間、俺も手のひらに力を込めた。
『ひかりのたて!』
『かぜのまい!』
「光の盾、パンチ!」
こないだ練習した連携の応用。タケダくんの光の盾で行動範囲制限、ソーダくんの風の舞で足元すくって、俺が光の盾でぶん殴ったわけだ。なお、殴った相手は白髪とマッチョ。あっさりKOされて、べしゃっと伸びている。
「この、クソアマあ!」
「クソアマに勝てぬ貴様らは、それ以下だな!」
アオイさんが、行き掛けの駄賃じゃないけどひょろ長をキック一発で撃沈。そのままスキンヘッドを鞘付き剣でぶん殴る。まあ、さすがにばっさり行くのは気が引けたんだろう。きっと、ムラクモが面白くない。何でだ。
スキンヘッドはマッチョほどじゃないけど筋肉がしっかりしてるので、顔をしかめながらもアオイさんに反撃。あっちの武器は、結構太めの木の棒。それはそれで痛いよな、当たれば。
「オラオラオラ! 逃げてんじゃねえぞ、ぶっこんでやるから待ちやがれ!」
「ぶっこむのは私の方だな、股間で物を言うんじゃない!」
まあ、つーても基礎がなってないというかね。何で、ブンブン振り回される棒がアオイさんに当たることはない。ひらひらかわしながらアオイさんは、一瞬の隙を突いて剣をまっすぐ突き出した。スキンヘッドの喉元に。
「っ……」
あーあ。息できなくなったか、白目剥いてひっくり返っちゃった。それを見て逃げ出そうとするのは……黒フード軍団。待て待て、あんたらにも用はある。
「闇の雨!」
俺が、彼女たちの上にピンポイントでざばっと降らせてみた。途端、ずぶ濡れになった黒フードの動きが鈍る。そこへ、アオイさんが駆け寄っていった。彼女たちは、あれでいいだろ。
さてムラクモは、と。
「ふむ、それなりにやるな」
「それなりとは何だ! 貴様、ひらひら逃げやがって!」
「うむ、逃げるが勝ちと言うからな!」
えーと。
髭親父が振り回す短剣を紙一重レベルでほいほい避けながら、ムラクモも短剣を突き出すけどいまいちあたりが悪い。多分、リーチの差だな。ムラクモ、ちっこいし。
それを見て、黒フードまとめて引きずってきたアオイさんが声をかけた。
「ムラクモ! 遊んでいないで早くしろ」
「了解」
「あそっ……」
髭親父が、アオイさんの台詞に顔を歪めた途端。ムラクモは、懐からロープを取り出した。いや、いつも思うんだけどほんと、どこからアレだけ出てくるんだろうねえ。
そうしてムラクモが髭親父の周りをひらひらと舞っているうちに、そのロープはあっという間に親父ボディをまあ、その、例の縛り方でがっつりとだね。やっちまったわけよ。
そうして哀れな姿で転がった髭親父のすぐ側に降り立ち、ムラクモは満足気に笑った。
「うむ、今までで一番の出来栄えだ!」
「んむ、ぐぐうっ」
……そ、そっかあ。
いや、うん、ムラクモ敵じゃなくてよかった。マジで。




