266.陛下と殿下は見回りに
そんなわけで俺とカイルさん、あと護衛数名でユウゼの街をパトロールすることになった。なお、せーちゃんとタケダくんがそれぞれ黒の気配に敏感なので、俺たちは分かれて回ることになる。
そのせいでさ、カイルさんがすんげーこっちを心配してくるんだよねえ。
「ジョウ。何かあったら、遠慮なくぶっ放していいからな?」
「いや、俺が遠慮しなかったら多分、ヤバいと思うんですが……」
さすがに、その助言には従えないぜ国王陛下。それなりに、自分の能力がいわゆるチートだっつーのは分かってるしさ。いやまあ、実際そういう状況になったら遠慮もへったくれもない、とは思うけどね。
それに、恐らくは俺より前に動くのがいるわけで。
『ままは、ぼくがまもるからだいじょうぶだもん!』
『じょうさまとたけだくんは、わたしがまもります!』
『主ー、タケダくんとソーダくんが全力で守るから大丈夫じゃよ?』
「あの、陛下……私も殿下をお守りしますので」
タケダくんソーダくんせーちゃんが一斉にしゃーしゃー吐き出す横で、俺の護衛として来てくれるアオイさんが冷や汗かきつつ口挟んでくる。なお、ムラクモも来てくれるはずなんだけど、どこにいるのやら。まあ、忍びだからどっかにいると思おう。
で、カイルさんの方には白黒双子がついている。さすがに、王姫様付きであるイカヅチさんを呼んでくるわけにもいかないしな。
王姫様まで駆り出すと万が一何かあったら困るので、彼女には宿舎で待機してもらうことになっている。ラセンさんは、こっちについててもらってる。
さて。俺はとりあえず、カイルさんにツッコミを入れないといけないな。うん。
「というか、カイルさんも気をつけてくださいね? 前科あるんですから」
「……分かった……」
「大丈夫だって。若には俺たちがついてるからさ」
「コク、お前もジョウが言うところの前科持ちだ。気をつけないとな」
「げ」
分かりやすくヘコんでるカイルさんは置いといて。はっはっは、コクヨウさんカッコつけようとしてもだめだよー。ハクヨウさんの言った通り、あんたは王姫様に助けてもらってるんだからさ。
「でもほんと、気をつけてください。お互い様ですけど」
「……あ、ああ、そうだな。お互いに、気をつけて」
ああもう、カイルさんにヘコまれたままだと何か腹立つ。ので、ちゃんと力づけるように言葉をかけた。効果出てるみたいだけど、そんな単純でいいのかね、王様。
『まあ、主はお嬢ちゃんにベタボレじゃからの。それにワシがついとる、安心せえよ』
何というか、一番頼りになるのはせーちゃんだよねえ。こういう時ってさ。
アオイさんと共に街に出た。相変わらずムラクモは姿見えないんだけど、はて。
「ムラクモは、離れてついてきているのですかね?」
『だいじょうぶですよ。むらくもさまのけはいはかんじとれますから、ちかくにみをひそめながらじょうさまのことをおまもりしているのだとおもいます』
「そ、そうなんだ……えーと、そうみたいです」
アオイさんの疑問に、ソーダくんが答えてくれたのを全力で意訳して答える。と、アオイさんは苦笑しながら「なるほど」と頷いてくれた。曰く。
「ずっとそばにいればほぼ確実に、使い魔にデレデレしてしまいますからねえ」
「離れて見てても、似たようなもんじゃないですかね」
「少なくとも、その姿を殿下にはお見せしなくて済みますから」
そこかい。つか、そういうムラクモはいい加減見慣れてるぞ、と思うんだがまあ、彼女にも思うところはあるんだろう。
ま、ついてきてくれてるんなら問題ないな。それより、まずは黒の過激派だ。
「……と言っても、どこらへん探せばいいと思います?」
「適当に歩いていれば、そのうち向こうから生えてくるのではないでしょうか?」
尋ねてみると、アオイさんからはすっごい大雑把な答えが帰ってきた。生えてくる、て。
「草か何かですか、黒の過激派……」
「気がついたら増殖しているのですから、さほど変わりはありません。それも、周辺に害を及ぼす毒の草、ですね」
「はあ……お手入れ重要ですね、確かに」
「ですから、専門家でもあられる殿下にお出ましを願っております」
「……頑張ります」
ははは、俺は農家か何かか。いやまあいいんだけどさ。
でも、そうか。気がついたらわさわさ生えてきて周囲に毒を振りまく草、か。根っこまで駆除しないと、また生えてくるってことだな。なるほどなあ。
そんなわけでアオイさんの意見を採用、ちょっと裏の通りをメインにふらふら歩いていた。マジでムラクモ、ついてこれてるんだろうな? いやまあ、タケダくんかソーダくんがしゃーとでかい息でも吐いたら、即座に飛び出してきそうだけどさ。
そんなこと考えてるとタケダくんが、小さく息を吐いた。ぱた、と翼を広げる。
『まま』
「どした?」
『ここらへんね、うっすらくろい』
「うっすら?」
「いかがなさいました?」
思わず、足が止まる。2、3歩行き過ぎてからアオイさんが気がついて、こっちを振り返った。ソーダくんも翼広げながら、周囲に視線を配っている。あ、これはこれは。
「タケダくんが、この辺りがうっすら黒い気配がすると」
「この辺り、ですか」
『ひかりのたてっ、ぱーんち!』
アオイさんが身構えるのとほぼ同時に、ソーダくんが一発かました。俺の前に広げられた光の盾がぶんと突っ込んでいった先で、ごいんと金ダライ落ちた時みたいな音がする。
「ほら、生えてきた」
「本当でしたね。タケダくん」
『みんなくろいよー』
ソーダくんの光の盾パンチで、見事にぶっ倒された黒フードが1人。そいつを乗り越えるようにして黒フードが3人ほどと、普通の格好したおっさんが5人ばかし。
さてさて、ムラクモが縛る前にどんだけぶっ飛ばせるかね。




