263.じわじわ増殖中
お爺さんたちの事件から10日も経つと、ちらほらと黒の気受けた連中が街のあちこちで暴れ始めた。
まだ、部隊が皆出払うとかそう言う状況にはなってないけど、毎日ぺちぺちは地味に来るんだよな。ま、コーリマ王都で4桁人数相手にした時よりはマシだけど。
「ちーす」
今日、隊長室にひょこっと顔を出したのは、テツヤさんだ。別働隊の方でもちょこちょことっ捕まえては、こっちに引っ張ってくるんだよねえ。黒はらえるの、俺しかいないから。
「すんません王妃殿下、5人ほどシメたんですが頼めますかね」
「はーい。タケダくん、ソーダくん、行こうか」
『はーい、ままー』
『まいりましょう、じょうさま』
「やれやれ。毎日大変だね、ジョウ」
「まあ、俺にしかできないですし」
頼まれていやとは言えないっつーか、要は触るだけだしね。使い魔連れて、ソファから立ち上がる。
んで、当然のようにくっついてくる国王陛下を引き連れて玄関まで出てみた。おうおう、今日は普通に縛られた男女まぜこぜグループか。服装がちょっと洒落た感じだから、金持ちが旅の途中ってところかね。一応ここ最前線なんだけど、そこら辺考えてねえのな。
「うりゃ」
ぺちぺちぺちぺちぺち。途端、げほげほ咳き込む5人が吐き出した黒い気は、全員がそんなに量はなかった。どっかで吹き込まれただけ、だな。
「お手数掛けましたー。後はこっちで話聞きますんで」
「よろしくお願いしますー。あ、タクト、お帰りー」
「ただいま戻りました。……うわあ」
テツヤさんと部下が5人抱えて地下行くのを追いかけるように、タクトくんが見回りから帰ってきた。そっちの方は、特に見つかんなかったらしい。
で、テツヤさんが持ってった5人を見送ってタクトは、はあと呆れた顔になった。まあ、分からなくもない。
「増えてきましたねえ」
「恐らく、黒の過激派が潜り込んでるんだろうな。パトロールを強化しているんだが」
「なかなか見つけられませんねー。うまくごまかされてるんだと思います」
カイルさんに頷いて、困った顔になるタクト。うん、確かに黒の気振りまいてる奴が街の中にいるんだろうとは思うんだけど。
でも、前にもあったけどガチの黒過激派とか、こっちの目を器用にかいくぐったりごまかしたりするからねえ。ま、そうでなきゃこんなとこに入り込んだりできないか。
で、タクトは俺とカイルさんに目を向けてきた。……あーいや、俺たちじゃなくて俺たちの使い魔に、だ。
「タケダくんとせーちゃんが一番敏感なんでしょうが、さすがに国王夫妻の使い魔連れ回すわけにも行きませんしねえ」
『ワシ、探しに行こうか?』
『ぼく、おしごとならいくよー』
ああ、そうか。タケダくんはなにげにそこら辺敏感だし、せーちゃんは何しろ元黒の神の使い魔だ。この2匹連れ回したら見つけるのも早いよな。
「んー。俺、行ってもいいよ」
「何なら、俺が見回ろうか」
そう思ったのはカイルさんもらしく、だったら見回りに出ようかと2人して答えたわけなんだけど。
「冗談じゃないです、こっちの身にもなってくださいよ!」
タクト、泣きそうな顔して首ぶんぶん横に振った。いや、何でだよ。マジで、俺たちが探しに出たほうが早いって。
でもタクトは、まず俺を出したくない理由を全力でぶちまけてきた。
「王妃殿下に何かあったら、とりあえず隊長じゃなくて国王陛下がガチギレしてラセン殿が魔術ぶっ放したあげく、ムラクモにやりたい放題されるに決まってますって!」
……うわあ、そりゃ酷え。特に最後。つーか、ラセンさんはどうか分からんがカイルさんとムラクモはやりそうだ。あと、付け加えるなら王姫様も何かやりそうな気がする。気がするだけだけど。
「それに、お2人引っ張り出すことが向こうの目的だったりしたらどーすんですか! 特に陛下、あなた前黒の魔女に引っかかりましたよねー!」
「うぐ」
続けてタクトがぶっちゃけた、カイルさんも出したくない理由。あ、さすがにカイルさん、事実だから言葉に詰まったぞ。
いやさ、一応シオン除けはつけてるんだけどさ。でも、シオンのやつがパワーアップしてない保証はないわけで。つーか、ミラノ殿下も多分、なあ。
そこら辺考えると、さすがに俺たちが無理矢理にでも出る、という選択肢はなくなった。2人揃って降参、とばかりに頭を下げる。
「わ、分かった。おとなしくしとく……」
「す、すまん……何かあったら、出るときは出るから頼むぞ……」
「よろしくお願いします、ほんとに」
ふん、と鼻息荒くタクトはそう俺達に答えた。
そんなわけで俺とカイルさんは、基本隊長室で待機なのである。あーちくしょうシオンのやろー、会ったら覚悟しとけよー!




