256.この先どうなるやら
「まあ、あの手の姉ちゃんたちに気に入られたんなら大丈夫だろ」
何とか宿舎まで戻って、食堂でお茶をしばいている。同席してくれてるグレンさんが俺の話を聞いて、苦笑しながらそう答えてくれた。
なお、お姉さんズにおもちゃになった挙句湯あたりしたってところで爆笑しかけてアオイさんが顔面に正拳ぶっこんだ痕が赤くなってるけど、大丈夫かな。そこまで言うな、って話でもあるが。
「ああいう店は、密談にも使われることがあるからな。店の姉ちゃんたちがこっちの味方をしてくれるなら、情報をくれることだってままある」
「そういえば、あのお店のお香って伝書蛇避けとか何とか言ってましたっけ。タケダくんやソーダくんがものすごく苦手で」
「そういうことですよ。お代わりどうぞ、殿下」
「あ、すみません」
何度か『兎の舞踊』に行った時のことを思い出しながら、グレンさんの言葉に頷く。ちょうどそこへ、アオイさんがお茶のお代わりを持ってきてくれた。いや、自分で行こうとしたらアオイさんに怒られてなあ……。
「故に、彼女たちの協力を得ることができれば、情報はより正確につかめることになります。タケダくんもソーダくんもどうぞ」
『わーい。あおいおねーちゃん、ありがとー』
『あおいさま、ありがとうございます』
「副隊長、俺の分はないんすか」
「自分で取りに行け」
「へーい」
アオイさん、タケダくんやソーダくんにもお茶持ってきてくれたのに、さっきから話してるグレンさんの分はないんだ。
頼むからそう露骨に扱いに差をつけるのは……いやまあ、彼女にしてみたら俺はカイルさんのお妃ってことで特別なんだけど。俺自身は、こういう方向で特別扱いされるのは慣れてないからなあ。
まあ、この辺はカイルさんとも話してみるかな、と思いながら、グレンさんが戻ってきたので話題も戻そう。ああいうお店のお姉さんなら、めっちゃつながってる人が1人いるじゃねえか、うち。
「……ハナビさんにコクヨウさんが聞けばいいと思うんだけど、それじゃ駄目なんですかね」
「コクヨウとハナビ姉さんの仲は、ユウゼなら周知の事実と言っていいからなあ。そっちには漏らさない連中だっているだろ」
「なるほど」
ああ、それはあるか。ハナビさんにネタ漏らしたら、直でコクヨウさんに流れると考えるのが普通だよな、言われてみりゃ。だから、別のお姉さんから話が聞ける状況を作っておいた方が、こちらとしては都合がいいと。なるほどな。
ちょっと考えてたら、ちょうどコクヨウさんがやってきた。まだ日中だし、さすがにお茶頼んでるようだ。
「コクヨウさーん」
「おう。副隊長にグレンも、何のお話で?」
「うむ。今日は風呂でハナビたちと会ったのでな、その話だ」
「マジすか」
噂をすれば影、ということわざはこっちの世界にもあるらしいが、マジそれだよね今のコクヨウさん。というわけで、ちょいと突っついてみよう。
「そういえばコクヨウさん。ハナビさんから聞いたんですけどプロポーズ断られたんですって?」
「言ったのかよあいつ!」
「はは、頑張りましょうねー」
「くっそお……」
わー、ろくに話の内容も言ってないのに顔真っ赤。こりゃマジでマジか。
……ほんと、頑張らないとなあ。大きい戦いの前のプロポーズってほら、フラグだし。そうならないように、な。
などと真面目なことを考えていた俺の前で、グレンさんとコクヨウさんが何故か口論というか何というか、な状態になっていた。
「んだコクヨウ、お前振られたの?」
「振られてねえよ! 相手もいねえてめえと一緒にすんな!」
「おう、俺は独身を満喫するぜー。で?」
「黒帝国ぶっ潰してからにしろって言われたんだよ!」
「おー、そかそか」
ハナビさんの答えを口にしたコクヨウさんに対し、グレンさんは一瞬だけ真面目な顔になった、気がした。ま、すぐにんまりとおっさんくさい笑顔になって黒髪をわしゃわしゃ掻き回したんだけど。
「よーしよし、頑張ってあいつら潰そうなー終わるまで死ぬんじゃねえぞ?」
「誰が死ぬか」
「本当に、誰が死ぬかバカタレ」
コクヨウさんどころか、黙って見てたアオイさんにまでツッコミ食らってるけど、それでもグレンさんは笑顔のままだった。そうして、視線を俺に移す。
「平和になって、陛下のお子が無事誕生するまでは少なくとも死ねませんやね、俺ら」
「ん?」
「お?」
「え」
えーとグレンさん、何を言っているのかな? いやまあ、今あんたが陛下って言う相手は当然カイルさんのことだし、その子供っつーことは……って、えー。
「何でしたら、今すぐお作りくださっても私は構いませんが」
「いや、あの真面目っ子な若がこれから大戦だっつー時期に子作りに励むとは、とても思えねえんだけど?」
「そうそう。というか、ジョウがその気になるまで待つぞ、あの方」
「マジすか」
……この人ら、カイルさんが側室作らないこと前提で話してるだろ。つまり、カイルさんの子供を生むのは俺だという前提で。
ああいや待てさすがにまだそこまでは覚悟出来てねえぞ、俺は。いや、ついうっかり妃になっちまったけどさ、でもさ。
『じょうさま。ぐれんさまのおっしゃるとおり、かいるさまはじょうさまのおこころがきまるまでおまちになるとおもいますよ』
『まま、ゆっくりかんがえたほうがいいよ?』
「……は、はい」
自分の使い魔にまでそんなこと言われるとは思いませんでした、まる。つか、状況に流されそうで怖いなあ。




