254.お風呂でも女子会
「おつかれさんだねえ」
「いやいや、本番はこれからよ」
ゆっくりと湯船に浸かりながら、ハナビさんが俺とアオイさんを見て楽しそうに笑った。対するアオイさんも、目を細めてのんびりしている。
毎度おなじみ『ユズ湯』に入りに来たら、ちょうどハナビさんと顔合わせてなー。久しぶり、ってことで半身浴よろしく話し込んでいる。回りにいるのはハナビさんのご同業の人が数人くらいで、わりと客の少ない時間帯。
さて。こっちがいろいろやってる間に、ハナビさんもちょっとあったらしい。
「いや、こないだコクヨウが来てさ。真面目な顔して『俺の妻になってくれ』、だって」
「へえ、ストレートですねえ」
「変に言葉飾ったら、コクヨウじゃないからな」
いつの間にそんなことになっとんだ、あんたら。いや、それを俺が言うなって突っ込まれそうだけどな。あと、アオイさんの言葉には俺とハナビさん2人して「そうだよねえ」と頷いてしまったよ、うん。
「それで、どう答えたんですか?」
「え? そりゃもちろん、黒帝国ぶっ潰して無事に帰ってきてからやり直せと」
「きついなあ、ハナビは」
わーお、ある意味フラグぶっ立ててないかそれ。いやまあ、まず目の前の敵ってあいつらだから、どうにかしないと国も安定しないだろうけど。
つか、コクヨウさんもだけど他の皆も無事に生き延びられたら良いなあ、とは思う。うん。
『こくようおじちゃん、はなびおねーちゃんとなかよしさんだよね』
『はなびさまは、こくようさまがおつよいことをしんじておられるのですよ』
聞こえないのをいいことに何言ってるか、伝書蛇。これまた例によって桶の中でいい湯だなをしているので、傍目には気持ちいいねーくらいにしか見えないだろうな。通訳する気もあんまりない、というか多分我が身に返ってくることが目に見えてるからなあ。
なんて必死にネタ除けしてたはずなのに、いつのまにやら仲良しお2人さんの会話のネタは俺になっていた。
「……しかし、王妃殿下を娶られて即位なさってからこっち、陛下もすっかり甘々になられたものだ」
「あらあら、新しい王様は王妃様に夢中なんですかい」
「…………らしい、です」
先日の傭兵さんたちとの会話を部隊の皆に見られてから、何というかこうからかわれるというか生暖かく見守られてるというか。かんべんしてほしい、ほんと。
「まあ、ちゃんと王様のお仕事してくれりゃ、国民としては文句は言わないけどね」
それが、ハナビさんをはじめとするシロガネ国国民の意見、なんだろうな。確かに王様は、王様のお仕事をきちんとやるのが一番大事なはずなんだから。俺だってそれは分かってるし、アオイさんもそうだ。
「そこら辺はハクヨウさんやコクヨウさんもいますし、俺もちゃんと言うつもりだから大丈夫……だと思いたいです」
「ラセンも尻蹴っ飛ばしてくれるだろうから、あんまり心配はしてないのだが」
「あとムラクモの嬢ちゃんかな」
だからって、カイルさんのやる気よりも周囲の見張り番に話が行くのはどうかと思うぞ、俺たち。それとハナビさん、ムラクモはうっかりしたらカイルさんまで縛りそうなのでマジで勘弁してください、はい。
ひとしきり話し終わったところで、ハナビさんがまじまじと俺を見た。
「にしても。だいぶ可愛らしくなったよねえ王妃様」
「は?」
いきなり何を言うんだこの人は、と反論しようとしたんだけど、何か口が震えてなあ。
「ななな何言ってるんですかっ」
「ホントの事だけど?」
大変情けない反論になってしまった上に、あっさり返されてしまった。なんでやねん。
彼女だけならともかくとして。
「まあ、確かにここのところ愛らしくはなられたな、王妃殿下は」
『まま、かわいくなったよね? そーだくん』
『ええ、じょうさまはとてもあいらしくなられました』
アオイさんしれっと言わないで、あとタケダくんとソーダくんは本音だって分かるから余計にダメージでかいんだけど!
「……伝書蛇にとどめ刺されたかね」
「そのようだねえ。大丈夫かい?」
「あーはい、なんとか……」
浴槽の縁に懐いた俺は悪くない、絶対に悪くない。それと、ハナビさんの同僚のお姉さんたち、ニヤニヤ楽しそうに見るのやめて何か色んな意味でこっ恥ずかしいから!




