252.練習を頑張る
それから1週間。
王姫様とイカヅチさんは、ぼちぼち回復に向かっている。イカヅチさんなんかはもうそろそろ、剣を振り始めてたりするんだよねえ。ムラクモもそうだけど元気だな、あんたら。まあ、回復するのはいいことだ。
で、2人とも元気そうなんで俺もなんとなくやる気になって、魔術の修行を再開してるとこ。今日はコクヨウさんと一緒に、街外れの修行場まで来てる。……やっぱ一応王妃なんで、護衛いないと怒られるんだよね……。
「光の盾!」
『かぜのまいー!』
『やみのあめ!』
タケダくん、ソーダくんとの連携攻撃の練習をやってみてる。何度かやってると、2匹の方がタイミング合わせてくれるようになってなあ。
なお今の連携は、こないだのミリコんときみたいに光の盾で敵の進路を制限したところに風の舞で足止めして、上から闇の雨降らせて行動速度ダウン。ゲームで言うところの、いきなり補助魔法かけまくりってアレな。
『じょうさま。もうすこし、ひかりのたてのはつどうはんいをおおきくしてもだいじょうぶですよ』
『そだねー。おっきいほうが、いっぱいはいるもんね』
「そっか。OK、分かった」
ソーダくんはほんとに頭がいいし、一緒に勉強してるタケダくんもだんだん賢くなってきてるので俺が教えられてばっかりなんだよな。ああもう、ちゃんと本読んで勉強してるのにこんちくしょー。
んで、俺のことを側で見ててくれたコクヨウさんは苦笑しながら、こっち寄ってきた。
「……どうでもいいが、かなり意地の悪い組み合わせだな。敵にしたら嫌だぞ、あれ」
「ですかね。いや、殺傷能力高い魔術って魔力消費も多くて」
コクヨウさんの意見は、魔術掛けられる側の意見。その方がこっちも、よしもっと嫌がらせしたれとか……思ってないよ? うん、マジ。
それはともかく。俺や伝書蛇たちが攻撃魔術使ってないのは、今言った通り魔力消費でかいんだよね。少数相手ならまだしもさ、今後は多分大人数相手に使う機会も増える。
そうなると、直接攻撃する魔術はものすごく効率が悪い。使い魔に使ってもらうにしても、元は俺の魔力なわけだしな。あっという間に魔力切れを起こすわけよ。
……まあ、他にも補助系の魔術練習してる理由はあるんだけどね。
「そりゃそうだな。王妃殿下に先頭切って魔術で敵ぶっ飛ばしてくれ、なんて配下が言うのもおかしいし」
その理由をズバリ、コクヨウさんが言ってくれた。ははは、そういうこと。国のトップに先頭立って大魔術使わせるなよ、って言うのが軍人さんとかのプライドにも関わるらしい。
「こっちの方が相手の動き止められるから、助かるぜ。後は俺たちが任される、血を見るのは俺たちの役割だからな」
「済みません、何かいろいろ」
「こら、謝るな」
俺が敵の動きを止めて、その相手をコクヨウさんたちが倒す。それが、何というか人の役割ってものらしい。でも、俺が謝ったらいけないのかな。
でもコクヨウさんは、俺の頭を軽くなでてくれてそれから、言葉をくれた。
「少なくともな、俺はお前さんが若の妃だからとかそういう理由でついてきてるわけじゃねえし。つかそれ以前に、助けられてるしな」
「あー……はい」
いや、助けたって触ったら黒の気が落ちるかどうかっていうテストだったんだけど。でも、コクヨウさんにしてみれば助けられた、ってことになるのかな。
「んだから、お前さんはあんまり人を殺るような魔術は使うな。若はどうしても斬らなければならないこともあるだろうがな、それを減らすのが俺たちの役目だ」
「……はい」
そっか。
カイルさんは馬に乗って剣を振りかざして突っ込んでいくような人だから、俺よりもアレなんだよな。国王なのに、と思ったけどゴート陛下もそういう人だったっけか。この辺、血は争えないってやつね。
でも、コクヨウさんやハクヨウさん、他の皆はカイルさんより先に敵を斬って、カイルさんをなるべく危なくないようにしてくれる役目で。
………………あのな、俺。カイルさん一番に考えるわけ? いやもう、あんまり否定はしないけど。曲がりなりにも嫁になったわけだし。
なんてこと考えてたら、変な声が変な方向から入ってきた。
「その御方が王妃様かい。ちんちくりんだなあ、おい」
「……はい?」
声の方見たらあー、全力で分かりやすい山賊……じゃないや。確か、コーリマの領内からこっち来た傭兵部隊の人たちだ。もっとも、声かけてきたらしいヒゲモジャのおっさんと他3人ほど以外はあーあ、なんて顔してこっち見てるだけだけど。
「ツッツの郊外を守ってたんだが、黒には下りたくなくてな。こっちが兵士探してるっつーんで、わざわざ来てやったんだが。このおちび様守れってか?」
「貴様ら、無礼を抜かすと許さんぞ」
うんまあ、おっさんたちに比べたら俺ちっこいだろ。男の頃からそんなに大きい訳でもなかった上に、今女の身体になってだいぶ小さめになってるし。
ただ、相手の言い草にはさすがにコクヨウさんが怒って剣の柄に手をかけた。おいおい、と止めようとしたんだけどコクヨウさん、こっちガン睨みしてきやがった。黙ってろ、ってことみたい。タケダくんもソーダくんも、軽く威嚇の姿勢を見せながら息は吐かずにいる。
「へえ、どう許さねえって言うんですかい」
「こういう風にだが?」
でも、おっさんたちのチンピラちっくな台詞に答えたのは、コクヨウさんじゃなかった。次の瞬間ひょい、と俺よりちっこい影がおっさんたちの間に潜り込み。
「むぐぐう」
「おご……」
「ふむ、少々力が入りすぎたか」
ムラクモが満足そうにこっちを振り向いた時には、例によって例のごとく特殊な縛り方の塊が4つ転がっていた。じたじたうめいてるけど、痛そうなのはしょうがないよな。見なかったことにしよう。
「まあ、腐りはせんだろうから安心しろ、数日使い物にはならんだろうがな」
「……ムラクモ、来てたんだ」
「カイル様から、ジョウが心配なので見てきて欲しいと頼まれてな。ついでに、何かあったら存分にやれという許可は出ている」
っておいおいおい。数日使いものにならないって、どんだけきつく締めてんだよ。はははまじで見なかったことにするぞ、俺は。
コクヨウさんなんて現役男だから、余計に顔引きつらせてるし。慌てて拾いに来た他の傭兵さんたちにも、一応言いおいてはくれたけどさ。
「……同じ男として痛みは分かるが、まああきらめろ。王妃殿下と使い魔全般に悪口を吐いたら、彼女が許さん」
「タケダくんもソーダくんも愛らしいのだから、致し方ないだろうがっ」
『わーい、むらくもおねーちゃんすごいねー!』
『めにもとまらぬはやわざはさすがです、むらくもさま』
ムラクモの台詞はもう毎度のことなので、あきらめることにする。でもなタケダくんソーダくん、お前ら感心するのそこか、とツッコミそうになってやめた。普通にうん、と答えられそうだったしな。




