251.実は義姉と義妹
夜になってからやっと、馬車込みで一行はユウゼに到着した。王姫様とイカヅチさんはすぐに宿舎の方に連れてって、ラセンさんにざっと診察してもらう。
イカヅチさんが先に王姫様を、というんでまあ順番はそうなった。仕える主より自分が先に診察されるのは納得いかんのだろうね、うん。
で、例の魔道具でチェックしたラセンさん曰く。
「お怪我の方は良くなっていますわ。膿んだりもしていないようですし、安静になさっておられれば大丈夫だと思います」
「そうか。ホウサクの手当は的確だったのだな」
へえ、あの人そういう特技というかあったんだ。……何で身分詐称とかしてたんだろうな、分からん。
「しばらく様子を見て、もう少し安静が必要でしたらラモットの方に移動していただくことになりますね」
「承知した。イカヅチの方もしっかり診てやってくれ、あれはあれで無理をしているんだ」
「承知しております」
王姫様が肩をすくめるのに、ラセンさんも苦笑で答えていそいそと部屋を出て行った。あ、前に王姫様が泊まった部屋が結局専用部屋になってたりする。慣れた部屋がいいよね、ってことなんだけどね。
で、その部屋をくるりと見回して王姫様は、俺に向き直った。部屋も近いんで、一応側にいたほうが良いかなって思ってさ。
「しかし、王となっても住むところは相変わらずなのだな」
「城を建てるより先に、することがありますからね」
うん。お城造るのってさ、人も資材もお金もすごく使うから大変なんだよね。今はぶっちゃけ、それどころじゃねえし。目の前でシオンが高笑いしてるかと思うとなあ。
それにまあ、でかいお城なくても何とかなるし、というかしてもらってるし。それを、王姫様に伝える。
「ラモットの砦の一部を改修してるそうですから、黒帝国との間が落ち着いたらそちらに移ることになると思います」
「ユウゼが都ではないのか……まあ、そうだな」
一瞬だけ王姫様はびっくりしたみたいだったけど、すぐに納得してくれた。もともと都、なんていう風情の街じゃないしね。
「この街は今のままにしておいたほうがいい。コーリマが落ち着いてくれれば、北との物流も復活しよう」
でも、王姫様が考えたのはもっと先の事だった。この辺、俺と違ってちゃんとした王女様なんだなあ、って思う。
「その拠点としてこのユウゼは、都ではなく商いの街としてこのままあれば良い。領主殿は、そのままなのだろう?」
「はい。その方が住民たちも納得してくれますので」
ユウゼとシノーヨがくっつくに当たって、ユウゼの領主さんをすげ替えるとかそういう話は全くと言っていいほど出なかった。今の領主さんにはいろいろお世話になってるし、あの人がトップだからユウゼはうまく行ってると言っても過言じゃねえしな。
なんで、ユウゼの街の領主はこれからもケンレン・ヨリモさんその人のままである。うん。これには王姫様も異存ない模様。あっても何とか説得するつもりだけど。
さて、ユウゼの街についてはもうひとつ、心配事がある。そこは王姫様も分かってるみたいで。
「後は……まあ、目の前の冬か。黒帝国も近いしな、赤子や心の弱いものが狙われよう」
「レッカさんに頼んで、お守りを配布したりしてるですが……まだまだ総本山も大変らしくて」
「神官長が決まっていないのだったか?」
「はい。いい加減くじびきなり何なりで決めりゃいいと思うんですがねえ」
「さすがに、戦で決めろとは言えないからな」
だよねー。漏れ聞く噂ではコンゴウさんとテンクウさんあたりが競ってるらしいけどさ、いつまでもごちゃごちゃやってんじゃねえよと思う。これは俺やユウゼの皆だけじゃなくて、全世界の太陽神教信者の意見だろうな。
ま、つーてもこっちはこっちで何とかするつもりだけどさ。
「その辺はタケダくんやソーダくんもいますし、ラセンさんも力を貸してくれるはずです。あと、せーちゃんも」
「神の使い魔、か。ならば、かなり安心できるな」
「最悪、俺がタケダくんと一緒に行って殴りゃ済みますしね」
「……ジョウは王妃なんだから、余り表に出すわけにもいかんだろう。カイルも心配するだろうし、危険だ」
いや、マジで最悪の場合は俺が出ないとアレだと思うんだよね。敵、シオンだし。
でも、王姫様は俺のこともカイルさんのことも心配してくれてるから、なるべくおとなしく……したいなあ、うん。
つか本当、カイルさんが俺のこと心配したら何するか分かんねえし。




