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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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247.人間やればできるらしい

 多分、あの人だと思うんだけど微妙に確信できないんだよねえ。確認のためにも聞いてみるか、うん。


「た、助かった。ありがと」

「間違ってたら済みません。ラータで会いましたよね?」

「へ? ……あ」


 いや、何つーかありがとうまで言わせないうちについそんなこと言っちゃったんだけどさ。おっさん、こっち見て何度か目をパチクリさせて、それでげっやべえって顔をした。何だマジ本人か、と思った瞬間。


「あばばばば」

「待て。なぜ逃げる」

「あががががいぎ、いぎどまるう」


 おっさん、腰抜かしたまま四つん這いで逃げ出そうとした。そこへ、ムラクモが無造作に首根っこ捕まえてずるずる引きずってきた。

 前にあったことはともかくとして今はそもそも逃げる必要性ないはずなんだけど、前が前だからなあ。

 で、引きずられてきたおっさんを見てコクヨウさんが、腕組んで首ひねりながら俺に聞いてきた。


「……ジョウ、見覚えあんのか?」

「あの、多分なんですけど。カイルさんのお母さんのお墓参りに行った時に、ラータで」

「あ」


 俺の指摘に、ムラクモがぽんと手を打った。カイルさんは……顔を覗き込んでそうだっけ、という感じで首かしげる。まあ、顔の印象薄いからな。


「思い出した。カサイの直弟子騙って、ナガト殿に引っ立てられてったボンクラだ」

「ああ、そうか。そういえば」


 ムラクモの台詞に、やっとこさカイルさんも思い出したみたいでこくこく頷く。やったことのほうが印象強いもんなあ、そりゃ顔見てもあやふやなわけだよ。

 で、コクヨウさんはガリガリと髪を掻きながら呆れ顔になった。


「んだ、なら俺は初対面だな」

「ひいいいいいもうしてません詐欺も食い逃げもしてませえええええん」


 ふう、と溜息をつくコクヨウさんの足元でおっさん、もう涙目というか鼻水出てねえか。大丈夫かいい年こいて。

 っていうか、そうなんだよな。あの時はハクヨウさんが一緒に来てくれてて、コクヨウさんはユウゼでお留守番だったからこの人の顔、知らないんだ。

 知らないからか、呆れながらもコクヨウさんはおっさんに、当然のように手を貸して立たせた。


「てーか、さっき賊共から村守ってたのあんたか。1人で頑張ったな、ほらよ」

「は、はひ……」


 立たせたというか、持ち上げられたというか。一応自分の足で立てたみたいだけど、すんげーふらふらしてる。へろん、とコクヨウさんにもたれたところで、俺も含めて全員が気がついた。

 そうだ。この人、さっきの推定山賊さんからミリコの村守ろうとしてたんだ。1人で。カサイの直弟子騙ってた頃からするとさ、すごい進歩じゃね?


「うむ。さすがにそこは私も感心した」

「そういえばそうか……大変だったんだな。よく頑張ったよ」

「へ、へい……」


 ムラクモも、そしてカイルさんも苦笑しながらコクヨウさんに続く。俺も何か言わなくちゃな、と思ったところでタケダくんと、それからせーちゃんが同時に声を上げた。


『ままー。おじちゃん、まりょくぎれみたい』

『主。その魔術師、魔力が切れておるぞ』

「え、マジ?」

「無理をしたな。大丈夫か?」

「は、はは……なんとか、はい……」


 魔力切れっすか。しばらくおとなしくしてれば、歩けるくらいには回復すると思うけど。まあ、こっちには馬もいるから大丈夫か……って、馬どうしたと思ったけどちゃんと地面に降りて待ってるよ。今更だけど、しつけしっかりしてんなー。


「ホウサクさまー!」

「魔術師さま、だいじょうぶですかやー」


 遠くから、しゃがれた声が聞こえた。分かりやすく言うと、お年寄りの声。で、ぜーはー言いながら走ってきたのはお爺ちゃんが2人。作業しやすい農民さんスタイルで、たすき掛けっていうのか、している。


「こ、こっちは大丈夫だー」

「ホウサクさま、よかったなあ。まっこと、ありがとうございますよう」

「あ、ああ、今日は援軍も来てくれたから、な」


 寄ってきたお爺ちゃんたちと話をしてるとこ見ると、この人それなりに頑張ってるみたいだなってのは分かった。そうでなきゃ、お年寄りが心配して走って来てくれるなんてないだろうしさ。

 そういえばおっさん、ホウサクって名前だったんだっけ? どうしても思い出せないんだけど、まあホウサクさんでいいんだろうな。よし。


「援軍様ですかや。ありがとうございますよ」

「援軍といいますか、シロガネ国よりこちらに様子を見に来たのです。ここしばらく、この近辺の情勢が厳しいので何かあったらと思いまして」


 代表してムラクモが話をする。コクヨウさんが話しかけたら何か怖いだろうし、俺は口出すタイミングなくしたし。カイルさんは王様なので、後ろでゆったりしてろ。

 で、ムラクモの言葉にお爺ちゃんたちはこっちを見て……俺とカイルさんを見比べて、目を丸くした。


「おお、おお。新しい国の王様と王妃様かね、もしかして」

「あ、話来てたんですか」

「ちょいと前に、旅のお方が来られてのう。その時に聞いたんじゃ」


 何か、一発でバレたし? というか旅のお方、ねえ。

 ちらりとムラクモに目をやると、うっすら微笑んだだけだけどまあ、あの目はそうだな。

 ムラクモのご同業の人だ。王姫様らしい人がここにいるって情報持ってきてくれた人。その人が新しい国ができて、新しい王様が誕生したんだって教えていったんだろうな。


「そうそう、前の国の王子様が新しい王様になられたと聞きましてな。何しろ、前の国の姫様がホウサクさまのお家で寝込んでおられてるもんでのう」

「王様は姫様とよう似ておいでですからの。それでよもや、と思いまして」


 んー?

 いや、確かに前の国、つまりコーリマの王子様だよ、カイルさん。

 でも、そのカイルさんとよく似てる前の国の姫様って……つまり、だ。


「姉上」

「は、はい。間違いなくセージュ王女殿下でございますよっ」


 ホウサクさん、の言葉をカイルさん、ちゃんと聞いてないだろ。でも、そうか。

 マジで王姫様、ここにいるんだ。

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