246.小さな集落へ
空の上、と言ってもあんまり高くないところを、馬が2頭平行して飛んでいる。俺は例によって、カイルさんの馬の鞍にしがみついているところだ。一緒に来てるのはコクヨウさんで、そっちにはムラクモが同乗している。
ちょっと離れたところで、ぱっと見山賊っぽい1人が光の盾に弾き飛ばされた。あ、俺が出したんじゃないぞ。
「低空飛行に移りますぜ、若」
「了解、ジョウはしっかり掴まっておいで。ムラクモ」
「いつでも行けます」
これまた例によって俺には甘いカイルさんなので、ムラクモがあっちの鞍の前で戦闘準備万端だ。
なお、王と王妃が一緒に出てくんじゃねえよとか、せめて別の馬に乗れとかいうツッコミはなしで。したところでカイルさんが聞くわけないんだけどね……つーか、何でこんなことになったのかというと、だ。
今朝、ムラクモがちょっと慌てた感じでやってきたんだ。
「ミリコに入った忍びより連絡がありました。数週間前に若い男女が行き倒れていて、現在も保護されているようです」
「ミリコに?」
「詳しいことは聞けなかったようなのですが男は黒髪、女は金髪でそれなりの身なりをしていたようです。あと、馬も1頭保護されているとか」
ミリコはユウゼとラータの間……というか、そこを通る街道から少し外れたところにある小さな集落。向こうでいうところの限界集落で、住んでるのは基本的にお爺さんお婆さんばっかだとか。食料なんかはほそぼそと耕してる畑と、たまにやってくる旅商人さんとの物々交換とかでどうにかなってる模様。
で、そのミリコに若い男女が保護されてる。男黒髪、女金髪。馬も一緒に。
「……カイルさん。もしかしたら、セージュ殿下じゃないですか?」
「まさか……」
「可能性、ないわけじゃないですよね。少なくとも、行方不明なんですから」
一緒にいる男の人、がちょっと気になったけど、考えてみりゃムラクモのお兄さんが王姫様のおつきをやってるんだよな。あの人、黒髪だったはずだ。シオンにエロ洗脳されてた時の印象が強いけど。
「お命じいただければ、すぐにでも確認に向かいます」
「いや、俺が行く。ジョウも一緒に来てくれ」
「は?」
「はい?」
いや、ムラクモが確認しに行くつーたろが。いくら何でも、俺とあんたが一緒にユウゼ出て大丈夫なわけないんじゃねえの?
「あのカイルさん、国王と王妃が一緒に国出たらやばくないですか」
「しかし、姉上ならば俺が確認しに行くのが一番早い。万が一黒に汚染されている、かもしれないんだからジョウ、君にも来てもらいたいんだ」
『主、理論武装上手いのー』
せーちゃんが呆れてるじゃねえか、おい。いやまあ、言ってることは分かるよ。その万が一があった場合、俺が一緒にいれば手っ取り早く何とかできるからさ。
『まま、せーじゅおねーちゃんあいたい』
『もしせーじゅさまでしたら、いっこくもはやくおたすけしたいです』
「うっ」
ただ、最近ムラクモがかなり伝染ってきたのか2匹の伝書蛇に弱くなってきました、俺。だよなあ、ソーダくんなんて親御さんはフウキさんと一緒にコーリマ守ってたんだし。タケダくんはまあ、タケダくんだし。
そんなわけでこうなった。ああ、馬にはどうしようとかいう間もなくカイルさんに乗せられたんで、もうな。
さすがに2人だけで出すのは大問題だ、っつーことでコクヨウさんとムラクモもついてきてくれることになったわけなんだけど、もうちょっとでミリコだってところで皆気がついた。それが、さっきの光景だ。
ほんと、小さな集落なんだけど、そのすぐ手前のところで何か戦いが始まってた。と言ってもミリコ側は魔術師が1人で奮戦中で、そっちに向かって剣持った数人が向かっていってるところだ。
「軍じゃないですね?」
「野盗どもか。ムラクモ、コクヨウ」
「先行します」
「お先に」
カイルさんの指示で、コクヨウさんの馬がぐんと高度を落とす。と、その背中からムラクモがひょい、と飛び降りた。
で。
「ごがっ!」
さすがに飛び降りながらの蹴りだったので、急所は無理であるってことだろう。1人の首根っこにクリーンヒットさせたのはすごいけどさ、ムラクモ。
「ジョウ、援護を頼む」
「はい」
いきなり上からの攻撃でビビったのか、動きが止まった推定山賊さんは7人ほど。その間にカイルさんの馬も着陸し、俺は鞍の上から飛び降りた。
つか、援護というよりは攻撃、だよねやっぱり。固まってるのは4人ほどか、よし。
「おりゃあああああ! 光の盾で障壁っ!」
『かぜのまいっ!』
『ひかりのたて、ぱーんち!』
えー、4人固まってる山賊さんの両脇に俺が光の盾で壁を作った。で、その間にできたまっすぐの通路にソーダくんが風の舞をかけてすっ転ばし、浮かんだところでタケダくんが光の盾パンチ。しまった、後ろにも壁作っときゃ良かったなあ。ぶつけられたのに。
その間にムラクモが1人、コクヨウさんも1人斬り倒した。で、残った1人が慌てて逃げ出そうとしたところに、カイルさんが馬の上から剣を振るう。普通なら届かない距離で、だけど。
「風の刃!」
「ぎゃっ!」
でも、カイルさんの剣から衝撃波が飛び出した。そのまま、逃げかけてる1人の背中をずばんと斬り裂いて、それで終わり。
カイルさんのこれは、せーちゃんを使い魔にした特権、である。ゲームで時々見るような、剣を思い切り振ったらそこから衝撃波が出る遠距離技。
ま、神の使い魔の主になったんだし、このくらいの特権はついてきてもいいだろ、と思うんだけどね。
さて。
「へ、あ、は……」
いくら何でも、7人相手はちょっとしんどかったんじゃないかな、さっきの魔術師さん。そう思って振り返った先にいたのは……んー?
「あ」
思い出した。
カイルさんのお母さんの墓参りについてった時に、ラータの食堂にいた人だ。
名前忘れちゃったけど、カサイの弟子騙ってた魔術師さん。
おっさん、何でこんなところにいるんだ?




