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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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244.ひとまずやること

「……とはいえ、実際問題何が変わるってわけでもないんですよね」


 儀式が終わったその夜。

 ハクヨウさんがぶっちゃけた通り、ほんと何が変わるってわけじゃない。俺たちは当然のように、傭兵部隊の宿舎に帰ってきてもういつもの格好だし。晩飯だって、普通に食堂でもしゅもしゅと焼肉定食食ってるわけで。

 地味に大公さんも一緒に晩飯食ってるけど、まあそこはそれ、な。

 で。


「若……っと、もう陛下か」

「若でいいよ。そうそう呼び方も変えられんだろ」

「そうですね。そこ行くと、ジョウさんのことも王妃殿下とお呼びしないと駄目ですし」

「名前でいいです!」


 初っ端にこんなやり取りがあったことは抜群に秘密、のようなそうでないような。いや、いきなり陛下って言われてもカイルさんいまいち自覚なさそうだし、俺だって王妃殿下何じゃそりゃ、だし。立場としてはそうなるんだけど、それでどこが変わったわけでもなし。

 それに、カイルさん自身自分の呼ばれ方より優先するものがあるからね。黒帝国と、対抗するためにも。


「しばらくの間は、国内の安定を図るのが先だな。冬が来るまでに、ある程度は形を整えておかないといかん」

「冬ですか?」

「そうじゃの。お嬢ちゃんも昨年は大変じゃったんじゃろ? 年越し前は、黒の神の勢力が増すからの」


 大公さんに指摘されて、思い出した。冬、年末は太陽神さんの力が弱って、黒の神の力が増す。特に俺みたいな『異邦人』とか、その年に生まれた子供なんかは年を越すまで、太陽神さんの守りを得られない。

 生まれた子供に関してはそのご先祖様が守りに来てくれるらしいんだけど、俺にはそんなのいないからな、こっちの世界には。おかげで、アキラさんにはお世話になったもんだ。

 黒の神の力が増す。要するに、そこか。


「……ああ、そうだ。ということは、黒帝国はその時期を待って出てくるってことですか」

「可能性は高いわね。少なくとも、黒の気を浸透させてくることくらいはするはずよ」

「そこら辺は毎年恒例みたいなものだけど、昨年はちょっとひどかったな」


 ラセンさんとグレンさんが、顔を見合わせながら教えてくれた。そうか、あれ酷い方だったんだ。俺、こっち来てすぐだったから分からなかったけど。

 俺がこっち来て、ということは当然シオンもこっちに来ていて、ということはだ。


「……今考えると、当時からシオンが糸引いてたのかもしれないです」

「黒の魔女か……」


 確かにのう、と口の中で呟く感じで、大公さんが頷いた。いや、シオンが当時何やってたかとか俺は知らないから推測になるけどさ、でも可能性はあるだろう。


「となると、まずはユウゼの北の前線基地を早く完成させんとなあ。わしが行って、ちょっと尻叩いてくるわい」

「危ないですよ、と言いたいところですがすーちゃんもいますしねえ」

「護衛くらい連れて行くに決まっとろうが」

『きしゃしゃしゃしゃしゃ。安心せえ、主にはわしがついとるわい』


 まあ、大公さんの言ったそこがまず最優先だよねえ。ラータの街は多分、黒帝国の最前線だしさ。そことユウゼの間に防衛ライン引いとかないと、こっちが大変なんだから。主にご飯とか輸入とかその他色々。つかすーちゃん、あんまり緊張感ないね。


『白の魔女殿がおれば、わしも落ち着いてこちらの力になれる。そういう気がするんじゃよ』

「……はあ」


 何のこっちゃ。よく分からないけどとりあえず、ムラクモがガン見してるくらい可愛いのは分かる。

 何となく話がずれかけたところで、カイルさんが「ともかく」と声を上げた。


「差し当たっての目標は無事に年を越すことだ。新年を迎えれば、こちらに分がある」

「黒の過激派対策は昨年と同じく、監視を強化します。王妃殿下におかれましては、お力をお借りすることになるやもしれませんが」

「アオイさん、ジョウでいいですって……」

「いえ、そういうわけには参りません」


 あー、アオイさんそこら辺しっかりし過ぎだよう。本気で俺、ジョウで良いんだってば。反応に困るだろ……女の身体に慣れてきてるのと同様、この呼ばれ方にも慣れるんだろうか。無理言うな。


「もちろん、その前に黒帝国に何らかの動きがあれば別ですが。その辺はムラクモ」

「は。シノーヨやこの近辺の情報網にはツテがございます、お任せを」


 そのアオイさんが話を振った先、ムラクモは慌てて顔を引き締めた後深く頭を下げた。やっぱ、忍びってそういう情報網とかあるんだなあ。

 ちょっと感心してると、ラセンさんがこっち見た。


「ジョウさんは、魔術の修行を怠らないようにね。タケダくん、ソーダくん、頼みましたよ」

「はい」

『うん、がんばるー!』

『つよくなって、じょうさまをおまもりします』


 うん、確かにそうだ。黒の力を落とせるのは今んとこタケダくんと一緒にいる俺だけで、当然向こうもそれは知ってるから狙ってくる。だから俺自身、ちゃんと強くなって対抗できるようにならなくちゃ。

 そうでなきゃ、カイルさんの隣になんて立ってられないもんな。


「そう言えばムラクモ、ミリコの集落は大丈夫かな。あそこは街道から少し外れてはいるが、万が一黒の襲撃にでもあったら大変だ」

「至急調べます。今のところは、黒帝国は国境線より出てきていないようなので大丈夫とは思いますが」


 カイルさんの言葉に、ムラクモは引き締めたままの顔で頷いた。コーリマとユウゼの間にある小さな村は、あんまり若い人のいないいわゆる限界集落だけど、だから黒が隠れ家にでも使ったら大変だもんな。うん。

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