243.新しい国、新しい王
そうして、1ヶ月ほどが経過した。
まあ、いろいろあったんだよ。主に住民の説得とか、シノーヨとの話し合いとか、前線基地とか、後個人的にはだいぶ楽になってきたけど巡りの物とかほんといろいろ。つか、住民の説得が1ヶ月で終わるのか。事情が事情とはいえすごいな、こっちの世界。
秋の収穫祭、とかいうお祭りもちゃんと済ませて、その後になってやっとこさ、ユウゼがシノーヨとひとつの国になる日がやってきたわけだ。
建国と、そしてカイルさんが王様になる儀式はユウゼの神殿でやる。都はラモットだけどまあ、カイルさんがもともとユウゼを守る傭兵部隊の隊長さん、だからね。それは太公さんも納得してくれた。
つーか。
「せっかくなんで、わしもユウゼ観光に来てみたかったんじゃよ。アキラっちとも会いたかったしのう!」
「お黙りなさいなクソジジイ。100年経っても同じ顔しおって、久しぶりも何もないもんじゃ」
「そりゃお互い様じゃろ」
……何ですかね、これ。いや、ショタジジイとロリババアが久方ぶりに再会したときの会話、なんだけどさ。
まあ、何というか計り知れない事情があるんだろうし、気にしないことにする。うん。
『そうそう、気にせん方がよかろ。お嬢ちゃんはこうなったらいかんよ?』
儀式に出席するためにホウオウチョウスタイルで大公さんにくっついてきたすーちゃんが、楽しそうにぱたぱた羽ばたきながら言ってたしね。
もっとも、そう言うすーちゃん自身、せーちゃんと再会した時は自分たちがアキラさんと大公さんみたいな会話してたけどな。
『おお、そなたセイリュウか? 何じゃ、えろう可愛くなりおってからに』
『抜かせスザク。そなたこそぴーちくぱーちくうるさいのは相変わらずじゃのー』
俺らから見たらどっちも可愛いよ、あんたら。口に出したら矛先がこっち向きそうなんで黙っといたけど。
さて。
俺は今日、アキラさんから「贈り物じゃ」と押し付けられたやたら豪華なローブを着ている。具体的にはシルク製で金や銀の糸で刺繍がしてあって、裾とかにレースが縫い付けてあって思い切り儀式用ですよねーという奴。実用には向かない外見なんだけど、魔術防御とかはしっかりしてるらしい。
『まま、きれいー』
『じょうさま、とてもおにあいですよ』
「ありがとなー。タケダくんもソーダくんも似合ってるぞ、それ」
俺の両肩に乗ってる伝書蛇たちは、シオン除けを兼ねたアクセサリー……というか、えーと人間で言うところのベストみたいな感じで着るやつを着用している。金細工のそれは割と軽くて、タケダくんがおもいーとか文句を言うことはなかった。どっちかっつーと『きらきら、きれいー』と喜んでた。
シオン除け、胸元で止める金具には小さな石がはめ込まれてる。タケダくんのが赤で、ソーダくんのが明るい緑。うん、良く似合ってて可愛いなあ。
なお、これ見たムラクモは例によって大変息が荒かった。変な意味じゃなくて。
「うむうむ、タケダくんもソーダくんも大変愛らしいぞ。そんなに綺麗なものが魔除けを兼ねているとは……やるな、店主殿」
「どうせつけさせるなら綺麗な方が良いじゃろ、って言ってたもんなあ。アキラさん」
あ、まだ興奮冷めやらぬって感じだ、ムラクモ。まあ、これで頑張ってお仕事してくれればいいんだけどね。
濃い目の紫のドレスを着たムラクモは、カイルさんの介添え役兼護衛。ちゃんとした格好するとほんと可愛いんだよな、やることはともかくとしてさ。
「それで、ジョウも綺麗なのか。よく分かった」
「がっ」
て、てめえいきなり不意打ち掛けてくんじゃねえよ。あと反応するな、俺。
で。
「太陽神様の御前において新たなる国、シロガネ国の誕生を宣言し、タチバナ・スメラギ・カイルに新たなる王の位を授けることとします」
レッカさんの朗々たる宣言と共に、カイルさんの頭の上に王冠が載せられた。なおこれもアキラさんが以下省略、と言いつつ宝石はシノーヨから贈られたものだそう。こっそり特産品すげえな、あのガラス石にしか見えないでっかい宝石。
新しい国の名前はシロガネ、まあ要するに銀。俺とカイルさんであーでもないこーでもない、と考えた結果、色というか金属というか、そういう名前になった。
金の方が案外見慣れてると思うんだけど、金だとどっちかって言うと太陽神さんのイメージなんだって。でも、カイルさんは黒の穏健派を放り出す気はないっていうからさ。
だったら、色味のない銀の方がいいんじゃないかって俺が言ったんだ。それなら黒の穏健派の人たちも、まだ受け入れやすいんじゃないかなって。
それで、国の名前はシロガネ、になった。カイルさんがまとめてくれた意見をみんな……えーと部隊の皆とか、レッカさんやシノーヨの大公さんやユウゼの領主さんに伝えてOKもらったし。
……で、うん。カイルさんの名前。何で俺のスメラギ姓が入ってるか、だけど。
話はあの晩に遡る。
告白ぶっこいた後……カイルさんが、ひとつお願いがあるって言ってきたんだ。それが。
「俺に、君の名前を、名乗らせてもらえないか」
「はい?」
確かに、どんな形でも隣りにいたいって言ったけどね、俺。それでいきなり、事実上の王妃ってどうなんですかね、カイルさん。いや、うちの連中にしてみたら何を今更、らしいけどさ。
いやまあ、ゴート王陛下だって正妃殿下以外にカイルさんのお母さんとかいたし。王侯貴族の重婚は当然っちゃ当然な世界なんでまあ、お飾りならいいかなー……というか、良いのか俺。やべえ。
やべえ、とさすがに気がついたんで一応、反論してみた。
「いやだって、カイルさんはお父さんオウインだしお母さんタチバナだし、どっちかで良いじゃないですか」
「オウイン王家はもう、滅んだも同然だ。新しい国はコーリマの後継ではないからね、オウインの名前はいらない」
「じゃ、じゃあ今までどおりタチバナでいいじゃないですか! 何で、俺の……」
「母にはもちろん、感謝しているよ。『神のお下がり』にされて身体が弱っていたのに、俺をちゃんと育ててくれた人だから」
ああもう鈍感イケメン、そう切ない顔をするんじゃねえ。男でもあ、この表情まずいとか思える顔なんだよあんた。ましてや、中身女になりつつある俺には。
「けれど、ジョウが来てくれたから、俺たちは今こうやっていられる。黒の過激派、黒帝国と正面切って戦える勢力を集められたのは、1つには君の存在があるからね。それは、間違いない」
まあ、鈍感なのはこういう台詞を平然と吐けるところでも明らかなわけだが。そこじゃねえんだ、と女の子なら思いたくなるんだろうけど、この人そういうところあるからなーと遠い目できる俺、やっぱりやばくね?
「君の名前を世界に、後世に刻みたい。どうか、そのくらいのわがままを許してはもらえないだろうか」
「……はあ……」
というかあの、俺の名前名乗るって意味分かってるのかねこの人。要するにあんたが婿、ってことになるんだけどいやそういう方向じゃなくて、うん。
つーても、何というかこの人、言い出したら聞かないしなあ……ええい、妥協点妥協点。
「……まあ、どうしてもって言うんなら、両方名乗るって手もありますけど。スメラギ・タチバナ・カイル……は変か、タチバナ・スメラギ・カイルとか」
「それは名案だな! よし、そうしよう」
「マジすか」
「もちろん!」
あっさり頷かれて、一瞬貧血になりかけた。
俺は、この人と会話して今まで何回頭を抱えたんだろうなー、と思う。いや、もう数えきれないくらいだろうけど。
そういうわけで新しい国、シロガネ国の初代国王タチバナ・スメラギ・カイルとその王妃スメラギ・ジョウは誕生したわけである。
……王妃かあ……よし、後でもういっぺん頭抱えよう。うん。




