236.考えてることを考える
あー、さて。
ひとまず、国がどーたらこーたらは1週間くらいで結論出す、ということをカイルさんは自分で決めたみたいだ。
で、考えつつも何か思うことがあったらしく、今日はスオウさんと剣術の修行中である。俺がよく魔術の練習やってる広場で、他のみんなも互いに剣、つーても木刀だけどぶつけ合っている。
俺もまあ練習に来てたんだけどさ、途中から何となくカイルさんとスオウさんの試合見物になっちまって。
「どうした隊長殿、剣が荒いぞ!」
「お行儀の良い剣では、勝てんだろうが!」
「そうだけど、なっ!」
スオウさんは結構パワフルな戦い方するんで、カイルさんも何かがむしゃらに木刀叩きこもうとしてる感じ。それをうまくいなしてるんだから、さすがっつーかな。てか、カイルさんがあちこち動いたりしてるのにスオウさんは受ける側だからか、ほとんど無駄な動きしてねえってのが分かる。
うーん。俺は剣とかまったくの素人だけど、それでもなあ。
「……カイルさん、やる気っていうよりはアレ、何かやけになってません?」
『嬢ちゃんもそう思うよなあ』
「せーちゃんもですか」
俺の頭の上に乗っかっているせーちゃんと、意見交換。さすがに使い魔一緒にいたらあれだろう、ということで俺のとこで一緒に見物してるわけよ。
頭の上にせーちゃん、両肩にタケダくんとソーダくん、って俺一体何だ。使い魔スタンドか。いや、まあいいけど。
『かいるおにーちゃん、じぶんががんばらないとっておもってるかも』
『こーりま・いこんくろていこくのせいでしょうね』
『かもしれんのう。生まれた国が、黒の魔女に汚されてしもうたわけだからな』
まあ、それはなあ。何しろ2回めだし。それに、前回はともかくとして今回は、ミラノ殿下を皇帝に祭り上げられてしまったわけで。最悪、兄弟同士の殺し合いとかなんてことに……ならなきゃ良いけど。王姫様も、行方不明のまんまだしなあ。
そこらへん、全部裏にシオンがいるかと思うとものすごーくムカつく。まったくあんにゃろ、何考えてやがんだ。
……何、考えてんだろうな。マジで。
「シオンの奴、何考えてると思います?」
『ん?』
つい、せーちゃんに尋ねてみる。いや、何てーか一番答えがちゃんと帰ってきそうだからなんだけど。
で、さすがはせーちゃん。俺の一方的な期待に答えてくれた。割と単純に。
『まあ、恐らくは黒の神の顕現、じゃろうのう』
「やっぱその辺ですか」
ベタな答えだったけど、そうなるか。一応神様実在するらしい世界だし、シオンの奴は黒の神の巫女、みたいな感じで帝国にいるわけだしなあ。
なんてこと考えてたらせーちゃんが、ため息混じりに言葉を続けた。
『そのためには、ワシら使い魔ごときを呼び起こすのとは比べ物にならないほどの魔力が必要となる。恐らくイコン辺りは、魔力製造の場にされておるじゃろうなあ』
「うげ」
吐き気しそう。
魔力製造の場、つーことはつまり国を挙げてずこばこエロゲーモードなわけで。以前のコーリマ王城内部みたいのが国1つとか、想像したくもねえな。
そうなると、こっち狙ってきてるっぽい理由もそこか。
「……それで、コーリマの戦力を使ってユウゼやシノーヨに侵攻して、魔力のネタを集めると」
『そういうことじゃね。故に我らは、負けるわけにはいかんのう』
「んー。シオンが出てきて、男どもを堕とす手は使わないんですかねえ」
『前に使うた手か』
一応せーちゃんやすーちゃんには、コーリマ王都を占拠された時の話はしてあった。ので、シオンが王城で何やらかしたかも彼らは知っている。
だからそう聞いてみたんだけど、せーちゃんはうーんと考え込んでから結論を出してきた。
『ワシもまあ、それを懸念しておったんじゃがの。どうやら黒の魔女は、此度はあまり外には出てこんようじゃね』
「何でですかね」
『そりゃ、外に出て男の魔力を吸い取るよりも重要な務めがあるんじゃろ? ワシはよう分からんが』
『わあ、かいるおにーちゃんあぶなーい』
空気読めタケダくん、と言う前に俺の視線がそっちに向かう。その視線が動き終わる前に、がいん、と大きい音。木刀が1本弾かれて、空中をくるくると回転しつつ飛んでった。
あー、カイルさんの持ってたやつか。スオウさんに、うまく跳ね飛ばされたみたいだな。
「……くっ」
「焦りすぎなんだよ、隊長殿は」
多分叩かれたかなんかで痛いんだろう、手を抑えたカイルさんの目の前に木刀の先端突き出してスオウさんは、はあとため息をついてからそう言った。それから、何でかこっちにちらっと視線を向ける。何でだ。
「ほら、お嬢ちゃんと使い魔たちも心配してるだろうが」
「……」
スオウさんに言われて、口答えもできないカイルさん。
……俺は、どうしたらいいんだろうね。何か言ってやりたいんだけど、なあ。




