234.わりと目の前の問題
結局のところ。
ユウゼとシノーヨくっつくとかカイルさん王様にするとかあまつさえ俺が王妃候補とかそこら辺は全部さておいて、俺たちの部隊とシノーヨ北方軍で連合軍組もうと言う話だけはついた。
うん、ひとまずそこ大事だもんな。いつ……えーと長いから黒帝国でいいや、そいつらが攻め込んできたりめんどくさいことやってきたりするかもしれないから。
「……君が思うようにすればいい。俺のことはいいから」
例によって自分のことあっち置いとくカイルさんの台詞に、俺は頷くしかなかった。つーかな、どう考えていいか正直分かんねえから。
そんなわけで俺は、自分の部屋に戻ってぷしゅーと息を吐いている。カイルさんたち男衆は、スオウさんとお互いの部隊について話し込んでいるはずだ。アオイさんはそっちに行っていて、マリカさんは電卓……はこっちにはないから、向こうでいうそろばんみたいな計算機をいじり回しつつ事務処理中。
「まあ、ゆっくりしてね。私は忙しいけど、ハクヨウさんとかノゾムくんとかこき使ってるから」
「わあ」
何やら仕事貯まってるらしく、今のうちに片付けるんだとか。名前挙げられた2人を両手にがっしと捕まえ、そのままずるずる引っ張っていったマリカさんは、ある意味漢だった。うん。
だからって、ムラクモとラセンさんが当然のように俺の部屋にいるのは何だろうね、うん。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃなくしたのはてめーらだ……」
「うむ、それは少々悪かったと思っている」
ムラクモ、悪いと思ってないだろその顔は。お茶持ってきてくれたのはありがたいけどさ、どうせ伝書蛇用のお茶淹れるついでだろう。3匹並んでおとなしく飲んでるし。
その光景をのほほんと楽しみながらムラクモは、何というか当然のようにぶっちゃけてくれた。
「さすがに、いきなり妃は問題だからな。まずは婚約者からだった、すまん」
「それもいきなりだー!」
「あら、そうでもないわよ?」
ガバッと顔上げた俺の反論に、一緒にお茶飲んでたラセンさんが目を丸くしながら口を挟んでくる。え、いきなりじゃないのかそれって。
「相手は王子様よ、王子様。物心ついた時には顔も知らない相手と婚約してて、そのまま結婚しちゃうなんて話も昔はあったんですからね」
「昔は……ですか」
あー、確かにそうか。末っ子でお母さんがちゃんとしたお妃様じゃないっつーても、王様の息子なことに間違いはないわけで。あれか、政略結婚というやつか。
でも、昔はってことは今、というか最近は違うのかね。
「オウイン王家はね、それなりに好きかそうでないかで相手を選ぶ所あるから。だからこそ、隊長のお母様を側室にすることはできなくても、王城に住まわせることができたのだし」
「そういえば、『異邦人』は駄目なんでしたっけ」
ラセンさんの説明に、何となく以前のことを思い出した。『異邦人』だったカイルさんのお母さん、一久さんは正妃殿下のメイドという立場でお城に住むことを許されて、それでカイルさんが生まれたんだっけな。
そんなこと思い出してると、ムラクモがお茶請けのクッキーを皿から取りながら口を開いた。いや、食うんじゃなくて。
「コーリマはそうだな。だがここはユウゼで、相手はカイル様だ」
「何のこっちゃ」
「相手が『異邦人』だろうが黒だろうが身分がどうとか、カイル様がお考えになるわけがない」
…………。
ああ、うん、と頷く以外に、俺に何言えますかね。その台詞。
だってカイルさんは、本当にそういう人だから。だから俺は……って、えー。
やばいなー。俺、マジでアレかね。いや、言葉にしたら何かマジになりそうなんでソレでアレなんて抽象的な表現になるのは勘弁しろ。
「まあ、こちらに来て半年以上経ってるわけだし。そろそろ、ある程度先のことは考えておかないとね」
「先、ですかあ……」
思わず頭抱え込んでしまった俺に、ラセンさんは苦笑しながらそんなことを言ってきた。先のこと、か。
うんまあ、文字もある程度読めるようにはなってきたし、魔術もまあそれなりに? 使えるし。というかタケダくんとソーダくんがいるし。
でも、先のことってなあ。まずはシオンをどうにかしねえと、どうにもならねえだろ。今の状況って。
「まさかこんなことになるなんて、思ってもみなかったですよ」
「そうねえ」
「まあ、確かに」
そんなわけで吐き出した俺の答えには、さすがの2人も頷いてくれた。
だってそうだろ。階段落っこちただけで女になった上に、何か魔術師として強いらしいしいつのまにやら白の魔女、なんてアダ名つくし。
そんでもって助けてくれた王子様と何か変なふうになってるし、この先はうっかりすると悪い神様つーかその手先になった元友人と戦争だぞ。
何だこりゃ、ゲームか。いや、俺にとっては目の前にある現実、なんだけどさ。
とりあえず、目の前の問題のうち全力で棚上げにできそうなものは棚上げにしよう。相手には悪いけど。
「……あーもう、カイルさんのことはしばらく保留にしたい……」
「カイル様もそう結論を急いではおらんだろう。大丈夫だ、2人ともまだ若い」
「ムラクモが言う台詞じゃないわねえ、それは」
ほんと、ラセンさんの言うとおり。かと言って、例えばアキラさんみたいなロリババアやショタジジイに言われたら、どこから突っ込んで良いのか分からないわけだけど。
もういっぺんぷしゅーとテーブルに突っ伏した俺に、ラセンさんはマジで苦笑しか浮かべてないらしい。笑いを含んだ声で言ってきた。
「ま、即結婚しろとか誰も言わないでしょうから、じっくり考えていいんじゃないの?」
「誰か言ってきたらどうしましょう……」
『そのときは、ぼくがひかりのたてぱんちするよ?』
『わたしも、かぜのまいでころがします』
「私が縛る前に、タケダくんとソーダくんがツッコミ入れてくれそうだな」
「……うん、入れるって」
何でそこでツッコミを魔術で入れるんだ、お前ら。俺、使い魔の子育て、間違えたのかね? 後ムラクモ、ほいほい縛るな。




