233.大公殿下の提案
「領主さんとこには、先にご挨拶してきたよ。一応、大公殿下の名代ってことなんでな」
初めて会ったときと同じ軽装のスオウさんは、普通にうちの食堂に馴染んでいた。まあ、赤い髪はグレンさんで慣れてるからなあ。
彼のお向かいにカイルさん、その両脇に俺とラセンさんが座って、アオイさんがその後ろ固める。で、白黒コンビやら弟子と孫弟子やらその他大勢がぞろぞろと集まってきていた。場所を変えないってことは、別にカイルさん以外に聞かれても構わない話、らしい。
で、まずスオウさんはシノーヨの結論を教えてくれた。
「ま、ユウゼもそうだと思うんだがシノーヨも、コーリマイコンなんちゃらの下には入らない。大公殿下がきっぱりお引き取り願ったよ」
「でしょうね。ギヤで派手にやった後ですし」
ラセンさんが苦笑しながら頷く。だよなあ、あれであっちにつくなんて話ないわー。第一、すーちゃんが嫌がると思う。多分だけど。
「ということは、ユウゼと協力してもらえるということでいいのか?」
「そらもちろん。俺の北方軍は全面協力するし、何なら別方面からも援軍呼べるようには手配してもらってる。相手は黒の魔女だしな」
カイルさんとスオウさん、前よりも仲良しな感じで顔を見合わせてるな。シノーヨでもお世話になったし、あれだな。戦友、ってやつ。
「んでまあ、これは話半分に聞いてくれて良いんだが。一応、大公殿下からの提案を持ってきたんだ」
「提案?」
「コーリマ・イコンに対してですか?」
「それもあるんだが、その先も考えてのことらしい」
首を傾げたカイルさんに代わって、アオイさんが詳細を尋ねる。長ったらしい帝国相手の案ならともかく、その先って何だろうとは、俺も思った。
まだお昼なんで、前と同じようにお酒は出ていない。代わりのお茶を一気に飲み干してからスオウさんは、少々困り顔になってその『提案』とやらをぶっちゃけてくれた。
「うちとユウゼもくっついて、1つの国になっちまったほうがよくねえかってさ」
一瞬、食堂内がしーんとなったのは当然だろうな。うん。
シノーヨとユウゼもくっついてって、コーリマとイコンがくっついちまったみたいにやろうってことか? いや、でもあっちは国と国だけど、こっちは国とちっちゃい街だぞ。実質吸収合併、みたいな形になんねえ?
大体、誰が王様になるんだよ……って、やっぱり大公さんかな。
そこはカイルさんも気になるらしく、眉しかめながら尋ねた。
「……シノーヨの大公殿下が、ユウゼも治めるということか?」
「いんや。それについちゃ殿下は、自分よりもっと適任がこっちにいるってよ」
ふるふると首振りながらのスオウさんの台詞に、ざっと全員の視線が一点に集まった。ああ、見られた本人は除くけどさ。というか、みんなそういう風に思ってたんだな。まあ、分かるけど。
「……おい。何で俺を見る」
で、見られた本人であるカイルさんだけはものすごく困った顔をして、周囲を見回した。いや、俺見られても困るって。というか、あんたくらいしかいないんだけど。こう、領主さんは王様というよりはなあ、商人のおじちゃんって感じで。
「まあ、若いですけど素質ありますし、成長は見込めるか」
「大体若、もともと王子様だしなあ」
ハクヨウさんとコクヨウさんが、良く似た顔を見合わせてうんうん頷いてる。色違わなきゃ鏡みたいに、動きまで一緒だよあの双子。
「経験が薄いのは致し方ありませんが、我々がフォローすれば何とかなるでしょう。シノーヨの大公殿下も……」
「そりゃ当然」
アオイさん、当たり前のようにスオウさんに聞いてるし。スオウさんも平然と頷いてるよ。
で、そこまでならまだ良かったんだが。
「まあ、隊長が順当なところでしょうね。お妃候補も、ちゃんといますしねえ」
ラセンさんが全力で、爆弾その2投下してくれやがった。瞬間、視線が見事にこっち向くって何でだよ。
「って俺!?」
『ままだよね?』
『じょうさましかおられませんよね』
『お嬢ちゃんくらいじゃのー』
「しゃー」
思わず自分のこと指差してしまったんだけどさ、使い魔4匹全員大きく頷きやがった。カンダくんだけ言葉分からないけど、多分同じ台詞吐いてると思う。
けど俺かよ。俺よりカイルさんと馴染みの深い女の子いっぱいいるだろうが、と思って喚いてしまったよ、うん。
「ていうかアオイさんラセンさんマリカさんムラクモー! あんたら何も言わんのですかあ!」
「いや、カイル様は私にしてみればノゾムより年の近い弟というか……」
「私、実は枯れかけたくらいのおじさま趣味なんですよ」
アオイさんは少々ふてくされたように頬をこりこり掻き、ラセンさんは何気に己の趣味をぶちまけた。マジかそれ。
「もうちょっとしっかりした人の方がいいですね。隊長、ちょっと抜けてる所あるんですもん」
「タケダくんとソーダくんが納得してるなら、私は何も言わん」
マリカさんはまあ、言いたいことは分かる。ムラクモは……俺も何も言わないほうが良さそうだ。つかお前さん、そこまで使い魔ラブが進行していたか。
そんな中、頑張って回復したカイルさんが椅子から立ち上がって身を乗り出した。
「い、いやそうじゃなくて、領主殿は何とおっしゃったのか!」
「領主さんの方はな、こっちでちゃんと話が付けば自分は構わんとさ。商人に戻るのもいいってな」
わーい既にお話済みだったー。っていやいやいや。
「まあ、ちょいと考えちゃくれねえかな。もちろん、無理でも協力を引っ込める気はねえし」
まあとりあえず、スオウさんの悪戯っ子みたいな笑顔にパンチ入れたかったけどやめた。何か、あっさり受け止められる気がしたからさ。




