231.コーリマ・イコン黒帝国
ご挨拶の使者としてのこのこやってきたのは、黒い馬に乗った騎士とその従者合計3人だった。さすがに、兵士ぞろぞろ引き連れて来てないだけマシだったと思おう。
でまあ、そういうことなんで一応、領主さんのお屋敷まで連れて行った。俺とラセンさん、カイルさんに白黒コンビが、護衛という名目で監視役についていく。
「わしがユウゼ領主、ケンレン・ヨリモじゃ。話を聞こうかのう」
「私はグンジ・ダイゼン。コーリマ・イコン黒帝国の騎士であり、皇帝より使いを命じられた」
領主さんと、割と若い感じのその騎士さんが応接室で向かい合う。……グンジって、どっかで聞いた名前だな?
ちょっと首捻ってたら、ラセンさんの肩でカンダくんが息を吐いた。
「しゃあ」
『じょうさま。かんだくんが、まえにくろをばっくあっぷしていたぐんじだんしゃくのおみうちではないかと』
「あ、ああ、そうか」
ソーダくんの通訳で、思い出した。いたいた、儀式で頂いちゃった女の子売り飛ばすゲス野郎。確か、王姫様が先頭立ってふっ飛ばしたんじゃなかったっけ、社会的に。
そういやグンジ男爵って、黒の信者の多い地域出身かつ過激派っつーてたっけ。なるほどなあ、そりゃシオンにつくわ。うん。
俺がそんなこと考えている間に、領主さんと……ダイゼンさんだっけ、その2人の話は進んでいた。
「さて。そのコーリマ・イコンとやらじゃが。太陽神を崇めるコーリマが、黒の神を奉ずるイコンと国を1つにしたということかね?」
「まさにその通り。コーリマは王族の力が足りぬために王都が荒れ、酷い有様となったのは領主殿もご存知かと」
「それは黒の過激派のせいじゃろうが」
「それもこれも、コーリマの王族が黒の神を認めなかったため。それにやっと気づくことができたお方が、我ら黒の信者を王都へとお導きくださったのだ」
……うぜー。
認めようが認めまいが、シオンが王城に入り込んで城の中ぐっちょぐちょのAVが可愛く見えるようなエロ現場にしちまったのは事実だろうが。
俺だけじゃなくて白黒コンビも、ラセンさんもそう思ってるみたいだよな。カイルさんなんか、握った拳カタカタ震えてるし。
そうして、そんな俺たちに追い打ちをかけるように、ダイゼンさんはぶっちゃけてきた。
「黒の神に仕えし巫女シオン様のご指導のもと、皇帝オウイン・ミラノ様を長として我らが神の信仰に邁進し、また教えを広めるべく我が帝国は建ったのだ」
「な」
ミラノ殿下が、皇帝。シオンが作ったんだろう、黒の帝国の。
『……じょうさま。やられたようですね』
「……だな」
『……かいるおにーちゃんのおにーちゃん、なのになあ……』
ソーダくんが吐き捨てるように呟いて、タケダくんがしょげた。
ゲキさんと同じように、ミラノ殿下ももう一度、シオンの手に落ちてしまったってことか。認めたくないけど。
あー、今ここでダイゼンさんの頭ふんづかまえてガシガシぶん回して八つ当たりできればどれだけ楽か。やらないけど。やりたいのは俺じゃなくて、きっとカイルさんだから。
そのカイルさんは俺の横で、一所懸命こらえてる。だから、俺もこらえる。
目を閉じて腕組んでしばらく黙っていた領主さんが、顔を上げた。
「ひとつ、良いかの」
「何か?」
「オウイン家にはもう1人、第1王女セージュ殿下がおられたはずじゃが?」
「セージュめは、皇帝陛下の姉君でありながら我らが神を拒絶した愚か者。故に、王都より追放した。はて今頃は、どこで野垂れ死んでいるやら」
あざ笑うように、ダイゼンさんは領主さんの質問に答える。あ、やばいカイルさんぶっ切れる。
「っ」
『やめておけ、主』
彼の肩の上でうんざり顔をしていたせーちゃんが、ことさらに低い声でカイルさんを止めた。にゅ、と長い首を伸ばして表情を伺いながら、言葉をつなぐ。
『言い方はアレだがつまり、主の姉上がどこに行ったか、この馬鹿は知らんわけじゃよ。恐らく向こうの連中も、どこにおるかマジで分からんのじゃろうな』
「……そう、か」
カイルさんと俺の他にはしゃあしゃあとしか聞こえない声で、せーちゃんは教えてくれた。って、そうか。
つまり、楽観的に考えるなら王姫様、上手いこと逃げたってことか。カイルさんを目の前にしてるわけだから、捕まえたり何だりならそう言ってくるもんなあ。
「さて、ユウゼの領主殿。私がここに来た理由、理解しておられるだろう」
「無論だ。このちっぽけな街に、御大層な帝国とやらの下につけということじゃろ?」
一方領主さん、やはりすごいなあと思った。いつ何でブチ切れてもおかしくないのに、何か余裕まで見える対応してるもんな。つーか、シオンの奴わざわざそんなこと、ダイゼンさんに言わせに来たわけか。
「その通り。回答はいかに」
「尋ねるまでもあるまいよ。我らは太陽神様を拝んでおる、故に黒の神の下には行かんね」
で、領主さんの答えはすっぱりきっぱり明白だった。ただ、太陽神さんを拝んでるって言葉に、ダイゼンさんがにやりと口の端を歪める。
「太陽神教の総本山は、愚かな抗争の中にあると聞き及んでいるが」
「黒の側で抗争がなくなったのは、巫女さんとやらが信者をたぶらかしたからだろう?」
あ。我慢しきれなくなったのか、コクヨウさんが毒吐いた。まあ、この人が吐かないとカイルさんがぶちまけかねないからなあ。
そんなこと言われてまあ、ダイゼンさんもさすがにむかっときたらしい。がたんとこっちに身を乗り出してくる。おいおい、腰の剣に手をかけるなよ。
「我らの巫女に何たる侮辱を!」
「そっちこそ、人んちの可愛い新入りさんにゲスなことしようとしたじゃねえか。それこそ、ユウゼと俺たちに対する侮辱だね」
「コクヨウ、少しは口を慎め」
「すんません、若。慎んでこれなんすよ」
ぎりぎり睨み合うおっさんと兄ちゃん。カイルさんが頭が冷えたのか、間に割って入る。それからハクヨウさんが「コク、人んちで暴れるのはやめておけ」なんて言いながらコクヨウさんの腕を引いた。
……って、新入りがどうのってもしかして俺のことっすか。コクヨウさん、シオンの被害いの一番に受けたのあんただぞ。自分のことで怒っていいのに。




