230.実際のところは
「ま、それはともかくとしまして、隊長」
こほん、とラセンさんが1つ咳払いをした後に、カイルさんの方を向いた。「ん?」と首を傾げたカイルさんに、笑いを消した真剣な顔で問う。
「普通に、建国の触れが来ると思いまして?」
「来るだろう」
対する、カイルさんの答えはあっさり一言。俺はよく分からないから、じっと聞いていることにする。
「自分たちの存在を知らしめる意味と、それから敵と味方を見極める機会だからな」
「敵と味方、ですか」
「そうだ。普通の市民たちや黒の穏健派にはこちらにつくか、自分たちにつくかを迫るはずだ。……ユウゼやシノーヨには、宣戦布告と言ってもいいだろうな」
「……黒幕がシオンなら、そうなりますよね……」
思わず俺が吐き出したの、間違ってないよねえ。それに、カイルさんもラセンさんもはっとこっち見て、それから顔見合わせて頷いてくれたし。だーよーねー。あいつだもんねー。
それからちょっとだけ間を開けて、ラセンさんはまた別の疑問をカイルさんにぶつけた。
「にしてもですよ。後ろに黒の過激派がいるということをわざわざ、表沙汰にする意味はありますかしら。単にオウイン王家が国主に相応しくない、故に指導者を交代させたと言ってくる方が自然ですわ」
「ない。何しろここには、俺がいるからな」
これまたきっぱりと即答。え、でも理由がカイルさん、自分なのかって思ったんだけど。
「曲がりなりにも俺は、オウイン・ゴートの末息子だ。周りにはアオイやコクヨウ、ハクヨウのように元々コーリマの民だった者も多い。……それがそんな説明で納得するわけがない、というのはゲキ殿も、黒の魔女も分かっているよ」
なるほど。そっか、コーリマの人多いもんな。元々の中を知ってるから、変な理由つけてもこっちを説得なんてできないわけか。
「後は、あれですね。黒の魔女。ジョウさんのこと、狙っているようですし」
「あ、ええ」
と、いきなり話振ってくるなよなあ。慌てて頷いて、それから。
「あいつ俺にえらく敵対心持ってますから。挑発の意味でも、黒の手先だなんてこと言ってくると思います」
「結局は、そこになるか……」
ぱっと思いついたのはそのくらいだけど、なあ。前に王都占領した時はこっそり裏でやってたわけだけど、それは、ゲンブ復活させるためだったみたいだし。今回は違うから、動き方も違うと思う。
分かりやすくクーデター、なんて大々的なことやらせたってことは、隠れるつもりがないってことだから。
「隊長もジョウさんも、あまり気にかけないでくださいね。って言うのは簡単だけど、そうも行かないわね」
「……すまんなラセン、気を使わせて」
「そのくらいはできないとね?」
カイルさんが、ものすごーく済まなそうな顔になる。いや、あんたがめちゃくちゃ気にかけてもおかしくない話だからね、ほんとに。
後、俺は気にかけるというか何というか……ええい、言っちまえ。
「いや、俺の場合はね……ぶっちゃけ、前にカイルさんに手を出されて何かムカつきましたから。大体シオンのやつ、やってることひどすぎるんでさすがに……」
「え」
「あら」
「はい?」
ちょっと待て。何であんたら、目を丸くして俺ガン見してるわけ? なお、あんたらにはカンダくんとせーちゃんも入る。
使い魔にまで目を丸くされるなんて俺、何か変なこと言った?
そんなこと考えてたら、カイルさんの肩の上によっこいしょ、という感じで戻ったせーちゃんが口を開いた。曰く。
『お嬢ちゃんや。そろそろ中身もお嬢ちゃん寄りじゃ、ええ加減覚悟せいよ?』
「えー」
「しゃー」
「あらあら。カンダくん、せーちゃんそんなことおっしゃったの?」
カンダくん、同時通訳要らねえから……とは言えんな。どーせカイルさんには話の内容、バレてるわけだし。
……でも、俺そんなに女の子に寄ってきてるのかな。自分では自覚、ないんだけどなあ……自覚あったら、それはそれでやばいのかもしれないけど。
『まま、だいじょぶ?』
『じょうさま、だいじょうぶですか?』
「……やべえかも」
タケダくんとソーダくんに気を使われてしまって、マジで頭を抱えた。いや、マジで女の子になってきてる? このままだと……ああうん、どうせ男には戻れないんだけどさ、でもさあ、なあ。
「コーリマ・イコン黒帝国より、建国の挨拶に参った」
そんな人の気も知らずに、全力でベタベタな名前背負って使者がやってきたのは、1週間ほど後の話。




