228.年の功と使い魔と
神殿の方にはアキラさんが連絡取ってくれるってことになったので、3人揃って宿舎への道を歩く。さすがにテツヤさんも、先にこっち回ってくれるそうだ。別働隊のみんなには、何かお礼しないと駄目かなあ。
カイルさんの肩にでろーんと引っかかっているせーちゃんが、のそりと頭をもたげた。ちらりと背後を伺ってから、口を開く。
『あの魔術師、なかなかの曲者じゃのう』
「アキラさん? まあ、そうですね……」
「確かに、彼女は一筋縄ではいかない所があるからなあ」
彼の声が聞こえる俺とカイルさんが、ついつい頷いた。いや、すぐ側にその人の曾孫いるだろうが、と気がついた瞬間当のテツヤさんがこっち向いた。
「何、ひいばあちゃんがとんでもないって話っすか? もう慣れてますから構わないっすよ」
「……すまん。まあ、実はそうなんだが」
「せーちゃんが、ちょっと驚いてたみたいで」
「まあ、曾孫の俺から見てもね。まずは外見があれですし」
あんたもそう思ってたのかよ。いや、確かに外見ロリ魔女その実曾孫どころか玄孫までいるばーさん、だからなあ。この世界、人間の寿命は俺が思ってる普通レベルのはずだけど、たまにああいうトンデモ爺婆いるのがな。
「シノーヨの大公殿下にもお会いしたんですけど、幼なじみって年取らないところまで似るんですかね」
「いや。ひいじいちゃんも幼なじみだったはずなんだけど、そっちは普通の寿命だっつってたし」
あらマジか。手を出そうとした当時の黒の魔女を粉にしちゃったくらい惚れてた相手、なんだよなあ。そっちの方が先に亡くなっちゃったんだ……何て言うか、こう。
というかさ。
「普通の寿命って、何だろう」
「考えないことにしようか。多分、相手が悪い」
「そうですね」
『まあ、比較対象があれではのう』
『……ぼく、よくわかんない』
『わたしもです……』
何か、変なところで3人意見が一致した。せーちゃんもまあ、似たようなもんだろう。タケダくんとソーダくんは生まれて1年にもなっていないので、寿命とか言ってもなあ。
……伝書蛇の寿命ってどれくらいなんだろう。チョウシチロウとかビシャモンとか、やたらでっかいのいるけどさ。まあ、大公さんとこはすーちゃん込みでたくさんいたなあ。
あれ。
「そういえば」
「ん?」
アキラさんとこ、さすがにあのでっかいのだけじゃないよな?
「俺はアキラさんの使い魔、チョウシチロウしか見たことないんだけど。もしかして他にもいます?」
「いるよ。基本文運びとかやってる、伝書蛇のヘイゾウとコヘエが」
「やっぱりいるんだ」
出たぞ、どこから聞いても時代劇っぽいネーミングのやつが。でもまあ、名前が名前だからガチなんだろうな。さすがテツヤさん、良く知ってら。
「ああ。そういえば、ヘイゾウはよく領主邸に出入りしているらしいな」
「急ぎの文なんかは運んでってるみたいですよ」
「……そういや『伝書蛇』ですもんね。文運びは元々お仕事か」
いやもう、使い魔としての使い方ばっかりだったからすっかり頭から抜けてたんだけど、そうなんだよなあ。向こうでいう伝書鳩、の代わりの伝書蛇なんだからさ。
と、タケダくんがぱたっと翼を一度羽ばたかせた。ソーダくんも、そわそわした感じでこっち見てる。
『まま。ぼくもおてがみはこばないとだめかなあ?』
「どうかなあ……とりあえず、宿舎の中で練習してみるか?」
『うん、やってみるー』
『じょうさま、わたしもふみはこびをやってみたいです!』
「よっし。交代交代で練習なー」
『はーい!』
ははは。何かやる気出たぞこいつら。確かに、どっちかが手紙持って連絡係してくれれば結構便利になると思うんだよね。向こうと違ってこっちにゃ、ケータイもスマホもインターネットもねえんだから。
で、テツヤさんとカイルさん、何か話してると思ったら。
「……隊長。ソーダくんは結構しっかりしてるみたいだからいいっすけど、タケダくん大丈夫なんですかね?」
「ああ……声が聞こえなくても、甘えん坊なのは分かるからな……」
「すんません。とりあえず、やる気みたいなんで屋内からで」
言葉わからなくてもそりゃ、行動見てれば性格バレバレ、だよねえ。
黒の気落とすときにはタケダくんに一緒にいてもらわないと困るけど、それ以外の時はお使いに行ってもらっても大丈夫、だと思いたい。
「まあ、伝書蛇が単独行動できればジョウも何かとやりやすくなるだろうからな。もちろん、一緒にいても何の問題もないんだが」
「言っても、使い魔って何だかんだで可愛いですからねー」
苦笑しながらそんなこと言ってくれるカイルさんと、楽しそうに笑うテツヤさんに俺もちょっとだけ、笑ってみた。
カイルさん、ちょっとは元気になってくれたかな。




