224.現実とは皮肉なもので
「王都より先に、田舎で養生しておられたゴート王陛下の別荘が反乱軍に襲われたらしい。というよりは、そちらに駐留していた軍が中心になり、反乱を起こしたと見て良いじゃろう」
領主さんは、手紙をこっちに見せることはしなかった。そのかわり、言葉を選んで説明してくれてるみたい。多分、カイルさんの気持ち考えてだろうな。
さすがにタケダくんもソーダくんも、そしてせーちゃんも口を挟むことはしない。大人しく、話を聞いてくれている。それだけは、ちょっと助かった。
「陛下と正妃殿下は残念ながら……ということだそうじゃ。あまり詳しくは伝えられん、察してくだされ」
「……お気遣い、ありがとうございます」
やっぱりか……どういう状況かは分からないけれど、少なくとも2人は亡くなったってことか。多分、殺されて。
にしても、反乱軍か。王都以外にはそんだけの軍勢が残ってたのかってのと、それを指揮する人が誰なのかってのが怖いな。
「それで、兄と姉の消息は分かりますか?」
「ミラノ殿下、セージュ殿下共に行方知れずということらしい。現在、王都は……どうやら、サクラ・ゲキ殿と嫡男トウマ殿が指揮する反乱軍の支配下と相成ったようじゃ」
「ゲキさんと、トウマさん?」
え、何でだよ。ゲキさん、どういうことだよ。それに、トウマさんって。だってあの人、シオンの配下になってギヤの街で俺たちと、大公さんと戦って。
ということは、もしかして、ゲキさん……も。
恐る恐るカイルさんの顔を伺うと、何かすごい顔してた。怒ってるのと、悲しいのと、こういろいろ混じってる顔。
「……カイルさん」
「……悲しんでいるどころではないようだな。黒の魔女にひざまずいたのは、トウマ殿だけではなかったってことだ」
「む」
苦々しげに歯を噛み締めたカイルさんに、領主さんが眉をひそめる。とりあえず、俺が手早く説明しようか。
「トウマさんとは、シノーヨの都で戦ったんです。大公殿下にも力を貸してもらって、何とか撃退したんですが」
「なるほど。その折に、トウマ殿は己が黒の配下だと」
「黒の魔女に身も心も捧げる、と言っていました」
「分かった。そういうことであれば、最大限に警戒をしなくてはいかんな」
あの時の言葉を大雑把に伝えれば、領主さんも納得してくれた。そして、正直今のコーリマ王都がとってもえらいことになってるはずだってことも。
でも、何だかんだ悩んだり考えこんだりする前にやらなけりゃいけないのは、この後向かってくるだろうトウマさんたちの反乱軍に向けた対策を練ること、だ。
「以前『子猫の道具箱』の店主殿が開発しておられた黒の魔除けが、ある程度数が揃ってきたようじゃ。早急に、我が私兵たちに配布せねばなるまい」
「お願いします。本人の心持ちにもよりますが、ゲキ殿のように一度救われたはずが再び陥落などということにもなりかねません」
カイルさんは既に、ゲキさんがもう一度黒の手に落ちたことを確信している。だって、そうでなければ彼が率先してコーリマ王都を、王姫様やミラノ殿下を襲うことなんてないだろうから。
と、カイルさんが俺を見た。
「……ジョウ。力を貸してくれないか」
「俺で良ければ」
即答してから、何でわざわざ頼むんだろうと思った。俺さあ、一応カイルさんの部下なんだから命令でいいだろよ。なあ。
ま、そんなこと考えてるってのはカイルさんには分からないから、そのまま説明の言葉が続いた。
「恐らく、コーリマ側から逃げ出してくる国民が増える。その中には多分、黒の尖兵もいるだろう」
「黒の気探して落とすんですね。染められてるだけなら俺とタケダくんで何とかなりますし、分かりました」
俺に頼むっつーたら、魔術かそこら辺しかないもんな。頷いてから俺は、2匹の伝書蛇の頭をなでる。
「タケダくん。ソーダくんも、黒の気配探るの力貸してくれな?」
『もちろん! ぼく、がんばるね』
『おまかせくださいませ、じょうさま』
当然のように、2匹はそう答えてくれた。……俺も、自分自身の力で頑張れるようにならないとな。何かまた狙われそうだし……うあー、トウマさんめ覚えてやがれ。絶対リベンジしてやる。
で、カイルさんも新しくやってきた使い魔ことせーちゃんに、声をかけていた。
「せーちゃん。力を貸してくれるかい」
『そなたはワシの主じゃ、命じてくれて良いのじゃぞ? ま、ワシも黒の信者の気配くらいは探れるからのう。任せよ』
はっはっはとものすごく頼りになりそうに答えてくれたせーちゃんに、俺もほっと息をつく。とは言え向こうの黒幕がシオンなら、確実にゲンブは連れてるわけで……あー、今までより大変そうだ、ほんと。
さて、領主さんにはさすがにせーちゃんの声は聞こえないので、カイルさんが説明した。うん、まあちょっと驚くというか、ほっとするというか、なるよな。何しろせーちゃんは、セイリュウさんだから。
「神の使い魔殿も、お力をお貸しくださるのですか」
「はい。黒の信者の気配は探れるようですから、警戒してもらいます。もちろん、うちの部隊も警戒を強めますしラセンや、『子猫の道具箱』の店主殿にも協力を要請するつもりです」
「おお、それは心強い」
領主さんが安心したように頷いた。うん、普通なら結構トンデモ戦力だし、安心できるはずなんだよな。
ただ、相手も同じくらいトンデモ戦力のはずなので、そう簡単には行かないんだけど。
それに、正直カイルさんすっごく気落ちしてるし。司令官がへこんでると、結構士気に関わるんだぜ。かと言って、どうやって元気づけていいかわからないしなあ。
……王姫様、ミラノ殿下。どうか、無事でいてくれよ。




