222.肩乗りせーちゃん
2日ほど経って、とりあえず俺たちは総本山を後にすることになった。そもそも、セイリュウさんを探すことからできればゲットするところまでが目的だったわけだしさ。ま、ついでに何かえらいことになっちゃったけど。
「まあ、しばらくはごたごたすると思います。何しろ神官長が1人で事を決める場合も多かったですからね」
暫定で神官長代理することになったコンゴウさんが、桟橋まで俺たちを見送りに来てくれた。さすがにああいうドタバタがあった後だからかどうか、カイルさんを見る目が柔らかくなってる、気がする。気がするだけかもしれないけど。
「新しい神官長を決めないといけませんので、ユウゼのレッカ殿にも早晩、召還状が届けられるかと思います。少し時間がかかると思いますが、こちらのことをお伝えくださると助かります」
「分かりました。レッカ殿には戻り次第、話をしておきますね」
アオイさんが代表して答える。それから礼をして、俺たちは帰りの船に乗った。……ここから3日かー、また酔いそうだなあ、やれやれ。
行きと同じ船室を、今度は男女で分けて使うことになっている。そこに荷物を放り込んだところで、カイルさんの肩にひょいと乗っかったのがいる。50センチくらいの小さな可愛い、青い東洋龍だ。
『やれやれ。理性のある人間とは大変じゃのー』
「せーちゃん」
『せーちゃん、あとでいっしょにごはんたべよー』
『そうですね。みんなでごはんをたべたらおいしいですね』
大変可愛い呼び方だけど、本人というか本龍がこう呼べって言ったんだからしょうがねえよな。
カイルさんは苦笑を浮かべて、何話ししてるんだって首を傾げてる。悪いなー、例によってせーちゃんの台詞は俺にも聞こえるんだけど。
「みんなでご飯食べたいみたいです」
「そうか。なら、そうしよう。せっかくの新しい仲間だしな」
「ええ」
視界の端でムラクモが例によってハァハァ言ってるのは、気にしないことにする。アオイさんノゾムくん、あとは任せた。何でだ。
いやだって、カイルさんの肩に乗っかってるせーちゃん可愛いんだもんさ。ついついガン見してると、カイルさんだけじゃなくせーちゃんにも首を傾げられた。
『ん? 何じゃ、ジョウや』
「そのサイズだと、結構可愛いですね」
『むむ、そうかのう? いや、何かとあの忍びが触りに来るんじゃが、どうしようかの』
「ムラクモは使い魔スキーなんで、撫でられても大丈夫ですよ」
「ああ。ムラクモはあれだが、限界なんかはちゃんとわきまえているしな」
『そだよー。むらくもおねーちゃん、いっぱいなでなですりすりしてくれるんだよ!』
『ときどき、しょくじのさしいれもくださいますしね』
『そ、そうか……ま、悪い気はせんの』
はっはっは、俺にカイルさんにタケダくんとソーダくんのお墨付きならせーちゃんも納得するしかなかろうて。
そもそも、何でせーちゃんことセイリュウさんがこんなことになってるのかというと、だ。
『……さて、と』
『龍の卵』の結界が復活した後、セイリュウさんがにゅるりとこっちに顔下ろしてきたんだよね。割と器用だなあと思うけど、論点はそこじゃなかった。
「どうしたんですか? セイリュウさん」
『いや、ワシも一応使い魔という立場なんでな。此度の主を決めねばならんわけよ』
「……マジすか」
あー、そういえばそうかと思ったんだけど、神の使い魔に人間の主がいるんだろうか。いや、スザクさんはシノーヨの大公さんの使い魔やってるわけだから、一応必要なのか。
『というか、実はもう決まっておるんじゃがの』
「こら」
はははと笑いながらそんなことをお抜かしあそばされたセイリュウさんにツッコミ入れた俺、悪くないよな?
つーか決まってるなら先に言え先に。しかし、誰だろう。魔術師だと俺か? ま、聞いてみるか。
「で、どなたが主で?」
『それは無論、ワシを龍の卵なんぞというくだらん結界から解き放った本人じゃね』
「……俺、ですか」
は、と目を丸くして自分を指差したカイルさんに、セイリュウさんはこっくりと頷く。あーまあ、確かにそういうことなら分からんでもない。つか、閉じ込められてたのを助けたら懐かれたパターン、だしなあ。
そんなわけで俺も、なるほどと納得してみせた。いや、俺んとこ3匹目でもいいけどさ、面倒見るの大変なんだよ。……シノーヨの大公さん、すごいなあと今更ながらに思ったわけだけど。
「まあ、この場合はカイルさんですよねえ」
『ははは。まあそういうわけで、世話になるぞい? 主よ』
「えー」
カイルさんがえー、なんて言うの初めてじゃね? ちょっと面白かったけど、セイリュウさんはむっとしたように目を細めた。
『何じゃ、不満か?』
「いえ、そういうわけでは……しかし、俺は魔術師ではありませんし」
『剣士の主がいても良かろ? それにワシが決めたんじゃしねえ』
この場合、カイルさんは諦めたほうが良いんじゃねえかと俺は思う。タケダくんの時もそうだったし今回は相手が相手だし、それに使い魔って便利だぞー。手紙送ったり持ってきたりしてくれるし、問答無用でムラクモが守ってくれるし。
いや、カイルさんの場合自分がピンチになったら自分で何とかするだろうけど。……となると、俺がピンチになった場合か……と考えつく俺自身が何かなー。
「……分かりました。少なくとも俺たちには、あなたの力が必要だ。よろしくお願いします、セイリュウ殿」
で、俺よりもわりと現実的な理由を口にしてカイルさんは、セイリュウさんに頭を下げた。『うむ、これで契約は成立じゃ』とセイリュウさんは満足気に笑って、それからこっちに目を向けてくる。
『それとな、主、そして白の魔女よ。ワシのことはせーちゃん、で良いぞ? 主は敬語も不要じゃ、そなたが主なんじゃからねえ』
「せーちゃん……」
「スザクさんのすーちゃんとお揃いですね」
『じゃよ。せっかくじゃし、よう似た呼び名で良かろ』
良いのかそれは。カイルさんが呆気にとられてるぞ、全く。いや、俺は別に呼んでいいって言うんならいいんだけどさ。
んで俺の肩で、くねくねふらふらと踊る伝書蛇1匹。もう1匹はその横でかしこまっている。分かりやすい性格してるよな、お前ら。
『ねえねえ、ぼくもせーちゃんってよんでいいですか!』
『無論じゃ。タケダくんはワシの友達であるからのう! おお、そちらのソーダくんであったか。そなたも良いぞ?』
『お、おおおそれおおいことをっ!』
ほらもっと畏まっちゃった。やべやべ、主として執り成すだけはしとかないとな、うん。
「あーセイリュウさん……じゃなくて、せーちゃん。ソーダくんは真面目な性格なので、どうもそういう呼び方は苦手みたいです」
『おやま、堅物じゃの。まあ良い、呼びやすい風に呼んで良いぞ』
『は、はい、せいりゅうさま』
おつかれ、ソーダくん。ま、タケダくんがお子様すぎるからお前さんがいてバランス取れてる、ようなもんなんだけどな。後でご飯あげる、うん。
んでそんな中。
「……」
「ムラクモさん、顔が全力でデレデレしてます」
ノゾムくんがムラクモに突っ込むのは、その時も今も同じ台詞だった。いやほんと、やれやれ。




