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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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214.調査が済んで、その後で

 とりあえず必要なことだけはメモしたので、それを懐にしまって部屋を後にすることにした。あまり長居してもあれだし、何というかシノーヨと違って息苦しい感じがするというか。


『まま、だいじょぶ?』

「おう、大丈夫だよ。ありがとな、タケダくん」


 こいつは鈍感なんだろうか、割と平気な顔してたけど。いや、あんまり顔変わらないけどさ、蛇だし。

 そんなタケダくんを肩に乗せて部屋を出ると、扉からちょっと離れたところでテンクウさんが待っていてくれた。俺たちに気がつくと、慌てたように駆け寄ってくる。


「あらあら、もうよろしいのですか?」

「はい。ありがとうございます、本当に助かりました」

「いえいえ、お気になさらないでくださいな」


 外面全開で対応してるんだけど、ちゃんとできてるのかね外面。まあそれはそれとして、テンクウさんはほんわりと笑って聞いてきた。


「お探しの資料は見つかりまして?」

「はい、おかげさまで。さすがは太陽神教の総本山、珍しい資料も大切に保管されていましたよ」

「それは良かったですわ」


 次の外面はアオイさんだった。さすがにムラクモは口開くとやばいのか、無表情を装って何も話さない。必死に……多分タケダくんガン見している。口開くとやばいって、もしかしてこっちの意味かもしれないけどさ。

 みんなで図書室を出るか、という時になってテンクウさんが、「そうそう」とぽんと手を叩いた。


「『龍の卵』についてですが、明日明後日にも上で決定が出るのではないかという話です。ここ数日、神官長様が上を集めて話されているとのことで」

「結構早いですね?」

「まあ、さすがに世界の大事でもありますし。とは言っても、基本的にはのんびりしたものですが」


 おう、もう結果出るのか。何とかしてもらえたらいいなあ、とは思う。主にタケダくんが、お友達になりたがってるようだし。しかし、ほんと話早いなと思ってたら、やっぱり理由はあったようだ。


「ですが、コーリマ王都のこともございましたから。この総本山までは黒の手も伸びてこないとは思いますが、シノーヨやユウゼにこれ以上問題が起きては大変ですしね」

「ああ。コウリンさんがお話聞いてくれたそうで」

「ええ。……今日から別の者に変わったようですが」


 ん?

 今日から別の人に変わった?

 何でだよ。特に問題ない、と思ったんだけど。


「何かあったんですか?」

「さあ。詳しいことは、私にもよく」

「そうですか……済みません」

「いえ」


 アオイさんが尋ねても、テンクウさんは力なく首を振るだけ。ああ、これ知ってても知らなくても答え出てこねえわ。探っても無駄っぽいな、うん。

 テンクウさん、こっちの探ってるっぽい視線に気づいたんだろうね。慌てて話題変えたよ。


「と、ところでそろそろお食事の時間ですよ」

「あー、もうそんな時間ですか?」

「ええ。熱心に調べてらしたのね」

「ははは……」


 飯の時間、と言われた途端鳴き出す腹の虫ってすっごく都合がいいよなあ。ま、ここは話題変更に乗るか。というか、飯食おう飯。これはさすがに、全員一致だった。




 夕食食って、部屋に戻って扉を閉めて、まず俺たち3人が口にした台詞はこれだった。


「怪しいですよねー」

「怪しいとしか言いようが無いというか」

「他に何を言えばいい」


 いやほんと、アオイさんじゃないけど他に何言ったらいいんだか。

 コウリンさんがカイルさんたちと話して、俺たちと話した翌日にどっか行っちゃうなんて、何かおかしくね?

 そりゃ、イコンの友達と文通とかしてたそうだけどさ。でも、今とっかえる理由には、ならないだろう。

 そう考えていると、ムラクモがひょいと手を上げた。


「調べて来ます」

「ムラクモ、大丈夫か?」

「これでも、カイル様付きの忍びなので」


 コーリマ王家付きの忍び。王家についてるからには腕は良いはずなんだよね、うん。だから俺も、アオイさんもこの際止めるのはやめにした。やっぱ怪しいし。


「深追いはするなよ」

「当然。では行ってくる」

『いってらっしゃーい、きをつけてねー』

「! い、行ってくるぞ!」


 タケダくんのセリフ、彼女にはしゃーしゃーとしか聞こえないはずなのにめちゃくちゃテンション上がったな、今。そのままでムラクモは、するりと部屋を出て行った。


「……大丈夫ですかね、ムラクモ」

「本人も言っていたが、カイル様付きの忍びだ。しょうもないヘマはせんだろう」

「ならいいんですけど」


 ま、まあ確かにそうだけど。伝書蛇の一言程度でヘマこいてたら、王家付きの忍びなんてやれねえよな。

 はあ、と息をついた、その時。


 どん。


「ん?」


 何か、天井裏から誰かがどんと足踏み鳴らしたような音がして俺は、顔を上げた。いや、そんなの聞こえるような造りの建物じゃないはずだ、って気がついた時には何か遅くて。


『まま。けっかい』

「はいぃ?」


 今、目の前にいたはずのアオイさんがいない。部屋はそのままなんだけど、何か空気が重い。タケダくん曰くの結界ってやつかよ、これ。

 んで、今さっきムラクモが出て行ったばかりの扉が開いて、そこからするりと入ってきた人がいる。とっさに俺は、ローブのポケットの中にタケダくんを押し込んだ。


「……こんばんは。白の魔女様」

「神官長、さん?」


 入ってきたそのひと、神官長さんは、この前会った時と同じように色気のある笑みを浮かべながらするすると近づいてくる。足音聞こえないのが怖いんだけど。

 そうして目の前で立ち止まり、ほっそりした指先で俺の顎をくいと持ち上げた。


「小耳に挟んだのですが……あなた、『異邦人』なんですって?」


 急に低い声になった神官長さんの顔が、鬼とか般若とかのお面みたいにくわっと歪む。まるでゴミかなんか見るような目が、まっすぐに俺を見つめていた。

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