207.インペリアルスイート、かも
延々怒っててもしょうがないので、おとなしくテンクウさんの後ろについて歩く。桟橋から石造りの階段を上がって、ユウゼの神殿と似た感じの白い建物の中へ。そのまま、そんなに厚手じゃなくて歩きやすいじゅうたんの上を歩いて行く。
すれ違う人たちがこっち見て慌てて避けたり頭下げたりと、えらく忙しい。ま、見てるのは俺じゃなくて俺の肩の上だろうけどさ。
『ままー、ぼくなんかした?』
「白いのが珍しいだけだろ」
『そっかなあ? かんだくんやそーだくんのほうがきれいなのにねー』
その原因であるところのタケダくんは、いつもどおりで何よりである。とは言えソーダくんと離れてしまったので、相変わらずしょげてるんだけど。あとムラクモ落ち着け、殺気隠しきれてないから。アオイさんを見習え。
なんてことを考えてるうちに、泊まる部屋に到着したらしい。
「ご滞在中は、こちらの部屋をお使いくださいませ」
「ありがとうございます……わー」
しっかりした木の扉をぎー、と開けるとその向こうには、大変豪華な部屋が広がっていた。白い綺麗な壁、窓にかかってるゆったりしたカーテン、細かい装飾のついた家具、あと室内のじゅうたんえらく厚手。あんまり使ってないだろこの部屋。
なお、同レベルの内装を見たことあるのは1回だけだ。コーリマ王城ってとこだけどさ。
「豪華ですねー」
「最高レベルのお客様にお泊まりいただく、そのためのお部屋でございますから」
ちと嫌味っぽく言ってみたんだが、テンクウさんには通じてないのか口調が変わらなかった。ま、いいけど。
しかし、こんなお城と同じくらいのレベルの内装揃えるなんて金かかっただろ。
「どっからこんな金出てきたんですか」
「太陽神教は、全て信者様のご寄付で成り立っております」
「はあ」
……金持ちががんがん金出してくれてる、ってことね。そーいや、黒の神信仰の方も貴族とか金出してたもんなあ。スポンサー重要。
とりあえず荷物置いたところで、テンクウさんはこっち向いた。ほにゃん、と笑う顔は可愛いんだけどなあ、何か第一印象あれだからなあ。
「これより、昼食のお時間となります。ゆっくりお食事いただきましてその後2時頃に神官長様とのご面会、ということになりますがよろしいでしょうか」
「はい」
あ、良かった。何とか飯食えるくらいに回復はしてるから、ぶっちゃけ腹減ってんだよねえ。少しゆっくりできそうだから、ちょっと気が楽かな。
と、アオイさんが足一歩踏み出してきた。
「……我々は、面会の場にも同席できるということでよろしいでしょうか」
「護衛の任についているということですので、ご同席いただけると思います」
「それなら構いません」
あー……いや、確かに神官長さんと2人っきりとか俺、やだけどな。でも、そういう可能性もあったわけか……いや、予定が変わってどうのこうのとかなってもいやだな。よし。
「お願いします。神官長なんて人と会うのは初めてなので、失礼があったらいけないと思いまして」
「承知いたしました。では、こちらに昼食を用意いたしますので、少しお待ちくださいませ」
作った外面バンザイ。ちょっと済まなそうに言ってみたら、意外と通るらしい。
あんまり使いたくないけどな、この手は。いやだって、男がこれやったらキモいじゃねえか。俺は、ガワが女だから通用するってだけで。
ともかく、テンクウさんはそそくさと部屋を出て行った。ばたん、と扉が閉まったところで無言のままだったムラクモも含め、全員がほーーーーと息を吐いた。皆緊張というか、そういう感じだったんだな。
んで、俺が口開いて最初に吐き出した言葉。
「……マジでこれ、寄付っすか」
「おそらくそうだろうな」
アオイさんの呆れ声での返事に、大マジかよーと肩を落とす。いやいや、一応宗教なんだからこう、いろいろ使うところあるでしょーとか思うわけなんだけど。
ムラクモはすぐそばにあるテーブルの脚をごん、と蹴った。ムラクモの蹴りでびくともしねえんだから、よほどしっかり作られてるんだろうね、あれ。
「各国の盟主や貴族、大商人からもかなり金が入っていると聞きます」
「まあ、そういった金がないと神殿の維持や神官たちの教育などもできんのだがな。例えば、ユウゼの神殿は領主殿をはじめとした住民からの寄付で成り立っているようなものだし」
うん、アオイさんの言うことも分かる。ユウゼの神殿じゃあお祈りとか、お守り売ったりしてそれなりに収入はあると思うけど、それでレッカさんのご飯とか神殿の修理とかまかなえるとは思えないし。
「無論、うちからも些少ながら出ているんだが」
「出してるんですか」
「何だかんだで、お前も世話になってるからなあ」
「……はいめちゃくちゃお世話になりました」
……年末年始は思い切りお世話になりました。はい。
入った部屋はリビングに当たるようで、奥に寝室がある。そっち覗きに行ったら、ベッドは2つ並んでいた。なお、ベッドルームもう1つある模様。まじ豪華だな。
んで、ベッドの1つ見てタケダくんが、声を上げた。
『まま。ぼくようのねどこがある』
「あれ、本当だ」
そのベッドの枕元。アキラさんのお店でも見たことのある、伝書蛇の寝床がきちんと置いてあった。ま、タケダくんの話は通ってるんだからこいつ用に準備されてたとしてもおかしくねえか。持ってきたやつ、ソーダくん用に預けちゃったしなあ。
「太陽神教としても、伝書蛇の存在は重要だからなあ……どうする? タケダくん」
どうする、なんて聞いたのはほんの気まぐれというか。寝床があるんだから、当然タケダくんはそこで寝るものだと思ってたんだよね、俺。
『……ぼくは、ままといっしょにねる』
「俺と?」
『そーだくんといっしょにねたかったのに、ひとりだったらぼく、さびしい』
「……そっか。分かった、一緒に寝ような」
『うん』
ああ、そうか。
ソーダくんが俺預かりになってから、タケダくんはずっと一緒だったもんなあ。そりゃ寂しいわ。
ごめんな、ほんとうに。




