201.お茶がてらのお話
とりあえず、買い物である。ソーダくんのための布団なので、棚に並んでる商品のところに連れて行ってやった。おや、何かどきどきそわそわしてるぞ。
『ど、どういったふとんがよいのでしょうか……』
「ん? 寝て試してみ?」
『は、はい。しつれいします』
こういうのは、本人というか本蛇が試すのが一番だよな。というわけで、いくつかにぽてんと寝転んでみては具合を確かめているソーダくんと、『いいおふとん、えらべるといいねー』と見守っているタケダくんの図である。ラセンさんとカンダくんも、何か興味深そうにこっち見てるなあ。
で、カイルさんがふむ、と感心したように言った。
「……こう言ってはあれなんだが。ムラクモが一緒じゃなくてよかったな」
「あ、あれ見て悶えますよねきっと」
「………………だよなあ」
何だ、今の間は。それと、カイルさんが微妙にしょげてるのは気のせいか? あれ?
「しゃー、しゃしゃしゃ」
『ままー。かんだくんがねー、ままずれてるねだって』
「へ?」
「あらあら」
タケダくんの通訳は合っているようで、ラセンさんの視線がえらく生暖かいのが分かる。
……ということは、だ。
ムラクモが一緒じゃなくて良かったってのは、伝書蛇見て悶えるからじゃなくてそのー……そういうことかこの野郎。ええいカイルさん、てめえがはっきりしやがれこのイケメンど天然王子がー。
で。
ソーダくんは『こ、これがいいです』と緑と白のチェックの布団を選んだ。もしかして、自分とタケダくんの色だからかな、と思いつつ購入。まあまあのお値段だけど、取り扱いに注意すれば長持ちするんだって。
その後はアキラさんが、「久方ぶりじゃし、茶でも飲んで行け」と誘ってきた。せっかくのお誘いだし、お客さんも俺たちしかいないって状況なので御馳走になろうか。カイルさんもちょっとは機嫌直せよな。
そんなわけで、ラセンさんも含めてお茶の時間と相成った。伝書蛇も、飲んでも大丈夫なお茶っていうのがあるらしくて出してもらってる。……好きな味聞いて、買っていこうかな。
「シノーヨに行っておったんじゃて?」
「はい。大公殿下から、アキラさんのお話をちょっとだけ伺いました」
「ヒョウちゃんめ、相変わらず元気そうじゃのー」
シノーヨの話が出た途端、これだった。マジでヒョウちゃん、でいいのか大公さん。
まあ、アキラっちとヒョウちゃんならほんと、よくお似合いだろうねえははは。
もしかして、恋人と言うよりはケンカ友達とかそっちのほうだったんだろうか、この人ら。何か、その方が光景がたやすく想像できる。ついでに言うとアキラさんのほうがしょっちゅう勝ってそう。何でかね。
「んで何じゃ、大雑把な話はラセンから又聞きしたんじゃが。ヒョウちゃんとこの使い魔に、すごいのが紛れておったんじゃって?」
「ほんとに大雑把ですね」
「でも、間違ってはいないでしょう?」
「まあ、確かに」
ラセンさんの説明がマジで大雑把だったのか、アキラさんが大雑把に聞いたのかはこの際置いておこう。追求しても意味がねえし。
とりあえず、神の使い魔については説明しといても大丈夫、とカイルさんからOKもらったので説明する。すーちゃんって名前とか、ムラクモにサービスしたあたりはラセンさん込みで受けたよ、うん。
「む、ムラクモってば、良かったじゃない向こうから来てくれてー」
「ひゃはははは。あのお嬢ちゃん、確かに使い魔愛はすごいもんがあるんじゃがそーか、そこまでかあ」
そんなに笑うところ……だよな、うん。そうでなくても、ムラクモのあれとあと特定部位攻撃と縛り方は特徴ありすぎるし。
今の勢いで軽くこぼれたお茶を台拭きで拭きながら、アキラさんは何か満足気に頷いた。
「ま、ヒョウちゃんやお嬢ちゃんに懐いたんであれば、そのすごいのも大丈夫じゃろて。よかったのう、強いお仲間ができて」
「しゃあ!」
『すーちゃん、やさしーよ』
『すざくさまは、たいへんはくりょくがありました』
……カンダくんは何言ったか分かんないけど、タケダくんとソーダくん、多分そこじゃねえ。
まあそれはともかくとして、カイルさんがそこから話をうまく続けた。そういう話はできるんだよなあ、この人。
「で、その関係で太陽神教の総本山に問い合わせの文を出してきたところなんです。その、すごいの……神の使い魔が、そこにいるかもしれないので」
「ほほう」
今一瞬、アキラさんの目がきらんと光ったような気がした。何だ何だ。
「……もし、総本山に行くことになったら気をつけるんじゃよ?」
「気をつけるようなところなんですか?」
「まあ、黒の危険はまずないと見て良い。それはわしが保証するえ」
そりゃそうだろう。太陽神教の総本山に、シオンはじめ黒の過激派が突入するとは考えにくい。シオンの眼の力は男には一発だけど、女相手には手間がかかるっていうし。太陽神教の神官さん、女性多いって前に言ってたしなあ。
「なんじゃが、何しろ市井の状況に疎い。船で3日ほどかかる海の中の孤島でな、外部との連絡もそう頻繁にあるものではないからの」
黒は心配ない、ということはつまり別の危険があるわけで。それを、アキラさんが困ったように眉尻を下げつつ教えてくれた。
「ついでに言うと、特に上の神官どもは太陽神様さえ信じておれば世界は何とかなる、と脳天気に思うておる。レッカ殿はまだそうでもないがな」
「……逆にめんどくさそうですね、それ」
「じゃろ? まともに話が通じれば良いが、何しろタケダくんが白の伝書蛇じゃ。そんなのを連れた強力な魔術師、なんてもんが出現した時点で神の御使いの顕現じゃー、なんて浮かれたこと抜かしよるかも分からんし」
世間知らずかつ神様信じてればOK、な神官さんが治めてる孤島。分かりやすく言うと密室とかそんな感じか。
……マジでめんどくさそうだ。そのまま総本山のトップ……と見せかけて軟禁とか、そういう話になったら目も当てられねえ。妙に考えがぶっ飛んだけど、マンガやラノベの読みすぎかね、俺。
そうでもなさそうだと思ったのは、この中で一番人生経験豊富すぎるアキラさんがこんなことを言ったから。
「カイル坊や、ラセン。くれぐれも、このお嬢ちゃんはしっかり守らにゃならんぞえ? タケダくんも、ソーダくんもな」
「無論、分かっております」
「もちろんですわ。ねえ、カンダくん」
「しゃああ!」
『ままはぼくがまもるから、だいじょうぶだよ!』
『わたしも、じょうさまをしっかりおまもりします』
……俺何者? いや、まあ人呼んで白の魔女、らしいけど。
何てーか、妙に不安になってきたなあ。なんぼなんでも、総本山に行けとかそういう話にならなきゃ良いけど。




