200.おふとん
ふと、カイルさんがこっち見るのが分かった。……俺というか、俺の肩に載ってる伝書蛇たちというか。
「『子猫の道具箱』に寄って行こう。店主殿にも、話は通しておいたほうがいいだろうしな」
「あ、そうですね。シノーヨの大公さんのこともありますし」
その提案には、素直に賛成しよう。大公さんのことを置いといても携帯食の補充とかも必要だし、何か新製品出てるかも知れないしな。
大公さんって言えば、アキラさんのことをアキラっち、なんて呼ぶ人なんだよね。ま、自分のことヒョウちゃんって呼んでね、だったからなあ。しかしショタジジイとロリババアって、案外お似合いなんだろうが何でくっつかなかったんだろ、とか考えるのは野暮か。人のこと言ってる場合じゃねえだろお前、なんて言われそうだし。
んなこと考えてると、タケダくんがぱたたと翼を羽ばたかせた。
『ままー。そーだくんに、あきふゆようのおふとんかってあげてー』
「おう、了解。そだな、まだ小さいし寒いの苦手だもんなあ」
『おそれいります……』
言われてから気づくのは問題だよなあ。ソーダくんはまだ生まれてそんなに経ってなくて、だからタケダくんよりも特に寒さが苦手だろう。いや、伝書蛇って基本寒いの苦手だけどな。後、ソーダくんはそんなに恐縮しなくていいから。俺が面倒見るの、当たり前だから。
「今度は何だ?」
「ソーダくん用に秋冬用の布団が必要だって、タケダくんに言われたんですよ」
「なるほど。それなら、ちょうど良かったな」
「ですねー」
例によってカイルさんには聞こえてないので、意訳して説明する。いい加減慣れたけど、地味に面倒なんだよなあ。ま、うちの子たちはそうそう難しい話するでもなし、いいけどさ。
……にしても、何というか。どこからどう見ても、これデート中ですよねー。
いっそ、デートを楽しむなんて気分になったほうが良いのかもしれないな。中身は男、とかぐだぐだ言ってても俺は、結局女になっちまってるわけなんだし。カイルさんのお母さんみたいに、ゆくゆくは……なんてことにもなりかねないわけだし。
「どうした? ジョウ」
「いえ、別に」
ところで、カイルさんよ。なし崩しにくっつく気は、俺にはないからな。はっきりさせやがれ、男だろ。……俺も中身男だけど、はっきり言えよという女の子の気持ちは何か分かったよ、うん。
「こんにちはー」
「あら。隊長にジョウさん」
「ありゃ」
お店に入ると、奥のほうで棚の品物見てたラセンさんがくるりと振り返った。見てた棚は伝書蛇用品で、ということはラセンさんも俺と買い物の目的は一緒ってことか。
「カンダくんのものか?」
「ええ。新しい寝床でも買ってあげようかと思いまして」
「なるほど……宿舎のリネンも、新しい物を入れるべきかな」
伝書蛇の寝床から、自分らの布団に話が飛ぶのがカイルさんである。俺はともかくとして、女は結構気にするもんでこまめに交換したり洗ったりするんだよね。ま、俺も虫が湧いても嫌だし。カイルさんなんかも元王子様ってこともあって、結構気は使ってるらしいんだが、後の野郎どもがなー、うん。
「特に男性用はかなりヘタってるみたいですからねえ。それと、破れたのいつまでも使わないでくださいね。補修するならともかく、そのままにしてたら直せなくなるでしょうが」
「……分かった。マリカに相談してみよう」
マリカさんなら、安いものとか見繕うの上手いからなあ。って、そういう話しにこの店に来たんじゃねえだろ、俺たち。
「おやおや、若い衆が昼間っから布団の相談かえ。そういうことは布団屋でするがええわ」
店主さんも同じ考えだったようで、奥からのっそりと姿を現して開口一番、その台詞をぶつけてきてくれた。そういや、シノーヨ行ってたからちょっとご無沙汰だっけな。
「あ。ご無沙汰してます、アキラさん」
「おお。お嬢ちゃんもお前さんたちも、元気そうで何よりじゃわいなあ」
『げんきだよー』
『てんしゅさま、ごぶさたしております』
タケダくんもソーダくんも、嬉しそうにくねくねぱたぱた。言葉が分からなくても感情が分かりやすいのは、ほんと助かる。こっちからするとカンダくんを見てる時、みたいな感じ。
「カンダくんも、相変わらず元気じゃねえ。可愛い後輩たちのお手本に、ならにゃいけんぞ?」
「しゃああ」
ぱたぱたくねくね。うん、マジで嬉しそうなのが分かる。ラセンさんも「ええ、この子も勉強していますから」ってほんと嬉しそうな笑顔だし。
面倒な会話を長々続ける気なら、この店にある翻訳機のついた寝床借りればいいし。少なくとも俺とラセンさんなら使い魔経由で相手の使い魔の言ってることは分かるから、特に問題ないし。
ともかく、まずはソーダくんの布団選ぼうな。




