199.まずは連絡を
ユウゼに戻って一息ついて、それから俺はカイルさんと一緒に神殿に行った。なんでもカイルさん、シノーヨ出てくる時に大公さんからお手紙預かったそうで、それも見せるんだとか。
で。
「はあ……」
一通り俺たちの話と、あと大公さんの手紙を読んだレッカさんのひとことめがこれ。ちなみに表情はぽかーん、という感じで、目がまんまるになっている。
ま、分からんでもないけどな。いきなり大昔に封印された神の使い魔ってのがいて、どうも太陽神教の総本山にその1匹がいますよー、なんて言われたわけだし。何のゲームだよ、全く。
「……いきなりのお話で、さすがに驚きましたわ。ですが確かに、シノーヨ大公様の文にも同じことが書いてございますね」
とは言え、大公さんのお手紙も効果を発揮したらしくレッカさんは、ちょっと困った顔はしたけれど納得してくれた模様。そうなると、話は早い。
「承知いたしました。総本山に早文を出して問い合わせてみましょう」
「済まない。大神官殿にはよろしくお伝えください」
「よろしくお願いします」
『れっかおねーちゃん、おねがいしますー』
『れっかさま、よろしくおねがいします』
「あらあら。伝書蛇にまで頭を下げられては、頑張らなくちゃいけませんね」
俺とカイルさんと一緒に、ぺこんと頭を下げるタケダくんとソーダくん。言葉は分からなくても態度で分かるから、まあレッカさんも顔が緩むよなあ。
出してくれたお茶を飲みながら、レッカさんは「実は」と話をしてくれた。
「私は見たことがないんですが、総本山には古くより伝わる秘宝があるんです。その名も『龍の卵』というもので」
「割と分かりやすいネーミングですね……」
「セイリュウ、でしたか。神の使い魔という存在を知らなければ、名前の意味は分かりませんわね」
だなあ。卵っつーことはやっぱり卵型の石とか、そういうもんなんだろうから。もしかしたら神の使い魔の1、セイリュウ絡みのネーミングかもしれないってのは、その存在を知らないと分からないよな。
「関連する可能性は十分ありますからね。シノーヨ大公殿下の文も送りますので、総本山もきちんと調べてくださると思いますよ」
「ありがとうございます」
「レッカ殿、お手数をかけて申し訳ない」
いやほんと、その総本山とやらには俺どころかカイルさんもろくなツテないもんなあ。最大のツテがいま眼の前にいるレッカさんなわけで。マジ、手間掛けてごめんなさい。
「いえ、お気になさらないでください。黒の過激派が動いている以上、こちらとしても手を打たねばなりませんからね」
とはいえ、レッカさんたち太陽神教の方も大人しく見てる場合じゃないだろうってのが実際のところ。黒の穏健派であるイコンは今のところ平穏らしいんだけど、過激派というかシオンのやつがもう、何やってるか分かんねえし。
まあ、ほぼ確実にイコンのどっかでビャッコ探ししてんだろうとは思うんだけど、そっちは大公さんから直でお使い出してもらったのでそっちの連絡待ち。何もないと良いんだけどなあ。
なんてこと考えてると、ほにゃんとした笑顔のレッカさんと目が合った。
「それに、太陽神様よりお言伝を頂いておりますので」
「ことづて?」
「白の魔女、と呼ばれるジョウ殿の力になってやってほしい、と。お元気なあなたの姿を見ているのが、太陽神様は楽しいようですから」
「は、はあ……」
うわあ、前にもう少し丁寧に祈ってねー、とか何とか言われたの思い出してつい頭抱えたよ。マジで太陽神さん、見てるのかねえ。参ったなあ、もう。
「太陽神様によほど好かれているんだな、ジョウは」
「知りませんよう。会ったことないんですからー」
カイルさん、思い切り大人げないんで頬ふくらませるのやめてくれますか。すねてもイケメンはイケメンなのがずるいんだよ、あんたは。
「それじゃ、よろしくお願いします」
「はい。お任せくださいまし」
2人してレッカさんに頭を下げて、そのまま神殿を後にする。もうそろそろ季節は秋で、昼間はだいぶ涼しくなってきてるので散歩するのに悪くない。あ、こっちでも秋は食欲の秋らしい。美味いもの食いたいなあ。
ふと、俺の肩の上に乗ってるタケダくんが頬をつついてきた。
『ねえ、まま』
「何だ? タケダくん」
『ぼく、せーりゅーさんと、おともだちなれるかなあ?』
こき、と首を傾げる。いやもうムラクモがここにいなくて以下略。あいつの使い魔スキー、シノーヨで大公さんとこの使い魔たちにまみれてからひどくなった気がするんだよねえ。
ムラクモのことは放っておいて、タケダくんの言葉にうんと頷く。多分タケダくんは、すーちゃんと同じようにセイリュウさんとも仲良くなりたいんだろう。
「なれるといいな。ソーダくんも」
『はい。せいりゅうさまにも、じょうさまのおみかたになっていただきたいです!』
「何がなれるといいんだ?」
おう、1人だけ会話からほったらかしになっていた、すいません。しょうがないので、カイルさんにはざっと意訳して伝えよう。
「ああ。タケダくんが、セイリュウさんとも友達になりたいみたいで。すーちゃんがああでしたから」
「なるほど」
ふむとひとつだけ頷いてから、カイルさんは不意に顔をほころばせた。マジでおのれイケメンめ、そういう表情の変化が何か変な意味でムカつく。
「……神の使い魔が友達、か」
「おかしいっすか? カイルさん」
「いや。案外、そういうものなのかもしれないと思ってな」
カイルさんの答えは、何というか微妙なものだった。ま、本来なら神様の使い魔なんだからすっごく偉いとか、トンデモなく強いとか、そういう相手なんだろうしなあ。
……ところでさ。
今更ながら気がついたんだが、何で俺は当然のようにカイルさんと2人で歩いてんだ? いやこれ、外から見るとデートじゃね?
「どうした? ジョウ」
「……あー、いえ、別に」
「そうか」
……不思議そうに首を傾げるんじゃない、カイルさん。さっきのタケダくんとよく似た表情しやがって、おのれ。




