193.はてさてどうする?
「ところで」
すーちゃんをもふもふしていた大公さんが、改めてこちらに向き直った。はて、何を聞かれるんだろう。
「コーリマには、書庫のようなものはないのかね? シノーヨと違うて昔から王都はあの場所だったと聞いておるから、ありそうなもんなのじゃが」
ああ。
あるよなあ、国の歴史とか書いてしまっておくようなところ。考えたことなかったけど、そういやコーリマにもあってもおかしくないのか。
「俺は知りませんねえ。ムラクモ、知ってる?」
「……コーリマにも書庫はあるはず、です。ただ、ゴート王陛下はそういうのには疎かったので」
「ああ、力こそパワーって感じの人だったっけ」
確か、そんな感じのことを言われてた気がする。俺が知ってるのは、ムラクモのダイレクトアタック食らって伸びたおっさんだけどなあ。
まあ、口に出すのはやめておく。今更何言ってもな、うん。
それに、今のコーリマの実権握ってるのは王姫様だし……あ。
「案外今頃、王姫殿下が掘り起こしてるんじゃないかなあと思うんですが」
「あ、なるほど」
「ふむ。それはあり得るかのう」
俺の意見に、ムラクモも大公さんも頷いてくれた。というか、地味にすーちゃんもこくこく頷いてないか? ま、使い魔って人間の言葉分かるはずだしな。
「ミラノ殿下の尻叩いてやらせてるか……ああ、兄上も並んでやらされている光景が目に浮かぶ……」
「ゲキさん、回復してたらその横に並んでますね」
俺とムラクモは、ついつい同じポーズをしてみせる。つまるところ、眉間に指先当てて考え込むというか頭痛抑える感じのポーズな。
コーリマの書庫がどこにあるのかは知らないけど、ミラノ殿下とイカヅチさんとゲキさんが涙目になりながら書類やら何やら漁ってる光景は目に浮かぶなあ。つーかコーリマ、どこまで回復してんだろ?
「コーリマも、王都を占領されて大変だったようじゃの。まあ、ぼちぼちでも回復すればいいんじゃが」
「王都の機能が少しずつ回復しているようなので、数年中には何とかなるでしょう」
『おうとかあ。まま、せーじゅおねーちゃんげんきかな?』
「王都で一番元気だと思うぞ、俺は」
大公さんとムラクモがど真剣な話してる横で、俺はのほほんとしているタケダくんに答えてる。何だろう、この図は。いやまあ、タケダくんのおかげで王都ぶんどり返せたんだけどな。こいつ、自覚ねえだろうし。
とか何とか考えてると、大公さんが妙なことを言い出した。
「セージュ王姫殿下の噂は、シノーヨでもよう流れておるよ。できればわしの妃に欲しいもんじゃが」
「は?」
「……あの、大公殿下?」
伝書蛇2匹込みで目を丸くしても、おかしくねえよな? つか、妃ってお妃様のことで、要するに正妃殿下みたいな人のことでえーと。
……あれ、そういえば。
「あれ? 大公殿下、ご家族は」
「ん? わし、独身じゃよ」
「マジすか」
『そういえば、つかいまはおおぜいいらっしゃいますししようにんのかたもいらっしゃいますが、ごかぞくにあたるかたはおみかけしませんでしたね』
「マジか」
い、言われてみれば。つかソーダくん、さすがと言うかよく観察してんなー。ここらへんは、タケダくんにはできない話だ。
と、大公さん、こっちに身体ごとくるりと向いた。
「白の魔女様、何ならどうじゃね? わしとしては大歓迎なんじゃが」
「は?」
ちょっと待てショタジジイ。
何でいきなり唐突にこっちに話を持ってくるんだ。外見可愛い系ショタ、中身は超長生きジジイめが。
「いやあのえーとですね、そういうのって考えたことないんですが」
「おやまあ。美人さんじゃし魔術師としても超一流と聞いておるし、モテておるんじゃないのかや?」
「それはないです」
誰がモテてるんだ誰が。いや確かに周囲に男多い環境だけど、コクヨウさんにはハナビさんがいるしハクヨウさんは案外奥手っぽいしタクトやノゾムくんはまだまだ子供だし……………………あ。
「……あ、でも何か、カイルさんが」
「おや」
今になって、カイルさんがやーたーらー俺を側に置きたがるというか一緒に馬に乗りたがる理由にたどり着いた。あーうん、俺鈍いわ。やべえ。
「先約済みじゃったか。これは失敬」
「先約ー?」
「いえ、カイル様はまだ約定まではたどりつけておりません」
ムラクモ、突っ込むのはそこじゃねえというか。この場合の約定、約束ってのはつまり、おつきあいをおうけしますとかそういう方面の意味だよね? それ以前だから、カイルさんはっきり言って来てねえから!
というか何で今になってというか、唐突にそういう理由とかそこら辺とか分かるんだ俺! やばいやばいマジヤバイ顔熱い。
「……ふむ。魔女様、どうやらそこら辺鈍感なようじゃね」
「………………みたい、ですね……」
大公さんにとどめ刺されて、頷くしかない俺であった。あーまー、好かれてる自覚ってのはっきりしたのが今ってどうだよ。参ったなあ、もう。
「まあ、そこいらへんは致し方無いわのう。気づいたのであれば、しっかり考えるが良い」
「……は、はい」
「やっとか。遅いぞ、ジョウ」
「すんません……」
はっはっはー、これはムラクモに遅い言われてもしょうがねえよほんと。
つか、これって女として考えないと駄目ってことだよな。カイルさんは俺の中身男って分かってるはずだけど、彼の場合お母さんと同じ、なわけだから。
不意に、タケダくんとソーダくんとすーちゃんが顔を上げた。
『まま。おそと、ちょっとくろい』
「へ?」
『まじょではないようですが、あまりよくないけはいです。じょうさま、おきをつけください』
タケダくんとソーダくんが教えてくれた。げえ、連中シノーヨまで来たのかよ。この国、黒の信者少ないっつーてたもんな、確か。
シオンじゃねえみたいだから、そこだけはマシっちゃマシか。
「きしゃあ!」
「おお、分かった。すーちゃん、ボンテンとタイシャクを呼んできておくれ」
「きしゃ!」
一方大公さんは、すーちゃんにさっさと指示を出して外に飛ばさせた。ボンテンとタイシャクって、例の20匹はいない使い魔の名前なんだろうなあ。
「黒か?」
「うん。シオンじゃないみたいだけど」
「分かった」
ムラクモも、短い言葉ですぐに把握してくれた。……俺たちも、応戦しなくちゃならないよな、これは。




