191.使い魔の主
散らばったメモをまとめていると、ふとタクトが顔を上げた。
「あのう、いいですか」
「どした? タクト」
グレンさんが彼の名前を呼んだのをきっかけに、俺や伝書蛇たちも含めて全員の視線がタクトに集中する。その中でタクトは、何枚かのメモをテーブルの上に並べた。
「これ、ゲンブとかスザクとかのこと、どれもこれも『神の使い魔』としか書いてないですね」
「だな。それが?」
「いや、どっちの神様か分からないなあって思って。黒の神、とも太陽神様とも書いてないんで」
「あ」
最初、何言ってんだろうって思った。いや、ゲンブは確かに黒の神の使い魔だって、シオンも言ってたし。
多分、シオンのあの発言が先入観とかいうやつになっていたんだろう。他の3体も全部、黒の神の使い魔だという思い込みに。
「タケダくんはアルビノで、太陽神様の御使いって言われてるわけっしょ。それなら、ゲンブが『黒の神の使い魔』って書かれててもおかしくないと思うんですよねえ」
「ふむ。確かに、他の3体も『神の使い魔』であるとしか書かれていないな」
それが思い込みだってことに、タクトの指摘で気付かされた。カイルさんも、何か感心したようにメモを読み直す。で、その1枚をぴらりと示した。
「とはいえ、ここに記されている『以前の戦い』では、4体の使い魔は全て黒の神の側についたようだが」
「でも、こっちの資料に『黒の神側が支配した』ってわざわざ書いてますよねえ」
グレンさんが別の1枚を示す。……えーと、これってどういうことだろ。
「……どちらの神の使い魔か分からない、もしくはどちらでも使える、ということですか」
「そう考えるのが、妥当なところだろうな」
ムラクモが口にした推論が、まあ多分結論としていいところなんだろう。どっちでも使えるから、黒の神が4体全部自分がたにつけた、っていうことだよね。そうすると。
……よくその使い魔封印できたな、太陽神さん側。てか、黒の神側って使い魔味方にしないと勝てねえとかそういうレベル?
「でも、どうやって味方に引き込んだんでしょうねえ」
「案外、早い者勝ちだったりして」
「ま、まさか……もしそうなら早速私が」
タクトの疑問につい、軽口叩いてしまった。でもムラクモ、そこで反応するのはどうかと思うぞ。使い魔スキーもそこまでいきゃ、立派なもんだけどさ。
「あはは、いくらなんでも単純すぎですよねえ、ははは」
「しゃあ」
『え、そうなの?』
いやはや、さすがにないわと思って頭を掻いたんだけど、何故かフーテンがそれに反応した。タケダくんやソーダくんと、何やらふんふんと会話している。
「タケダくん、ソーダくん。フーテン、何て?」
『あのね、はやいものがちはありかもしれないって』
『はい。おおがたのつかいまですゆえ、わたしどもよりもあるじのけっていほうほうをきょうせいされているかもしれませんから、とのことです』
「マジか」
フーテン、俺の冗談を真に受けたというかマジでそういうパターンありなのか。慌てて俺は、仲間たちに向き直った。例によって、この子たちの言葉を通訳しなくちゃいけないからな。
「なるほどのー」
そこら辺のことをもう、直接言っちゃえということで報告してみると大公さんは、うんうんと頷いてくれた。一緒に飯食ってる横では、あの水に住んでる伝書蛇がお魚をもぐもぐと食っている。やっぱ、水の中に住んでるから魚の方が肉よりも好きなんだろうな。
「言われてみれば、そうなんですよね。俺、タケダくんを使い魔に出来たのはたまたま、孵ったばかりのタケダくんに会うことができたからですし」
『たまごからでて、はじめてあったのがままだもん』
『わたしはおやと、てんしゅさまでした。すいてんどのは?』
「しゃ、しゃしゃ」
『たいこうでんかですか。やはり』
一緒にもぐもぐと魚を食いながら、タケダくんとソーダくんもうんうんという感じで俺に答えてくれる。まあ、ソーダくんはちょっと特殊例だからな。つか、その子スイテンっていうんだな。
ちなみに、食ってる魚は淡水魚らしく、何度か食ったことのある鮎に近い感じだと思う。伝書蛇がまるごと食えるサイズなんで、あまり大きくはないんだけど。塩焼き美味え。
「というか、太陽神様の使い魔といえば伝書蛇、とわしらの間では相場が決まっておったからな。異なる姿の使い魔は黒の神側、と考えすぎたのかも知れんの」
「でも、すーちゃんは伝書蛇じゃないですよね」
「あれは神の使い魔じゃのうて、わしの使い魔じゃからねえ」
「はあ……」
ああ、そういう先入観もあるのか。確かに、あの神殿で見た太陽神さんの像に一緒にいたことからも分かるけど、伝書蛇は太陽神さんの御使いとして認知されている。まあ、それもあって使い魔といえば伝書蛇、って感じなんだけどな。俺もそれ以外の使い魔って、すーちゃんが初めてだったわけだし。
「しかしまあ、早い者勝ちともなると後3体、どうにかして探し出さんとな。おそらく、黒の側は大体情報を掴んでおるのじゃろうし」
「コーリマ王都を狙ったのも、考えてみればゲンブを手に入れるためでしたしね」
地味に一緒にいるカイルさんが、最後の魚を食べかけて小さくため息をついた。
気持ちは分かる。そのためだけにシオンは王城をどろどろのぐちゃぐちゃにして、王都を酷い有様にしたんだもんな。
……あれ。
「ってことは、こっちが他の使い魔ゲットするにしてもそのくらいの魔力集めないといけないってことになりません?」
「……」
何かごめん。カイルさんどころか、大公さんまで固まるとは思わなかった。
いや、でも要するに、そういうことだよね?
 




