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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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173.使用人部屋

 あー、疲れた。

 さすがに10数名ビンタやらゲンコツやらで殴ると疲れるよ。つっても、こればかりは他の誰かに代わってもらうわけにはいかないしな。

 なお、大臣その他は会議室にすっ転がしたままである。一応男女別に並べて、カーテンなりテーブルクロスの余りなり掛けておいたけど。正妃殿下んとこが片付き次第、こっちも片付けてくれるらしい。


「おつかれ、ジョウ。痛くないか?」

「いえいえ、大丈夫ですよう……ちょっと手、赤くなりましたけど」


 何でか知らないけれど俺を見ながら困った顔をするカイルさんに、とりあえず笑ってごまかした。

 微妙に痛いのは痛いんだけど、まあいざとなったら足でも使うつもりだし。……蹴って効果あるのかどうかは知らん。しまった、ミラノ殿下辺りで試しときゃ良かったか。


『じょうさま、ごむりをなさらないほうが』

『まま、いたい? だいじょぶ?』

「だから、大丈夫だって。……ムラクモ、なでるか?」


 ソーダくんとタケダくん、何か涙目に見えるのは気のせいか。よしよしと肩の上の2匹をなでてやりつつ、ムラクモに話振ってやろ。さっきからガン見してるの、さすがに分かるから。


「いっ? い、いいのか?」

「もちろん。こいつらが嫌なら嫌がるだろうけど、そうでもないみたいだし」

「そ、そうか。では……」


 俺が勧めてやると、ムラクモは一瞬そわそわした感じになって、それからソーダくんの方に手を伸ばした。そっちが近いからだけどな。


『むらくもさま。どうぞ』

「ああ、可愛いなあ……」


 おとなしく差し出されたソーダくんの頭をゆっくりなでて、すっかり極楽気分なムラクモ。……ある意味さっきの正妃殿下とかと似たような顔で、そりゃ怖いなと思った。


「……こういう理由でこんな顔なら、良いんだがな」

「カイルさんも思いました?」

「ジョウもか」


 カイルさんと顔つき合わせて、同時に頷く。だよねー、伝書蛇なでてむっはーしてるだけならまだマシだよねえ。




 それからも、ちらほら転がってる使用人さんとか大臣の秘書さんとかを殴ったり蹴ったりした。蹴ってもOKだったようである、うん。

 で、お城の中の半分以上殴って蹴ってしたかな、って辺りで、ハクヨウさんにばったり会った。というか、多分カイルさん探してたみたいだけど。


「若」

「ハクヨウか。どうした?」

「あーはい。使用人部屋の方ごっそり片付けたんですが、まだマシなのがいて事情聴取できそうなんでどうしようかと思いまして」


 ハクヨウさんはちょっと頬を赤らめてる。ああ、コクヨウさんより生真面目な人が恐らくは壮絶な、それこそエロゲかAVでもないようなエロ現場見ちまったんだろうなあ。お疲れさん。

 というか。


「まだマシ? どういうことだ」

「マシといっても、どうにか会話が通じるというレベルなんですが」


 ああ、まだ俺が殴ってないからかな。でも、それで会話はどうにか通じる、んだ。

 ……そこで気がついて目を見張ると、何かムラクモと目が合った。


「それでマシってことは……」

「……まあ、想像しないほうがいいってことだと思う」

「だよなあ」


 他の皆さんは要するに、正妃殿下レベルの色ボケ中ってことか。殴って戻るもんかね、と思ったけどやってみないと分からない、もんなあ。


「分かった。案内してくれ」


 だから、カイルさんに素直に従うことにしよう。ハクヨウさんまで付いてるなら、大丈夫だって。




 使用人部屋っていうのは、お城の下の方にある。男女別の大部屋がいくつかあるんだけど、まあそういうことで主に男用の大部屋がエロ現場になっていた、らしい。

 らしい、ってのは、さすがに臭いやら何やらがおぞましいことになってるっつーんで、全員引っ張りだした後とりあえず立ち入り禁止になってるからであった。

 で、使用人の中でも偉いさんが使ってる部屋がまだましだったってことで、その部屋のベッドに茶髪のメイドさんが1人、普通に縛られて寝転がっていた。『まま、くろいよー』とはタケダくん談。そらまあ、そうだよねえ。


「あはあ……おかえりなさあい、ね、ねえ、はやくう……」

「拘束しているのか」

「はい。あのー……手を空けとくとその、ところかまわずおっぱじめるので」

「発情したままなのか……まあよく分かったが」


 ああ、話は通じるってそういうことかい。カイルさん、頭痛してるみたいにこめかみ揉んでる。こんなんばっかりかって感じだよな。……そうなんだけど。

 というわけで、やっぱり俺の出番だった。


「あ、俺やりますよ。黒の気出した方が、もうちょっとマシかと思いますし」

「そうだな。頼む」

「面倒かけてすまない」


 カイルさんに頼まれてハクヨウさんに謝られて、俺大したことしてないんだけどなあと思う。いや、大したことなのかもしれないけど、それは一緒にいてくれるタケダくんのおかげだし。

 ともかく、軽くぺちっと頬を叩いてみた。


「ごほっ、ごふ、ぐふうっ」


 途端吐き出された黒の気は、何か今まで見たのよりドロッとした感じだった。今までのは霧みたいだったけど、今回はマジで黒ゲロというか泥っぽい感じ。濃厚になってるのかな、と思う。


「……あ、ああ」


 ぼんやりしていた表情はそのままだったけど、でも何となく正気っぽい感じになった気がする。気がするだけで、実際はわからないけれど。

 で、泥が消えたのを見計らってハクヨウさんが、口を開いた。


「……お前たちは、何をしていた。誰の命令だ」

「はい……私たちは、黒の魔女の命令で、男から魔力を搾り出し腹の中に貯め込んでおりました」


 ハクヨウさんに問われて、メイドさんはすらすらとしゃべり出した。まだとろーんとした感じでこっち見てるから、もしかしたらしゃべったら以下略、なのかもしれないけどさ。


「男は毎夜腰を振り、女の腹に魔力を流し込め。黒の魔女は私たちに、そう命じました。拒否権などは全く無くて」


 ……俺もなんだけど、カイルさんもハクヨウさんもムラクモも顔がひきつってるのが分かる。シオンのやつ、一体何命令してんだよ。マジエロゲかよ。

 その魔力で、あのゲンブってやつを復活させるのが目的だったのか、あいつ。


「存分に魔力を搾り取った後眠りますと、翌朝には腹の中の魔力は失せております。下働きから交代で数名ほど食事当番と、そして清掃当番を任されておりましたがそれ以外はもう、目覚めた直後には湯を浴びて、そうしたらすぐにでも魔力が欲しくて欲しくてたまらなくて」


 ああ、飯は食ってたし掃除もしてたのか、と変なところで感心した。

 まあそりゃ、ずこばこやりまくって腹上死ならともかく餓死ってのは、シオンもないなあと思ったんだろうね。もっとも、飯食えばそれだけ長く生きてくれて、それだけ長く魔力搾り取れるって考えたんだろうけど。

 でも、王妃殿下の部屋とか思い出したけど掃除してもあの臭いって………………考えてるだけで頭痛くなってきた。とっとと片付けたいなあ。


『まま、まま、おねーちゃんおかしい』

「へ?」


 タケダくんに言われて、慌てて視線を戻す。うわ、正妃殿下と同じ目してら。完全に発情したまんまだよ、これ。

 つか、縛られたまんまでにじり寄ってくんなよ怖いよ勘弁してくれよ。ぎゃー。


「ね、ねえ、まだまだし足りないのです。お願いします、私たちに魔力をくださいませ。魔力のたっぷり詰まった子種を、搾り取らせてくださいませえ」

「わー!」

『じょうさまにちかよるな!』

「こら、やめないか!」


 いや、今の俺に頼まれても子種ないから、と慌てて手を引いたところにソーダくんがしゃーと威嚇してくれて、そこからムラクモがかばってくれた。そのまま首筋に一撃食らわせて、失神させる。

 ……めちゃくちゃ気持ち悪い。この城全体が、そういうことに使われてたことに。

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