170.国王の私室
俺はカイルさんと、えらく満足した顔して戻ってきたムラクモに連れられてまずは国王陛下の私室に行くことになった。……イカヅチさん、どうなってることやら。
使用人さんたちの方は、コクヨウさんが部下引き連れて受け持ってくれることになった。多分使用人部屋とかでえっぐいことになってるだろうから、謁見の間に引っ張り出しておくってさ。
「使用人の使っている部屋は、正直換気が余り良くなくてな」
カイルさんが肩をすくめながら言った言葉に、俺もうわあと顔をしかめるしかない。換気の悪い部屋でエロ三昧やらかしたら、そりゃ臭いだろうなー。
「後で大掃除、ですか」
「風で吹き飛ばしたほうが早い、気がする」
「ムラクモ、誰がそれやるんだ? ラセンやジョウにやらせたら、間違いなく城の土台が吹き飛ぶぞ」
「それはそうですが……」
うんまあ、そんなイカ臭いような部屋、ふっ飛ばしたほうが早いと俺も思うけどな、カイルさん。
そんなことを言っているうちに、やたらがっしりした扉の前についた。何となく装飾も凝っていて、ああ偉い人がここにいるんだなあって分かる。
「父上、カイルです。失礼します」
一応お父さんの部屋だからか、カイルさんはきちんとノックしてから扉を開ける。途端、こうもわっと……なんというかな、そこまで臭くはないんだけど何かなあ、っていう空気が漏れ出てきた。
「か、カイル、か?」
「父上?」
「カイル様、お1人で行かれては!」
「待ってくださいって!」
扉入って優の部屋は応接室というかそんな感じになっていて、がっしりした丈夫なテーブルセットがあった。内装はシンプルなんだけど、全体的に重厚感溢れてる感じ。
で、国王陛下らしい声はその奥の、もう1つある扉の中から聞こえてきたようだ。寝室、別なんだな。
カイルさんはその扉に飛びつくようにして、今度はノックもせずにがちゃりと開けた。俺とムラクモも、慌ててその後を追いかけて。
「お、おお、オンナあ!」
「わー!」
途端、がっしりマッチョなおっさんがカイルさんを押しのけるようにして飛び出してきた。髪の色がカイルさんと何となく似てるから、これが国王陛下かよと考えてる暇もなく、ぱんつもふんどしも付けてねえマッチョおっさんが俺に飛びかかってくる。
「失礼します陛下!」
「落ち着け父上!」
『ままをいじめるなー!』
『じょうさまになにをする!』
……で、ムラクモの特殊部位攻撃とカイルさんの鞘付き剣の一撃と、タケダくんとソーダくんがそれぞれぶっかました光の盾を見事に食らって国王陛下は、そのまま床にぶっ倒れた。じゅうたんは謁見の間よりふかふかしてるから、顔面ぶつけたところで大して痛くはないと思うけど。
つーか、すっぽんぽんなんだから特殊部位攻撃、直接攻撃になってねえか? そっちの方が大丈夫かな、国王陛下。
「……ジョウ、大丈夫か?」
「あー……はい、ちょっとびっくりしましたけど」
カイルさん、俺が元男だってことくらい知ってんだろ。そんなにビビってねえよ、野郎の身体なんぞ見慣れてら。
もしかして、また襲われかけたことの方、かな。カイルさんも国王陛下も。
「……こうなったのも、シオンのやつのせいですし」
「それでも、済まない。もっと気をつけるべきだよな……」
『かいるおにーちゃん、いっぱいきをつけなきゃだめだよー!』
『かいるさま、もっときをつけてください!』
へこむカイルさんに、俺の両肩からしゃーしゃーと伝書蛇がダブルで文句をつけてくる。いやまあ、俺のこと気にしてくれるのはありがたいんだけどな。正直耳の側でうるさいし、一応釘刺しておこう。
「タケダくん、ソーダくん、落ち着け。カイルさんはわかってるから」
『……しゃー』
「あまり怒ってやるな、ジョウ。タケダくんもソーダくんも、主を守りたいだけなんだ」
ムラクモがたしなめてくるけど、顔がにやけてる。はいはい、さすがにこいつら可愛いのは分かったから。
それはそれとして、ここに来た目的を果たさないとな。
「とりあえず、国王陛下何とかしましょう」
「ああ、そうだな。済まんが、頼む」
「はい」
いやさ、全裸マッチョに進んで触るってのは正直あれなんだけど、これしとかないと起きた途端また同じことの繰り返しになるわけだしな。覚悟を決めて、やるしかねえ。
『ままー、まっくろー』
「ああうん、そうだよねえ」
うわあ、タケダくんがさすがにものすげえ嫌がってる。ソーダくんはまだ耐性あるっぽいんだけど、『きをつけてくださいね、じょうさま』とこっちも心配そうだ。余計に何とかしないと、……王姫様やカイルさんがな、かわいそうだろ。
「失礼しまーす」
ぺたり、とうつ伏せに倒れてる国王陛下の、背中あたりを触ってみた。その途端、陛下の身体が跳ね上がる。
「おわっ」
「ぐほっ! げほ、ごほ、ごぼぼおっ!」
そして、四つん這いになってげほげほ咳き込む陛下の口からもう、本気で黒ゲロと言って差し支えないレベルの黒の気がどどどっと溢れ出してきた。ステージ効果のドライアイスに黒い色つけたら、こんな感じになるんじゃねえかな。
「……さすが、国王ともなると吹き込まれた量が半端ではないな……」
その黒の気が私室の床に充満するほど溜まって消えていくさまを見ながら、カイルさんは呆然と呟いた。




