160.守り
「王都までは後、どれくらいですかね」
「今の感じだと、おそらくあと2日ほどだな」
森に潜むようにして食事を摂りながら、カイルさんに聞いてみる。パンとそこらで獲ってきた獣の肉と野草、あと持ってきた出汁のもと、みたいなので作ったスープ。……あー米食いてえ。いや、贅沢言ってる場合じゃないけどね。
一応同行してくれてる荷馬車の中に伝書蛇用携帯食積んでくれてるので、タケダくんとソーダくんにも食べさせている。伝書蛇って燃費はいいけど、戦闘するとやっぱり腹は減るんだよねえ。
「戦闘、あと1回2回くらいですかね」
「そんなものだろうな。ソーダくん、こぼしてるぞ」
「しゃあ」
「わあ、済みません!」
ここまで一晩と半分、で今はお昼。その間に戦闘がもう1回あったんだけど、俺が防御専念のラセンさんが攻撃担当でほぼ瞬殺だった。ついでに司令官は以下省略。
前回と今回と、兵士の生き残りさんたちを捕まえて尋問してるようだけど、司令官以外は普通に普通だった。一応タケダくんとソーダくん連れて俺が確認したから、間違いないと思う。
で、上からの命令でユウゼ・シノーヨ連合軍が侵略してくるから食い止めろ、ってことだったらしい。その割に兵士少ないよね、ってコト聞いたら、時間稼ぎじゃないかって。
……時間稼ぎ。黒の魔女、王都で何かしてるんだろうか。でも。
「時間稼ぎの割に、やっぱり誘い込んでますよね」
「ああ。王都で何かしらやっているんだが、最後のひと押しに君が必要……なんてことはないと思うが」
「魔力は無駄にありそうですから、それかもですね」
「魔力だけなら、王都の住民をたぶらかせばどうにかなる」
うわあ、カイルさんも結構エグいこと考えてるなあ。でも、そうか。
黒の魔女は、男なら視線合わせりゃ言いなりにできる。女でも、多少エロ方向に持ち込めば何とかなる。王都には結構人住んでたし、それを無差別にって考えられる俺も嫌だなあ。
「ま、なんにせよ行かなきゃいけないのは同じですし」
「そうだな。頼りにしているぞ、ジョウ」
「あ、はい」
そんなことを言って笑ってくるカイルさんは、相変わらずイケメン王子であった。俺もその笑顔を見て、何かほっとする。
ところで、何で白黒コンビやスオウさんとかは距離とってるんだ? 別に俺とカイルさん、仲良いとかそういうもんじゃねえんだけど……ああ、俺ガワ女だから、誤解されてるのかな。やべえ。
「いえ、普通に仲良く見えますけど」
食事の後かたづけしてるときに、一緒に作業手伝ってくれたタクトに聞いてみたらそんなことを言われた。マジか。
「まあ、俺としてはカイルさんはいろいろ恩人だし。力になれるならなりたい、とは思ってるけど」
「ジョウさん、そういうところ鈍感なんですか?」
「……かもしれねえ」
うーん。一応まだ中身男のつもりだから、女として男のこと考えられるようにはできてねえんだよな。それで鈍感って言われたら、それはしょうがないだろ。
そんなこと考えつつタクトの方ちらりと見てみたら、髪の間からサークレットが見えた。そうだ、こいつも男なんだからやばいんだよな。
「お守りかあ……」
「え? ああ、これですか」
つい口に出して呟いたのをタクトに聞かれて、ついでに苦笑された。
「ジョウさんは女の子なんですから、まだ僕たちよりは楽ですよ」
「まあなあ。近づかれなきゃ、平気らしいし」
王姫様の証言によれば、だけど。そっから黒の魔女が力つけてないとも言えないけど、でもひと目でずきゅんな男よりはマシっちゃマシ、のはず。
『ままは、おまもりあるからだいじょぶだよ』
「え?」
と、タケダくんにそう言われた。お守りって、何かあったっけ?
『ぽけっとに、いれっぱなしだよ』
「しゃ?」
ポケット、ってローブの?
慌てて両手突っ込んで確かめてみると、おお、片方の手に何かぶつかった。取り出してみて、やっと思い出す。
俺がこっちに来てすぐの年末に、無事に年を越せるようにってアキラさんが送ってきてくれたお守りだ。
「なんだ、まだあったんだ」
「何です? それ」
「年越しの週を乗り切るためにって、アキラさんにもらったんだよ」
「ああ、そうか。『異邦人』だと、守り無いですもんね」
不思議そうにこっち見るタクトに説明すると、ああと納得してくれた。年末のあれ、こっちじゃ当たり前の常識なんだもんな。そして、俺みたいな『異邦人』には面倒だってことも。
「まあ、しっかり持っといたほうがいいですよ。最悪何かあったら、砕いて力を放出させるって手もあるそうですから」
「そんなことできるんだ?」
「話には聞いたことがあるんですが、実例は見たことないですねえ」
「そっか」
何その最終使い捨て兵器。ああでも、黒の力から俺を守るためのお守りなんだから、そういう力がこめられてるわけか。で、最悪の場合砕け、と。
ふむ、覚えておくか。




