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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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158.出撃

 1週間ほどして、準備を整えた俺たちはユウゼの街を発った。街の外でシノーヨの部隊と合流し、そのまま北上してコーリマを目指す。……というか、何でまたカイルさんと相乗りなんだろ、俺。


「そんなに気になるか?」

「気にしますよー」

「そう、気にするもんでもないと思うがな」

「そうそう。この方が、奇襲を受けた時意外とやりやすいんだから」


 思わず頬を膨らませた俺に答えたのは、ハクヨウさんとその馬に相乗りしてるラセンさんだった。ちなみにコクヨウさんとこにはムラクモが乗っているので、まあコクヨウさんのおとなしいこと。うっかり何かすると怖いからなあ。


「安心しろ、今回は飛ばないから。……敵襲を受けた場合はそうでもないがな」

「うげー」


 はっはっは、と明るく笑うカイルさんの声を後頭部に受けながら、俺は正直うんざりしている。いやだって、イケメン王子隊長と一緒に馬に乗ってるってだけで、周囲からの視線がきついんだもんよ。いや、馬乗せてもらってるから楽は楽なんだけどな。

 馬で空かっ飛ばして王都まで1日半。地面を行くと、少なくとも倍はかかるらしい。まっすぐ行けた場合な。もちろん、今は向こうと戦争中なわけだから、ほいほい進んで行けるわきゃねえ。


「それに、いつ戦になるか分からんからな。君やラセンのような魔術師には、その時のために体力を温存しておいてほしいんだよ」

「ま、そりゃこっちも助かりますが」


 向こうじゃチャリや電車使ってたから、あんまり長い距離なんて歩き慣れてないからな。こっちの連中とくらべて体力ないのはわかってるから、おとなしく乗ってますよへいへい。


『まま、おうまさんのうえ、たかくてながめいいねー』

「しゃあ」

「……タケダくんも、ソーダくんものんきだね……」


 さすがにこの状態で肩に乗っけてるわけにはいかないので懐から顔を出す、伝書蛇2匹。両方とも、楽しそうにしゃーしゃー息を吐いている。と、タケダくんがこっちを向いた。


『かいるおにーちゃん、おでこのかざり、かっこいいね』

「サークレット、って言うらしいぞ?」

『はーい。さーくれっと』


 タケダくんが指摘した通り、カイルさんの額には金色の輪っかみたいなのがはまっている。カイルさんだけじゃなくて白黒コンビ、スオウさんやグレンさんといった野郎どもがつけている、黒の魔女除け。俺やラセンさん、ムラクモなんかが付けてないのはまあ、女だからということで。


「タケダくん、何だって?」

「ああ。サークレット、かっこいいですねって」

「そうかあ。ありがとう」

『どーいたしましてえ』


 ええいお前らのんきすぎるわあ! 今から黒の魔女ぶちのめしに行くんだろうが、まったく。



 俺たちのいない間、街はテツヤさんをはじめとした別働隊と、それからアキラさんにお留守番してもらっている。なので、こちらは王姫様もラセンさんもいるしシノーヨの部隊もたっぷりとついてきてくれてるんだよね。俺も、タケダくんとソーダくんの伝書蛇2匹体制だし。

 ……でも、あの寝床を離れてからソーダくんの言葉は分からなくなった。彼としてはフウキさんの安否とかそこら辺が分からない限り、俺とちゃんとした主従契約できないからな。タケダくんが通訳してくれるから、大丈夫だと思う。

 で。


「ユウゼより参った、タチバナ・カイルだ。既にこちらからの伝達は届いていると思うのだが」

「シノーヨ北方軍司令、カヅキ・スオウだ。ユウゼ軍に同行してるのは、ご理解いただけるよな?」


 今俺たちがいるのは、ラータから西にだいぶずれた森の外れ。さすがに正面から国境の街を突破するわけにもいかないもんで、俺たちは森の縁を迂回する感じで進軍しているわけよ。ここからもう少し西には山がそびえていて、その向こうにはイコンに向かう道がある、らしい。後で地図見よう。

 でもな、ある程度まで来たところでまあ、分かりやすくコーリマ軍が待ち伏せしてたわけ。大体ここらへんが国境だよねー、って辺り。木を組んで柵作って、その向こうから槍と弓矢がこっち向いてる。

 その前に馬で進み出たカイルさんと、スオウさん。スオウさんの方には誰も乗ってないんだけど、大丈夫なのかね。……誰か乗ってないといけない、わけじゃねえんだが。


「そちらさんに戦う意志がねえってんなら、こっちも面倒がねえんだが。素通ししてくれねえかね?」


 スオウさんががりがり髪を掻き回しながらそう言い放つと、その返答は司令官らしいおっさんの挙手だった。あ、こらやべえ。


「タケダくん、ソーダくん!」

『ひかりのたてー!』

「しゃあ!」


 こちらの部隊の前に、特大光の盾が展開される。一瞬の間を置いてかきかきかきんと、矢の当たる音がした。ほら、やっぱり。


「風の舞!」


 光の盾の向こうに、俺が魔術を投げる。足元すくって弓の弦斬って、ついでに槍や柵も壊してやれといった感じで風が吹き荒れる。それを見たカイルさんが、さっと手を上げた。


「突撃!」


 俺の魔術が暴れてるから、向こうの状況がめちゃくちゃになっている。そこに、白黒コンビが先頭切って突入していった。後は、歩兵と騎兵が入り乱れての戦闘だ。


「……まあ、話通じりゃ世話ねえけど。世知辛いもんだねえ」


 乱戦の中、ポツリと呟いたスオウさんの声がなぜか、聞こえた気がした。

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