157.子蛇
ソーダくんを抱えたままのアキラさんが、俺たちを見渡した。
「わしは、ソーダくんを神殿に納めてくる。そなたらは、子供と話をするが良い」
「あ、私も行きます。神殿にはちょっと用事が」
ラセンさんがひょいと手を挙げる。神殿って、俺が新年にお守り貰ったレッカさんがいるところだけど、用事って何だろう。
「用事ですか?」
「そう。黒の魔女除けについて、前から相談していたんですよ。それで」
「あー、そりゃ確かに」
「特に我々には必要だな」
ラセンさんの説明で、スオウさんとカイルさんがすごく納得した顔になる。ああまあ、確かに男は魔女と目を合わせたらエロ奴隷とかそういうふうになっちまうしなあ。……マジで俺、どっちなんだろうな、今。
それはともかくとして、お守りねえ。普通に売ってるのがあるんだけど、あれじゃ無理だろうから特別製、になるのかな。そもそも。
「除けられるんですかね?」
「黒の神の力ということならば、太陽神様の守りを強力にしてもらえればある程度は防げるのではないか? 専門家ではないから、私には分からんが」
「まあ、そういうことです」
王姫様も、割と同じ考えだったっぽい。ある程度、だから完全には無理だよなあ、とか思ってんだろうな。そうそう簡単に防げたら、楽なんだけどな。うん。
「もうちょいとすれば、コウジが戻ってくるじゃろ。それまで、頼んだぞえ」
「行ってらっしゃい」
『そーだくんのこと、おねがいするねー』
「しゃあ!」
ま、そういうことでアキラさんとラセンさんは店を出て行った。タケダくんのお願いを、カンダくんも聞いてくれてるようだ。ちゃんと、太陽神さんとこで休めよ。ソーダくん。
さて。
「しゃあ?」
ソーダくんの入っていた寝床に、彼よりはもうちょっと濃い青緑の小さな小さな伝書蛇がいた。背中の翼もかなり濃い色。……初めて会った時のタケダくんよりも、少し小柄かもしれない。
「おー、ちっちぇえな」
「うむ。可愛らしいものだ」
「濃い色だが、いい顔をしているな」
スオウさん、王姫様、カイルさんがまじまじと寝床を覗き込む。あーまあ、タケダくんの時のこと思い出すとこれくらいからしっかりしてると思うけど、でもなあ。
そのタケダくんはというと、翼広げてはしゃいでいた。
『わあ、ちっちゃーい』
「タケダくんも、こんなくらいだったぞ?」
『ぼく、おおきくなったもん』
いや、そりゃまあな。何度か脱皮もしてるし、大きくならないわけがないんだが。……何年くらい生きたら、チョウシチロウみたいなサイズになるんだろう、こいつら。
……てなことを考えてたら、子蛇にぺこりと頭を下げられた。
『はじめまして、しろのまじょさま。おやから、はなしはうかがっております』
「……うん、はじめまして。生まれる前から、大変だったね」
『たいへんだったのはわたしではなく、おやでございましたから』
そ、そうか。白の魔女様、ってソーダくんも言ってたもんな。ソーダくんにとっては主はフウキさんだから、俺のことを別の呼び方するのは当然か。
で、今この子がいるのはソーダくんのいた寝床だ。つまり、伝書蛇の言葉を主じゃない人間にも伝えることができる機能付きなわけで、つまり今の言葉は他の皆にも聞こえていたわけだ。
「……いつも、こんな感じでしゃべっているのか」
「らしいぜ? 親と口調似てるから、遺伝とかそういうのなのかね」
野郎2人が、妙に気が合った感じで会話している。王姫様は、寝床の中をガン見。……これは、ムラクモとよく似た属性かな……いや、男の特定部位攻撃とか特殊な縛り方とか持ってないとは思うけど。
王姫様の趣味とかは今問題じゃないので、置いておく。まずは、この眼の前にいる小さな伝書蛇をどうするか、だ。ソーダくんは、できればフウキさんに仕えさせてやりたい、それが無理なら俺んとこに置いて欲しい、って言ってたけど、この子自身はさて。
「……それで、お前さんはこれからどうしたい?」
『おやのあるじさまにおつかえできないときは、まじょさまにずっとおつかえせよ、とゆいごんをきいております』
「親の主……フウキ殿のことだな」
『はい。せめて、おやのあるじさまにあいとうございます』
この子も、同じ思いらしい。でも、少なくともフウキさんに会わせるってことになると、コーリマ王都までこの子を連れて行かないといけない。こんな小さな子に、それは大丈夫なんだろうか。
だって、少なくとも黒の過激派や、うっかりしたら黒の魔女と戦うことになるし。
「生まれたばかりで、大丈夫かな」
『われわれでんしょへびは、うまれたそのときよりあるじにおつかえするのが、たいようしんさまよりあたえられたやくめにございます。ごしんぱいには、およびません』
『まま。このこ、ぼくがまもるから。いっしょ、つれてったげて』
子蛇は、しっかりした言葉で俺に言ってくる。タケダくんも白い翼を広げて、口添えしてくる。
と、俺と子蛇を見比べていた王姫様が、「いいのではないか?」と言ってきた。
「ジョウとタケダくんがいれば、この子もちゃんと王都まで行くことができるだろうよ。私としても、ソーダくんの願いは叶えさせてやりたい」
「フウキ殿が救えるのであれば、それに越したことはないしなあ」
がり、と赤い髪を掻いてからスオウさんが笑った。ああまあ、確かに王都を取り返せば少なくとも、フウキさんとは会わせてやれるだろうし。多分。
カイルさんは、何も言わなかった。けど、俺と目が合うと、少しだけ笑って頷いてくれる。あー、うん、何か、うん。
よし、と心を決めて俺は、子蛇に向き直った。
「分かった。一緒に行こう。大変だけど、頑張れるな?」
『おまかせください、まじょさま』
小さな伝書蛇は、深々と頭を下げた。あー、タケダくんと違って礼儀正しいなあ……いや、ちっこい子がこれだと礼儀正しすぎてちょっと気になるんだけど。ま、それはタケダくんとでバランス取れてる、と思おう。
……それで、だ。
「名前は、何て呼べばいい? 少なくとも、フウキさんに仕えることになったら、フウキさんに付けてもらわないとダメだろ」
『できれば、おやとおなじなまえでおよびください。おやのあるじさまが、わからないとこまりますので』
「そっか……いいんですかね」
ああ、それでいいのかな。襲名とか、そういうやつ。何となく王姫様に視線を向けて、聞いてみる。いや、この中で一番フウキさんに近いの、この人だし。
「ま、自分でそう呼んでほしいと言うておるのなら、それでよかろう。フウキもきっと喜ぶ」
「……はい」
王姫様の言葉に、俺はそうだよなと頷いた。それから少しだけ。
フウキさん、せめて無事でいてください。俺たちが、王都を取り返すまで。
……そんなことよりも、まずは目の前のこの子のことだ。名前、呼んでやらないと。
「よろしくな、ソーダくん。俺のことはジョウ、って呼んでくれ」
『はい。よろしくおねがいします、じょうさま、たけだくん』
『わーい、よろしくー』
子蛇改めソーダくんは、嬉しそうに小さな翼をぱたぱた。タケダくんは全身使って喜びを表現している。くねくね、ぱたぱたと。
今、ちょっとした不安がよぎった。
この状況をムラクモが見たら、さてどうなることやら。




