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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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152.港側

カヅキ・ネネ視点です。

「姐さんも大変だねえ。ユウゼの港まで出張なんてよ」

「ま、これも仕事だからね」


 ユウゼの港は、シノーヨにいくつかある港と同じように結構大きい。海の向こうから運ばれてくる荷物を積んだ船は、それなりに大きいものだからね。そいつを停めるためには、港もでかくなくちゃやってけない。

 その港で、普段は海に出て魚を捕っている漁師たちが今は、腕まくりをしてあたしの前に並んでいる。皆がこの港、自分たちが帰ってくる場所を守るためにと助力を申し出てくれた。


「それより、あんたたちも良いのかい? 良い波だよ」

「波が良くてもよ、帰ってくる港がなくなってちゃあなあ」

「姐さんたちの腕を信頼してないわけじゃねえんだが、相手はコーリマだしな。いっぺん、ぶっかましてみたかったんだよなあ」

「はは。正直、あんたらの腕を借りるほうがあたしらも楽なんだよね。こっちの港のことはあんまり知らないし」


 その気持ちはありがたいから、あたしも素直に本音を口にする。

 ユウゼの漁師たちとあたしや部下たちが顔見知りなのは、漁師たちが時々シノーヨの港に寄ることがあるからだ。取れた魚を売りに来たり、食料や水の補給に来たり。逆にうちの漁師がユウゼの港に来ることもあるから、旦那共とこちらの住民も知り合いではある。

 知ってはいるけれど、港の通路や街の作りなんぞには全く詳しくない。だから、どこをどう守ればいいかは分からない。それは、港を熟知しているこちらの住民に任せることにしよう、というのがあたしと、ユウゼを守る部隊の副隊長の意見だった。


「奥方や。そろそろですぞえ」


 うち付きの魔術師であるギンガ爺が、これまた楽しそうに流木で作った杖をつきながらやってきた。結構長く生きているようで、さすがに杖がないと長く歩くのは大変らしい。


「ギンガ爺。敵の様子はどうだい?」

「馬10、歩兵40に魔術師が1というところですじゃの。多分、魔術師はわしの弟子ですわい」

「なるほど。なら、例の黒の魔女とやらは来てないってことだね」

「さようで」


 確認できたことでほっとする。いや、海の男は夜の方もなかなかお盛んでね。そんな連中が黒の魔女とやらの魔力で暴走して子種まき機にでもなってみろ、あたしたちも腰が抜けて歩けなくなるよ。冗談じゃない。


「アオイ副隊長さん、回り込んでばっさり行くかい?」

「そうですね。こちらはお任せしても良さそうだし」


 一緒に並んでるユウゼの副隊長さんは、もともとコーリマ育ちということもあってかあたしたちよりは上品な戦をするらしい。だから、別に行動してもらうことにする。


「シノーヨの姐さんたちには、寄港したときによく世話になってるんでな。こんな時くらいはこっちが力にならねえと」

「そうそう。港を襲いに来るんなら、余計にな」


 血の気の多い漁師軍団は、皆が皆指鳴らしたり銛だの棍棒だのの素振りをしてたりで、本当にやる気がみなぎってる。職業軍人としては、何だかんだ言っても素人の手を借りるってのはちょっと問題なんだけどね。

 そのくらい、ユウゼが本気だってことをコーリマと、その腹の中に潜り込んでいる黒に教えてあげないといけないからねえ。




 ユウゼの副隊長さんが離れた後、あたしたちは港から外に向かう街道の出口に並んだ。ここらへんは海から少し離れてて、森の木々が近くまで迫っている。その森の向こう、ちらりと見えたのは空を飛んで来る騎兵どもだ。


「では、参りますかの。そら、シンノスケ」

「きしゃああああああああ!」


 ギンガ爺の手が上がると同時に、その背からすっくと伸びる伝書蛇。翼を広げると、人が両手を広げたくらいの大きさになるシンノスケは、まるで海をその身体に写したような深い青色の伝書蛇。こんだけ綺麗な伝書蛇なんて、そこらにはいないと思うね。

 その口が大きく開き、空に向けて光の盾を解き放った。途端、向こう側から撃ってきたらしい光の刃と普通の矢がかんかんと音を立てて跳ね返る。木々を超えて、弓なりに撃ってきたんだねえ。

 それをあっさりと受け止めたシンノスケを背後に、ギンガ爺がにんまりと笑った。


「できの悪い弟子に、ちょいと仕置をしてやらねばの。闇の雨」


 森の向こうに黒雲が沸き起こって、ざああと雨が降り始める。直撃した騎兵ががくんと高度を下げるのは、馬の翼の動きが鈍ったからだ。

 さて、あの雨はすぐ乾いちまうから、のんびりしている時間はない。ちゃっちゃと片付けようか。


「行きな、あんたら!」

「任せとけ!」


 今度は、あたしが手を挙げる。それを待っていたかのように、森の木の中から漁師連中が飛び出した。そうして、使い慣れた網を投げるように、大きな網を歩兵めがけて投げつける。

 動きが鈍ってる歩兵どもの真上で、網は思い切り広がった。で、そのままばっさりと、4割ほどの上にかぶさったかね。そいつらの目前に迫るのは、普段なら大きな魚をしめる時なんかに使う棍棒とか、使いふるしの銛を手に持った漁師たちだ。


「港に網は付き物だろう?」

「姐さんがた特製の、悪党用の網だからな。丈夫だぜ?」


 ああ、可哀想になあ。奴らも仕事だったんだろうけれど、漁師を怒らせちゃあいけないよ。

 ほら、見てみな。自分の周りを取り囲む、ごつい棍棒をそれぞれに構えた親父どもに怯える兵士の姿をさあ。

 おっと、お仕事お仕事。


「あたしらは、フリーの連中を殺るよ!」

『はっ!』


 あたしやあたしの部下たちは、手槍や三叉の鉾を振りかざす。あっという間にコーリマの兵士に、どんどん突き立てていくよ。闇の雨が乾かないうちに、この無様な連中を片付けないといけないからね。

 ほら、見てごらん。こいつらの最後方、1人だけいた魔術師はあっさりユウゼの副隊長さんが斬り倒してる。魔術の援護は、もう向こうにはないからね。これで負けたら、うちの旦那に見せる顔がないよ。


「邪魔だよ! 馬!」


 網に足を絡めとられた馬の上から落っこちた騎兵の顔を槍でぶち抜いて、次に向かう。本当に、これで負けられはしないね。うん。

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