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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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149.開戦

「我はコーリマ王国南方軍司令、ミギワ・トオルと申す。国王ゴート陛下に刃を向けようとした大罪人、セージュの引き渡しを所望する」


 コピペか、と突っ込みたくなるレベルでミギワさんが口上を述べる。その前、といっても弓で射た矢が届かないくらいの距離を置いてだけど、には既に配置完了した傭兵部隊とシノーヨ北方軍の連合部隊がずらりと並んでいる。

 更にその背後にはしっかり閉められたユウゼの門、その上に仁王立ちする領主さんの姿があった。ちなみに俺とラセンさんはその両隣。スピーカー役というか、お互いの声を相手のところまで届かせる魔術があるんでそれ使う役。風の声、っていうんだけどまあそれはいいとして。


「わしはユウゼ領主、ケンレン・ヨリモじゃ。此度はわし自ら、その話を断ろうぞ」

「理由はいかに」

「セージュ姫殿下の罪とやらが、そなたらの背後におる黒の者の陰謀じゃという調査結果が出ておる。わしは太陽神様の信者じゃてなあ、黒の陰謀に屈服する気は毛頭ないのう」


 いやー、さすが領主さん。ミギワさんの後ろにずらりと並ぶ200ほどの歩兵プラス騎兵部隊を目にしても、胸を張って高らかに拒否権発動してるよ。何か、いっぺんやってみたかったんだってさ。コーリマ相手に上から目線。


「何を根拠に、そのような侮辱を口にするか。それは、わが国に対する宣戦とみなして良いな?」

「黒の過激派に対して、我らは戦を仕掛ける。それだけのことじゃろう」


 存分に上から目線、ただし位置的にってのを堪能したのか、領主さんはここまで言ってわははと高らかに笑った。もちろん、この声も届けております。ぎー、とミギワさんが歯噛みしてるのが見えるぜ。

 そして、領主さんの声は門の前にいる連合部隊に向けられた。正確に言うと、その先頭にいる王姫様に。


「なあ? カイル殿、スオウ殿、セージュ姫殿下」

「そういうことだな、ミギワ。お前も敬虔な太陽神様の信者だったはずだが、すっかり黒に染まったか」


 出るって言って聞かなかったんだよ、王姫様。王都から一緒に逃げてきた愛馬のジュウゾウにまたがってもう、やる気満々。半ば諦め顔して付き合ってるカイルさんも、ロクロウタに乗っている。スオウさんだけは、普段から自分で走り回るんだそうだ。


「おとなしく祈っているだけならば、危害は加えん。だが、この街に手を出そうとするならば遠慮無く斬り捨てよう」

「いやあ、さすがにシノーヨとしても、コーリマの軍が黒の手先になっちゃってるのはほっとけないからなあ」


 真剣な口調のカイルさんに対して、スオウさんはちょっとおちゃらけてる感じ。でも、声色がガチだ。ありゃ笑った顔して怒ってるぞ、うん。

 で、さすがに同じこと二度言った上で散々コケにされたミギワさんは、さすがにブチ切れたようだ。


「何を、訳の分からんことを! 構わん、もろともに押し潰してしまえ! 反逆者も、切り捨てて構わぬとの仰せだ!」


 途端、おおおーという雄叫びがコーリマ側から挙がる。これをもって開戦、ってことなんだろう、な。

 そして、同じような雄叫びがこっち側からも。ここで、まずは俺とラセンさんがひとつ魔術をかける。


「光の壁、トリプル!」

「しゃああっ!」

「光の壁、たくさんっ!」

『ひかりのかべ、いっぱい!』


 ラセンさんは、丈夫な光の壁をこっち側のボス……と言うかつまりカイルさんとスオウさんと王姫様の前に、カンダくんと二重に展開。俺は普通の光の壁を、タケダくんと合わせてこっちの部隊全員に1枚ずつ出した。

 ……魔術石の予備もあるから魔力の遠慮はいらねえ、って言われたんだけど、何か余裕あるなあ。俺の魔力、どんだけあるんだろ。


「領主様、お疲れ様でした。後は、私たちにお任せ下さいませ」

「悪いのう。後は頼んだぞ、皆様方」

「はい」


 それはともかくとして。

 ラセンさんと短く会話した後、領主さんがひょこひょこと去っていく。門の中では、領主さんの私兵さんたちやいつも門番してる人たちが、住民の避難を手がけているはずだ。


「最初の一発は良好だな。さすがラセンとジョウだ」

「あらあら。ほめても何も出ないわよ」

「はは、良い結果のほうが良いに決まってますし」


 代わりに顔を出したのはムラクモ。一応、俺とラセンさんの護衛ってことでついてくれてる。後何人かいるらしいんだけど、ここからは見えない。

 で、光の盾の守りを受けたことで勢いづいたこっちの部隊の先頭がコーリマ軍とぶつかったのを見ながら、ムラクモが小さく笑った。


「しかし、あの数でユウゼを潰せると思っているのはお笑いだな」

「そうなんだ?」

「そうよ?」


 俺に答えたのは、ムラクモじゃなくてラセンさん。あーでも、数って言われてもなあ。

 うちの傭兵部隊はせいぜい20そこらで、シノーヨから来てくれた部隊と合わせても150越えるか越えないか。あ、ラータの南に展開してたシノーヨ部隊は入ってない。スオウさん曰く、タイミングを見てコーリマ軍を両脇から挟み込むように動かしたってさ。あと、ネネさんの部隊もここにはいない。

 で、コーリマは200。多分魔術師もいるだろうし、数だけで言えば今のところこっちがちょっと不利、のはず。

 それなのに、何か2人とも自信ありげだし。今のところ、それなりに互角に戦ってるけどこれは、光の盾で守られてるからだろうし。


「何しろこちらには、私とあなたがいるんだから。光の盾、風の舞追加用意して」

「あ、はい。タケダくん」

『まりょくもらうー』


 って、ラセンさんは良いけど俺も数の内かよ。それに、その2人でこの状況に勝ち目があるのか、なんて考えつつタケダくんに魔力を渡す。ああ、がん、ぎんという金属がぶつかる音、なんかうるせえ。


「防御魔術展開!」

「しゃーっ!」

『ひかりのたて!』


 ラセンさんの指示と同時に、伝書蛇たちが光の盾を俺たちの前に展開した。途端、ばちん、ばちんと音がして盾が激しく光る。あ、こっち狙って魔術飛んできたな。


「攻撃魔術行くわよ!」

「はい、風の舞!」

「土の槍!」


 次の指示で、俺は風の舞をコーリマ軍の奥のほうにぶっこむ。例によって足を取られて転ぶ人や馬、そこにラセンさんの魔術で地面から次々に棘のようなものが生えて、ざくざくと。

 ……遠くてよかった。目の前で見たら、慣れてないから洒落にならん。

 瞬間、ムラクモが叫んだ。


「見えた! 敵魔術師、視認! 2名、陣の両端!」

「コクヨウ、タクト、右! ハクヨウ、ノゾム、左!」


 あ、まだ風の声効果切れてなかったんだ。ムラクモの声に反応した、カイルさんの指示が聞こえてくる。そして、指示を受けた2人ずつが素早く走っていく姿も見える。その途中で、こともなげにコーリマ兵を切り捨てていく姿も。

 だって、これは戦だから。

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