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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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144.国の事情とそして異国の事情

 コーリマの部隊が見えなくなったところで、俺たちはスオウさんに向き直った。

 改めて見ると、すげえ迫力あるなあ。もともとがっしりした体格のところに、金属鎧とでかい斧だし。


「……済まない。司令官殿だったのか、礼を言う」

「ああ、いやいや。あんま気にすんなって。俺の顔を知らねえってことは、今まで出番がなかったってことだからな」


 頭を下げたカイルさんに対し、スオウさんの方はのんきに笑っている。まあ、それもそうか。

 ユウゼに何もなければ、わざわざシノーヨから司令官が出てくることもないわけだしな。


「それにあっちも、国挙げて出てきた相手だ。こっちも国の名前出した方が、まだ引いてくれやすそうだったんでな」

「ああ。おかげで助かった」

「ほんと、助かりました。ありがとうございます」


 カイルさんに付き合うつもりで、俺も頭を下げる。いやほんと、あのままだとガチ戦になってたかもしれないし。

 ……まだ、あの刺した感覚は忘れていないから。


「いや。こっちもな、ユウゼをよそに取られたら商売人が商い上がったりになるからよ」

「それでも、ユウゼの街がとりあえず戦に巻き込まれなかったのは事実ですものね」

「ま、そりゃそうだな」


 スオウさんの言葉も本音だと思うけど、でもラセンさんの言ってることも本当だし。

 お互いの利益のために手を組むのは、何もおかしいことじゃないからな。


「ああ、そうそう。さっきの宣言はガチだから安心してくれ。事情やこっちの都合はともかく、コーリマの今回のやり口は気に食わねえ。うちの大公もそれは、多分同じだ」


 それで、俺たちをぐるっと見回してからスオウさんは、白い歯見せてにっかりと笑った。


「詳しくは中で話そうか? タチバナ・カイル隊長殿」




「頼むぞ、アオイ」

「承知いたしました。では、急ぎますので」


 領主さんのとこにはアオイさんが説明に行く、ということになって、門を入ったところで別れた。で、俺たちはスオウさんと一緒に宿舎に戻る。

 さすがに状況が状況なのと、スオウさんの格好もあって食堂においで願う。いや皆、さすがにうわ何だあれって視線集中させるのはやめろよな。


「あ、気にすんな。目立つのは慣れてるからな」

「そういうものなんですか……何か食べます?」

「いや、いいや。茶だけくれ」

「分かりましたー」


 勢いで、俺が皆の分のお茶を用意することになった。ついでなので、タケダくんとカンダくんの分のミルクも調達。皆がついた席に運んで、はいどうぞ。


『わーい。まま、ありがとー』

「しゃー」

「おう、お前ら頑張ったからな」

「……あああああ、ふたりとも可愛すぎる……」


 あー、やっぱ伝書蛇は和む。いやまあ、それはそれとしてだ。後ムラクモ、顔を元に戻せ。スオウさんが目を丸くしてるぞ。


「……彼女、こういう趣味があんのか?」

「こっちの趣味はまだ可愛い方だと思うが」

「ああ、特定部位攻撃と特殊な縛り方ですね……」

「何だ、そりゃ」


 カイルさんは苦笑してるだけだけど、ラセンさんが遠い目になった。確かにスオウさん、実演見そこねたもんなあ。いや、実際に見たらもっと引くと思うけどさ。

 しばらく見ててもムラクモが復活する気配はないことに気がついて、スオウさんは「ま、ほっとくか」と諦めた模様だ。ムラクモ、蛇たち頼んだぞ。うん。


「そもそもユウゼの独立ってのはコーリマとシノーヨ、イコンの隣接3国が相互に契約して決めたもんだ。理由はともかくコーリマが一方的に占領しようとするってのは、つまり契約違反でシノーヨとイコンを敵に回すってこった。あと、カサイ系列の魔術師もな」


 スオウさんの説明にカイルさん、そしてラセンさんが頷く。なるほど、だからシノーヨのスオウさんが口を挟んできたってことか。イコンの人がいれば、やっぱり口出ししてきたんだろうか。

 つか、国2つとカサイ系魔術師が同列に並ぶってのはすごいんだな。ラセンさん、それだけの勢力のトップなんだよね。……その弟子だけどな、俺。

 で、カイルさんが眉間にしわ寄せながら言葉を紡いできた。


「しかし、コーリマを支配しているのは黒の魔女という存在だ。イコンは穏健派とはいえ、黒の神を信仰している」

「穏健派だろ? 他所の国に乱暴狼藉働く過激派どものことは、奴らも手を焼いてるって聞いてるぜ」


 カイルさんの言葉にスオウさんは、平然とした表情のまま答える。


「信仰してる神は同じでも、やり方や何かは全然別だ。イコンは大人しく自分たちだけでまとまってるから良いが、過激派連中は太陽神信仰国はおろか、同じ神を崇めているイコンにだって迷惑掛けてるんだ」

「その点で、黒の魔女とイコンは相容れませんわね」


 ラセンさんが、深く頷いた。あーうん、こういう問題って元の世界でも新聞やテレビで見たな。あの頃は遠い何処かの話だって思ってたけど、こう目の前に出されるとなあ。


「じゃあ、イコンの方も力を貸してくれるってことですか?」

「そりゃな。過激派のせいで自分らの肩身が狭くなってるんだ、こっちに力貸して少しでも名誉挽回に繋げたいだろうよ。イコンは元々資源に乏しいから、ユウゼを取られたら余計に暮らしも苦しくなるし」


 俺の質問に返ってきたスオウさんの答えは、まあ現実的なものだった。自分たちの立場と、それから暮らしの問題。いやでも、正義の為にーとか言われるよりは納得するよ。

 それにしても黒の魔女、一体何をしたいんだろうな。

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