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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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139.実験とそして結論

「んでジョウに、俺に触ってみろと」


 善は急げ、じゃないけれど早く分かったほうがいい。ってことで、俺はムラクモとラセンさんに連れられてコクヨウさんの部屋までやってきた。ついでに隣室から、護衛代わりにハクヨウさんも引っ張り出されてきてる。

 で、一通りラセンさんが説明し終わったところでコクヨウさんがため息混じりに呟いたのが、さっきの台詞なわけ。まあ、要はそういうことなんだけど。


「そういうことだ。万が一があれば安心しろ、久々に腕を振るってやる」

「平気でも平気でなくても食らいそうな気がするなあ……」


 全力で縛る気満々のムラクモに、もうひとつため息。おいこらムラクモ、お前が縛るってことは効果ねえってことだぞ。


「ムラクモが嫌ならコク、俺が殴り飛ばすが」

「ハクも勘弁してくれよ、ったく」

「そうですよ。それに、どちらも手を出さなくて良い可能性だってあるんですからね」


 白い髪がりがり引っかきながらんなこと言うハクヨウさんも、あんまり信じてない顔だな。ラセンさんははて、効果があると思ってるのか自分が魔術でぶっ飛ばしたろと思ってるのか、どっちだろう。


「しゃあ?」

『だいじょぶだよかんだくん、まますごいんだから』


 相も変わらず和ませてくれるのはお前だけだな、タケダくん。ママちょっとうれしいよ、うん。

 でまあ、ごちゃごちゃ言ってても始まらないので、とっとと試してみるとするか。


「あー。とっととやりますよ、コクヨウさん」

「おう、そうだな。さっさとやって結果見たほうが良い」


 しょうがないな、って顔して、コクヨウさんが胸張った。おう、近くで見ると良い筋肉してるよなあ。俺、男の身体の時でもこんな筋肉つかなかったんだよなあ。こんちくしょう。


「それじゃ、失礼して」


 ハクヨウさんとムラクモが軽く身構える中、無造作に手を伸ばして、ぺたり。おー、やっぱ傭兵、筋肉がっしりしてら。

 室内が、静まり返る。とりあえず……俺に飛びかかってはこないんだよな、と思った瞬間、コクヨウさんが口を押さえた。


「……ぐ、ふっ」

「え」

「下がって、ジョウ」


 咳き込んだコクヨウさんの指の間から、何か黒い泥っぽいもんが出て、ふわっと消える。うわ何だこれ。

 思わず手を放した俺を押し戻すように、ムラクモが前に出た。ハクヨウさんに肩を掴まれて、コクヨウさんが床に膝をつく。


「コク!」

「がは、がふう、げふ、げふっ」


 何度も何度も咳き込んでるうちに、黒いもんはだんだんその量を減らしていった。いや、全部消えちまうから量も何もないんだけどさ。

 やがてコクヨウさんは、落ち着いたようにはあ、とでっかく息を吐いた。その背中をハクヨウさんが軽くさすってやってる。……えーと、これは。


『ほらねー、かんだくん。ままがさわったら、くろおちたでしょ?』

「しゃ、しゃあ……」

「いやタケダくん、落ちたとかそういう問題じゃなくね?」


 何やらカンダくんも納得したらしいので、とりあえず黒の気が落ちたってのはマジらしい。んだが、これはちょっと違うんじゃねえか、と思うわけだ。王姫様の時は俺、何も見えてなかったし。


「……確かに、黒の気を排することはできたみたいですね」

「セージュ殿下の時はこんなこと、なかったんですけど。俺、全然見えなかったんで」


 ラセンさんも結果としては納得したようなので、一応説明してみる。それに答えをくれたのは、実験台にされたコクヨウさん自身だった。


「あー。そりゃあほら、俺の方が状態酷かったってこった……ぅあー、水くれ水、口の中がクソまずい……」

「済まない。これでいいな」

「おう、サンキュー」


 手元にあった水差しからコップに注いで、ムラクモが渡してくれる。何でそんなもんあるんだろう、と思ったがちらりと見ると横に酒瓶。あ、水割りとかそんな感じで飲んでんだ、この人。


「ぶはー。水美味え」

「ユウゼの水は浄化装置がうまく働いているからな。それで、気分はどうだ?」

「おう、すっげえスッキリ。頭の奥になんてーか、もやもやっとしたのもあったんだがさっき吐き出した黒いのと一緒にこう、全部出てったって感じだな」


 一気飲みした後ハクヨウさんに尋ねられて、コクヨウさんは清々しい笑顔で答える。それからふと、顔を曇らせた。


「あー……けど、そのもやもや出すのがきつかったな。最後まで奥に張り付いてるようなのもあったし」

「それを、無理やり吐き出したというところかしら」

「ああ。この機会逃したら、多分一生あれくっつけたまんま生きてかなきゃならねえな、って思ったんで」


 ラセンさんの問いに、あれっと思った。

 王姫様は寝てる間にぽろっと落ちたって感じだったのに、コクヨウさんは無理やり吐き出した。

 これって、つまり。


「ということは……見境なしに浄化できるわけではなさそうだな」

「セージュ殿下は染められて時間経ってないし、コクヨウさんはだいぶ薄まってたみたいだし」


 ムラクモの出した結論に、俺も頷いた。

 つまり、相手の身体から黒の気を追い出せるのは事実だけど、限度がある。なるべく早めに対処しないと、ダメだってことだ。

 まあ、そうそう便利な能力はないよなあ。


「それに、2人とも黒の支配に抵抗していたようだからな。本人の心持ちも影響しているのだと思う」

「そりゃそうだ。正気なくした時に自分何やってるか後から気がついて、本気でぞっとしたぞ、俺」


 ハクヨウさんが自分を見ながら言った言葉に、コクヨウさんがすっげえきまり悪そうな顔して答える。あー、ハナビさん壊すなって怒られた時、あたりか。確かに冗談じゃねえな、うん。

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