138.結果とそしてなすべきこと
王姫様の話が終わった後しばらく、室内はしーんとしていた。タケダくんやカンダくんも、さすがに何も言おうとしない。
カイルさんが持ってきたミルク粥を腹に収めた後、王姫様は王都で何があったのかを話してくれた。聞いたのは俺とラセンさん、カイルさんと一緒に来たムラクモ。伝書蛇の2匹もまあ、数に入れておこう。
何か、ムラクモのダメージがえらくでかい気がした。そうか、王姫様を助けてくれた忍びのイカヅチさん、お兄さんだったんだ。
「……済まない、ムラクモ。イカヅチを連れてくることができなかった」
「いえ。兄は、殿下を守るという使命を果たしただけです」
そう王姫様に答えながら、ムラクモはぎりと歯噛みした。カイルさんもラセンさんも、ものすごく苦々しい顔をしている。
まあ、そりゃそうだろうな。
黒の魔女は、相手が男なら目が合っただけで落とせる。コクヨウさんもそうやってえらいことになって、今でも女の子に触れない。それが皆、分かってるから。
だから……こう言っちゃ何だけどイカヅチさん、今頃はその魔女とかメイドたちとかにのしかかって腰振ってるんだろう、多分。言葉には、出さないけど。そこまでデリカシーなしじゃねえよ、俺だって。
それとゲキさんなんて、こないだ王都で会った時は普通に普通だったはずだ。それが、あっという間に魔女の言いなりに王姫様を差し出しちまうなんて、もう、な。ここにアオイさんやノゾムくんがいなくてよかった、って思うべきかな。ああ、でも結局バレるとは思うんだけど。
とりあえず、それは後に置いておこう。まず考えるのは、コーリマ王城のことだ。
「コーリマの王城は、既に黒の手に落ちたということですか」
「うむ。王都全体が支配されるのも、すぐだろうな……フウキも、奴らの支配下だ」
カイルさんの問いの形を借りた断言に、王姫様も難しい顔で頷いた。
王城の中は、とっくの昔に魔女のものになっちまってる。女性である正妃殿下とかメイドさんたちまで陥落しちゃってるんだ、男の国王陛下やらミラノ殿下なんてあっさり沈んでるよな。
そして、王都を守るための結界を構築してるのはフウキさん。彼がもう黒の手下なのであれば、王都全体に黒の気を蔓延させるなんて簡単なんだろう。
そうしてコーリマ王都は、黒の都になる。
……あれ。フウキさんは陥落済みとして、そしたら彼の伝書蛇であるソーダくんはどこから逃げてきたんだ? うちに来た時、王姫様の胸元からぽろって落っこちたけど。聞いてみよう。
「そういえば、ソーダくんはどこで拾ったんですか?」
「いや、私は覚えていない。いたのか?」
「殿下の胸元に入ってました」
王姫様が首振ってそう答えたので、俺が自分の胸指して返事する。だけど王姫様、不思議そうに首かしげてたから、マジで知らないんだな。
「じゃあ、ジュウゾウに乗っていたのかもしれません。兄が助けていたのかも」
ムラクモの言葉に、俺も含めて一同は多分そうだろう、という結論になった。本人、というか本蛇に聞けば分かるんだろうけど、ソーダくんぐったりしてたからなあ。
その伝書蛇について、カイルさんがラセンさんに尋ねた。
「ソーダくんの方はどうなんだ? ラセン」
「『子猫の道具箱』に簡易入院施設があるんでそちらに預けてきたんですが、黒の気を吹き込まれていてそう長くは保たないだろう、とのことでした」
『え、なんで? ままがいるのに』
「黒の気が抜けてもな、それまでにくらった怪我とかがあるだろ」
『そうなの?』
いやいや、しょげるのは分かるけどな、タケダくん。俺が触って黒の気が落ちてもだな、その前ずっと苦しかったんだと思うぞ。それでダメージ受けてたら、いくら黒が落ちてももう、な。
「タケダくんは、何と?」
「俺がいるのに何で保たないの、かな」
「そうか」
さすがのムラクモも、この状況でははしゃいだりうっとりしたりする余裕なんてない。タケダくんと同じように、しょんぼりとしょげている。
で、その俺たちの会話で気がついたようにカイルさんが、「殿下」と王姫様に声をかけた。まあ一応、黒が落ちたらしいという話はしておいたからな。
「ジョウが触れることでその……黒の気が抜けたというのは」
「少なくとも、私は楽になった。ジョウに自覚はないようだし、証言しているのは伝書蛇だが」
きっぱりとした答え。ああ、うん、飯食ったこともあるんだろうが、王姫様はだいぶ復活してる感じだ。もしかしてこれ、黒の影響から抜けたからなのかな。いや、証拠ないんだけど、ほんとに。
「確認する、という手はあります。一応我が部隊には、黒の影響を残している隊員が1人おりますから」
「コクヨウか」
あー。うん、まだコクヨウさん、黒の影響残ってるもんなあ。王姫様に比べて残ってるってのは、数日染まってたからかマジエロ展開になってたからか、かな。
でも、確認ってつまり、俺がコクヨウさんに触ってみるしかないんだけど。
「まあ、いざとなれば私がまた縛ればいい」
「そうなんだけどな」
ムラクモ、縛る方が目的になってる気がするぞ、お前のど真剣な目見てると。でもまあ、まさかふたりきりでやれなんてことはないはずで、だからもし何かあっても大丈夫、だと思う、うん。
難しいことはカイルさんとか、アオイさんとかにお任せするとして俺は、もしかしたら自分にしかできないかもしれないことを。
「……やってみっか」
もしコクヨウさんから黒の気が抜ければ御の字だし。ハナビさんと普通にいちゃいちゃしたそうだったもんなあ。




