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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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132.予期せぬ客人

 帰ってきた瞬間軽くドタバタがあったせいもあって、夜はもうぐっすり眠れた。

 で、翌朝。筋肉痛とかもないのは若さゆえだな、うんなんて思いつつ飯食いに食堂に行ったらば。


「おーす、えーとジョウだったっけな」


 赤い髪の髭親父がいた。昨日よりは軽装で、朝から焼肉定食をがっつり食らっている。いやまあ、サラダとか食ってるよりはよほど似合うけどさ。


「あ、スオウさん、おはようございます。ここに泊まったんですか?」

「いや、さすがにそこまではな。近くに宿取ってんだよ」

「しゃあ」

「おう、伝書蛇殿。元気そうだなー」


 ガツガツ食いつつ答えてくれる、割と気のいい感じのおっさんである。ま、グレンさんのお師匠さんだし、こんな感じだよなあとは思う。

 で、今日は見てるだけで腹一杯になったのでさっぱりしたチキンサラダ定食にして、スオウさんの近くに座ることにした。タケダくんも、割と平気みたいだ。そういやこいつ、グレンさんにもそこそこ懐いてんだよな。シノーヨの人とは、相性いいのかね。

 そこへ、俺と同じ定食持ったラセンさんがやってきた。俺見つけて、みたいだったけど隣にいるのがスオウさんだってことに気がついてか、軽く頭を下げてきた。


「おはよう……あら、シノーヨの」

「……んぐ。おう、カサイの当主殿。朝から邪魔してるぜ」

「迷惑かからない限りは、文句はありません。ジョウさん、ここいいかしら」

「どうぞどうぞ」


 もぐもぐと肉噛みながら手を上げたスオウさんだけど、何気に肉汁飛ばしたりはしてないんだよな。ごくりと飲み込んでしまってから声出したし、そこら辺のマナーはあるのか。あるよなあ、他所の国に来たりするんだしさ。

 んで、ラセンさんが俺の向かいの空き席指したんで、手を差し伸べて勧める。スオウさんとラセンさん、昨夜のうちに顔合わせてたみたいだな。カンダくんは……。


「しゃあ」

「おお、そちらの伝書蛇殿も元気そうで何よりだ」


 カンダくんもスオウさんはOKなのか、なるほど。……一瞬、チョウシチロウとかはどうなんだろう、と何となく思ってしまった。

 それで、ラセンさんが席についたところでふと、スオウさんが俺と彼女を見比べて尋ねた。ラセンさんに。


「ところで、当主殿。もしかしてこちらの彼女は」

「え……ああ、ジョウさんは私の弟子ですよ」

「カサイの弟子だったのか。そりゃ、白の伝書蛇がつくはずだ」


 サラリと俺に話振るんじゃねえよ、ラセンさん。というか、皆タケダくんのこと言ってくるなあ。まあ、確かにレアもんだしこういろいろあるんだけどさ。


「……それ、しょっちゅう言われるんですけど」

「そりゃ当たり前だろうが。白の伝書蛇は太陽神さんの御使いだし、カサイ当主の弟子ってことはかなりの実力を持った魔術師だからな」

「いやその……」


 うん、まあこちらじゃそういうのが結構常識なんだってさすがにわかっちゃいるけどさ。でもなあ。

 ラセンさんの弟子になる切っ掛けがタケダくんだよ、という辺りを説明するついでにもう、俺が『異邦人』だってことも説明してしまうことにした。前が男だったってのは、さすがに言わないけど。


「……何か、えらく大変だったんだな」


 とりあえずざっざか説明してしまうと、スオウさんは目を丸くしていた。あーうんまあ確かに大変だった、はずなんだけどな。いまいち実感ないんだが、思い出してみると確かに。


「過ぎてから考えると、確かにそうですねえ。その時その時は、目の前のことで結構目一杯だったんで」

「それもそうか。国によっても常識違うこともあるわけだし、ましてや世界違うとなったらな。言葉通じるだけでも御の字だよなあ」


 結構あっさりと、こっちの状況把握してくれた。言葉が通じるってのも黒の思惑なんだけど、まあそのおかげでいろいろと助かってるわけで。

 にしても、ほんとあっさりすぎるというか。何でだろう。


「スオウさん、『異邦人』に対して偏見とかないんですね」

「いやまあ、偏見以前にシノーヨってほとんど『異邦人』いねえんだよ。黒が少ねえこともあるんだろうが」


 がり、と赤い髪を掻きながらスオウさんは、ちょっと意外な返事をしてくれた。


「ぶっちゃけるとな。俺が初めて見た『異邦人』はお前さんなんだが、別に普通の連中と変わりゃしねえしよ」


 ああ。国全体として前例とかないから先入観がなくて、結果として偏見持ちようがなかったと。納得。

 で、最初の例が俺で良かったのかね、これは。悪くはなさそうだけど、さ。




 不意に、タケダくんがしゃあ、と息を吐いた。カンダくんも同時だったんで、俺とラセンさんもやっぱり同時に自分の伝書蛇に目を向ける。


『まま』

「しゃあ」

「ん?」

「どうしたの? カンダくん」

『おそと、おきゃくさん』

「しゃあしゃあ」


 この2匹、おそらく同じことを言ってるんだと思う。つまり、お客さんとやらがやってきたってことだ。でも、何でわざわざ言ってくるかね。


「どうした? あんたら」

「お客さん、らしいんですけど」

「でも、この反応は変ですね。ジョウさん、行きましょ」

「はい」


 スオウさんはさすがに伝書蛇の言葉はわからないようで、俺たちに聞いてくる。それに短く答えて俺たちは席を立った。スオウさんも目を細め、立ち上がる。ついてくるんだろうな。




 玄関先。昨日スオウさんと会ったそこまでやってきたところで、外からがしゃんどしゃんと何か落っこちる音がした。慌てて外に飛び出すと、めっちゃぜーはー息してる馬が1頭と、それから。


「……はっ」

「え、ちょ、セージュ殿下っ!?」


 多分馬の背中から転げ落ちたんだろう。その横に倒れてる、女性。薄汚れた顔がちらっと見えただけで、誰かすぐに分かった。ラセンさんが馬を抑えに行ったんで任せることにして、俺は彼女に駆け寄って抱え上げた。

 ぐったりしてて、着てるドレスも何か汚れてて、なんだこれ。一瞬、ゾッとする感じがあって……すぐに消えたけど。


『そーだくん!』

「へ?」


 タケダくんの声に周囲を見回すと、ああ。王姫様の胸元から、よれよれと這い出してきた緑の伝書蛇。多分間違いない、フウキさんのとこで会ったソーダくんだ。


「お、おいおい、どうしたんだこりゃ」


 ほんとについてきたスオウさんが、状況に目を見張る。それから、俺の腕の中でぐったりしてる王姫様に目を向けて、眉をひそめた。


「誰だ、これ」

「……コーリマの王姫殿下、といえば分かりますか」

「ああ、シノーヨまで噂は届いて……」


 さすがに直で名前出すのも何だったんで、通り名の方を口にする。南の国までその呼び方は知れ渡ってて、助かったけど。


「……どういうことだ」


 スオウさんの声が、低くなった。俺だって知りたいよ、そんなこと。

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