129.帰還したら客人
「おう、カイル隊長ってのはあんたか。邪魔してるぜー」
久しぶりに宿舎に帰ってきた俺たちを出迎えてくれたのは、何か妙にでかい声の50代くらい、旅装束スタイルでガタイの良い髭面のおっさんだった。赤毛がグレンさんと似てるなーと思った俺は、思いっきり引いた顔したマリカさんのとこに急いでみた。
王都でフウキさんと面会した直後のタケダくんの言葉を、俺たちは重く見た。確かにイコンの特使さんがいるから黒の気配がする、ってのも否定できないけどさ。でも、ソーダくんの台詞は俺たちへの忠告だろ?
「ともかく、早めに王都を離れたほうが良いようだな」
「まあ、墓参りも済ませましたしねえ。帰るのに問題はないっすよ」
「そうですね。できれば、セージュ殿下にはご挨拶したかったんだけど」
「お忙しいからなあ。致し方あるまい」
とそういうわけで、お城を出たその足で荷物回収して王都を後にすることにした。どうにかゲキさんにだけは連絡できて、急用で帰りますと話すとすっげえ残念そうにしてたな。
で、1日半掛けて……俺はまた鞍の上で固まりつつ、どうにか帰ってきたら、知らないおっさんがいたわけだ。とりあえず、マリカさんから話聞いてみるか。
「お、お帰りなさいジョウさん」
「ただいまー。このおっさんどうしたの?」
「いえ、あの、昼前にいきなりやってきて隊長まだかって……」
何だそりゃ。ま、要するにカイルさんへのお客さんってことか。でも、カイルさんは知らない顔らしく警戒してるな、ありゃ。
「タケダくん、どうだ?」
『あのねー。ぐれんおじちゃんとよくにたにおいがするー』
「グレンさんと?」
この手の気配はタケダくんに聞いてみるのが一番、ということで得られた答えに俺は、ちょっとだけ目を見はった。別に髪の色が似てるから、とかそういうところで判断するやつじゃねえしな。
その俺を見て、それからすっげえ胡散臭そうな顔してるハクヨウさんを見て、おっさんは苦笑しながら髪をがしがしと掻いた。グレンさんよりも短い髪は、やっぱり赤い。
「自己紹介が先だな。シノーヨ公国で軍の1部隊まとめてる、スオウってもんだ」
「シノーヨの? ……隊長のタチバナ・カイルだ」
名乗ったおっさん、スオウさんに対してカイルさんも、一応名前を告げる。
シノーヨっつーたら、ユウゼよりも南にあるコーリマよりはちょっと小さい国だよな。暖かくていいな、とは思ったことがあるけど、詳しくは知らない。
「それで、そのスオウ殿はなぜユウゼに?」
「んー、いや、墓参り。先祖ってーか、知り合いがここの神殿に納められててな」
ハクヨウさんの問いに、スオウさんはにんまりと余裕の笑みで答える。それから、くるりと周りを見渡す。
「それに、久しぶりに弟子の顔も見たかったし」
「弟子?」
「……俺だ。悪い、遅くなった」
聞き返すムラクモの声にかぶるように、背後からお久しぶりの聞き慣れた声がした。慌てて振り返るとそこには、やっぱり赤い髪。グレンさんが、えらくうんざりした顔で立っている。
「おお、グレン。久しぶりだなあ」
「久しぶりですけど、来るなら先に文よこせと言いましたよね、師匠!」
「えー、グレンさんのお師匠ー?」
マジでグレンさんつながりかよ。というか、敬語で叫んで涙目なグレンさんってえらいレア物見た気がするぞ。うちの部隊じゃグレンさん、結構ベテランの域と言ってもいいもんなあ。
ん、あれ。
「ってことは、タクトの大師匠ってことになるんだ」
「おお、俺も孫弟子を持つ身になったらしいなあ。というかグレン、お前弟子なんぞ取れる身分になったのか」
「がっ、ガキ教えるっ、くらいなら、できますよ!」
ばんばんばん、と楽しそうにグレンさんの背中ぶっ叩くスオウさん、ものすごく力あるみたいだなあ。叩くたんびにグレンさん、台詞止まるもん。
「……そうか。そういうことなら、失礼した。これまでに少々面倒があってな」
『かいるおにーちゃん、だいじょうぶだよー』
あ。カイルさんが警戒解いた。まあ、タケダくんも平気な顔してるみたいだし、この人は大丈夫だって分かったんだろう。
「そういうことだからムラクモも、ナイフから手を放したほうがいい」
「……失礼しました」
カイルさんに言われて、ムラクモがいつの間にか懐に突っ込んでた手を抜き出した。あの中でナイフ握ってたのか、さすが抜け目ないな。……俺も、気をつけないと駄目か。
「にしても、シノーヨの人が何でまたユウゼに来られたんですか?」
「ん?」
落ち着いたところで、話を戻そうと思って俺は、そんなことを聞いてみた。いやだって、墓参りとか弟子のグレンさんに会いに来た、ってだけでカイルさんを待ってるわけはないだろうし。
そして、やっぱりあった別の理由を、スオウさんは口にした。
「いや、こっちの部隊がコーリマと組んで黒とやり合ったって聞いてな。それで話聞こうと思って」




