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11.いい湯だな

 番台の横を通ると靴を脱ぐ場所があって、その奥が脱衣場。そこには木製の、持ち物をしまっておくロッカーがある。結構大きめだけど、入れる荷物いろいろあるんだろうな。武器とか。

 元の世界だと普通に鍵かけるようになってるわけだけど、こっちはちょっと違った。いわゆる生体認証、というやつである。それも魔力で。

 といっても、荷物入れて扉閉めて鍵引き抜いたらついてる紐で手首なり足首なりに引っ掛ける、という見てくれは大変アナログなもの。鍵を差し込むときに、その鍵と引き抜いた時の持ち主を魔力で照合して両方合わないと開かない、んだとか。

 奥に行こうとすると、ユズさんが「ちょっと、ジョウちゃん」と呼んできた。


「靴も一緒にしまっておいてねー。特に傭兵部隊さんの靴はいいものが多いから、こそ泥が狙うこともあるんだよ」

「あ、はーい。ありがとうございますー」


 あ、それで脱ぐ場所の下に靴ほとんどないのか。ちらほら散らばってる古ぼけた靴は、何となくだけどご近所さんがひょいっと風呂入りに来たからだろうかね。

 慌てて靴拾って、空いてるロッカーをひとつ確保。ラセンさんとマリカさんとの並びに取ったのは、知り合いと隣り合ってるほうが何となく安心するから。いや、他にも空いているところはあるけれど。


「はい、これ換えの下着。服はそのままでいいよね?」

「そだね。この後買い物の予定だし」

「あー、はい。すいません」


 へらっと笑いながらマリカさんが渡してくれた下着を、自分のロッカーにしまう。

 そうだったそうだった、この後俺たちは主に俺のものを買いに行くのであった。服はその時に着替えればいいか、うん。試着室とかあれば、だけど。

 さて、とりあえずシャツを脱いで、パンツはすとんと足元に落として……ってところで、2人にじーと見られているのが分かった。あんまりまじまじと見ないで欲しい、特に俺の中身が男だって分かっているはずのラセンさん。


「……ジョウさん、おっぱい大きいわね」

「まじまじと見ないでもらえますか」

「見たくもなるわよ。何を食べたらこうなるのかしら」


 マリカさんのセリフには納得である。正直、それは俺も知りたい。

 というか、大きい胸というのは結構面倒なんだな。ブラ外して分かったけど、重い。この脂肪の塊と、男のあこがれである巨乳女性は常に戦っているんだ。そりゃ、机の上とかに載せたくなるよ。

 何となくだが、ちっぱい属性に理解ができそうだ。女性に負担をかけないという意味で、いや違うか。

 ちなみにラセンさんは俺よりちょっと大きめ、かな。マリカさんはちっぱいで、でもブラジャーは必要なくらいはある。さすがにブラのカップとか分からないので、どう説明していいのやら。

 ともかく全部脱いで、ロッカーにしまった。タオル1枚もらって、さすがに全開なのも何なので胸の前に垂らす。マリカさんとラセンさんは堂々としたものだ、頼むからちょっとは隠してくれ、メンタル男としては目のやりどころに困るんだけど慣れなきゃいけないんだよなあ。


「さ、入ろ入ろ……あ、ジョウさん、はい」

「何ですか、これ」


 そのマリカさんから、手のひらサイズの何かを2つばかりぽんと渡された。片方は白っぽい石鹸なんだけど、もう片方は固めのスポンジみたいな感じ。だけど、この世界にスポンジってあるのかな。


「海綿。それで身体洗うの」

「あ、そういうことですか」


 なるほど、ボディスポンジみたいなもんか。もにもにして、悪くはなさそう。

 ……ところで、海綿か。海綿体ってそういう………………考えるのやめよう。今の俺に、それはない。




 風呂は広くて、洗い場も浴槽も石造り。これはまあ、建物も似たようなもんだしこれが当然なんだろうな。

 床に細かい溝が彫られてて、滑り止めになってるみたいだ。さすがに壁に富士山とか、そういう絵はなかった。こっちの世界に富士山なんてないだろうけど。

 既に先客がちらほらいるんだけど、さすがに昼間だからかそんなに多くない。割とおばちゃんとか子供とかがメインで、ちょうど俺くらいの年齢のひとは俺たち3人だけ、かな。

 で、見よう見まねでざっとかけ湯をかけて、でかい湯船に入る。この辺も、あっちもこっちも変わらない。こっちはちょいと乾燥した気候なので、ホコリや砂を落とすためにかけ湯をするんだそうだ。以上、ラセンさん談。

 そして、やはり変わらないもの。


「ふはー」

「あー、やっぱお風呂は最高ー」

「太陽神さまのご好意に感謝、よねー」


 浴槽でたっぷりのお湯に浸かった時に、思わず口から漏れ出るこの声。何しろ外は寒かったし、やはり風呂はいい。男だろうが女だろうが、ついでに世界が違ってもこれが変わることはない。

 にしても、このお湯いい匂いがするなあ。柑橘系というか、ぶっちゃけ店の名前の通り柚子湯のような。あ、親が冬至にがっつり柚子湯してたからよく知ってるんだけど。


「お湯、いい匂いだけど何か入ってるのかな?」

「あー。冬は寒いから、干した果物の皮とか入れると温まるんだよねえ」

「ここはいつ来ても、何かしら入ってるけどね」


 楽しそうに教えてくれるマリカさんと、ちょっとお姉さんぶってる感じのラセンさん。それはともかく、やっぱり柚子湯、でいいみたいだな。

 ラセンさんとマリカさんは髪が長いので、ふたりとも頭の上にくるくるとまとめている。ピンか何かで止めてるんだろうが、器用に止まるもんだよなあ。

 と、不意にマリカさんが俺の顔を覗きこんできた。


「ジョウさん、ちょっとは落ち着いた?」

「え?」


 言われて、気がつく。

 確かに、どたばたやってたら割と気が紛れたというか、何というか。


「……落ち着いたというか、何か開き直るしかないというか」


 よし、胸を張って行くことにしよう。戻れないなら、帰れないなら、頑張るしかないしな。


「む。おっぱい大きいからって、威張らないでよ?」

「威張ってねえ!」

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